NEWS

2025.02.21

【レポート】国際ワークショップを開催しました!“The Paradoxes of Postwar Japan: Japan’s ‘Peace Constitution,’ the JSDF, and the Society”

2024年10月20(日)、立命館大学アジア・日本研究所(AJI)主催の国際ワークショップ“The Paradoxes of Postwar Japan: Japan’s ‘Peace Constitution,’ the JSDF, and the Society” が開催されました。

当日は、日本および米国から5名の研究者を迎え、以下の研究報告が行われました。

【報告者および発表タイトル】
・Dr. Garren Mulloy (大東文化大学・教授):“70 Years of Defence Policy, Strategy, Control, and Responsibility: Limited Oversight of Japanese Defence and Security from 1954”
・Dr. Paul Midford (明治学院大学・教授):“Defensive Realism and the SDF: A Military Shaped for Territorial Defense”
・Dr. 中原雅人(神戸大学・准教授):“Postwar Japan, Businessmen, and the Self-Defense Forces: The Growth of Support Networks for Japan's Postwar ‘Military’ during the 1960s”
・Dr. 角田燎 (本研究所・専門研究員):“Between Duty and Tradition: A Sociological Study of Retired JSDF Personnel and the Commemoration of the Imperial Japanese Military”
・Dr. Aaron Skabelund (Professor, Brigham Young University):“Inglorious, Illegal Bastards: Japan’s Self-Defense Force During the Cold War”

自衛隊と社会の関係を全体テーマに、それぞれの視点から自衛隊と社会の関係を多角的に捉える興味深い報告が行われました。
Mulloy教授の報告は、1954年の自衛隊創設から現在に至るまでの日本の防衛政策・戦略・統制・責任のあり方に焦点を当て、日本の防衛政策がどのように構成され、変遷してきたのかを明らかにするものでした。戦後の「文民統制」重視が、防衛政策・戦略の整備を阻害してきた側面を指摘し、1963年の三矢研究、1970年の三島事件、2016年の南スーダン日報問題など、統制と戦略の間に生じた問題を具体的に論じました。2022年の防衛関連政策が統制や調整を一定程度強化したものの、政策決定の責任所在や日本の防衛能力、同盟国・地域パートナーとの関係に未解決の課題が残ることが指摘されました。

Mulloy先生
発表を行うGarren Mulloy 教授

会場からは、文民統制と防衛政策決定の関係、自衛隊の統合運用の進展、そして「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の戦略的意義などについて質問が寄せられました。
Paul Midford教授の報告は、日本の自衛隊が憲法上の制約、安全保障孤立主義、太平洋戦争の教訓によってどのように形成されてきたかを明らかにするものでした。自衛隊は本質的に領土防衛に特化した軍事組織であり、災害救援や公共事業にも従事する一方、国外での武力行使は想定されていません。1960年代以降、日本の世論は自衛隊を概ね肯定的に捉えつつも、あくまで領土防衛と人道支援の組織として認識してきました。太平洋戦争の教訓(世界は防衛優位であるという認識)や、戦後の安全保障孤立主義は、日本の防衛戦略を防衛リアリズムの予測に合致した形で発展させました。結果として、自衛隊の攻撃的・域外軍事能力は依然として控えめであり、現行の国家安全保障戦略・防衛戦略の期間中はその傾向が維持される見通しです。

Midford先生
報告を行うPaul Midford教授

会場からは、自衛隊の役割変化、領土防衛と地域安全保障の関係、そして日本の安全保障政策が今後どのように進化するのかについて質問が寄せられました。
Dr.中原雅人の報告は、1960年代における自衛隊支援ネットワークの形成に焦点を当て、自衛隊支持の高まりの背景を分析しました。1990年代の大規模災害が転機とされる一方、1960年代から防衛協会の設立を通じて支持が拡大していたことを指摘しました。1963年の北陸豪雪を契機に各地で防衛協会が設立され、松下幸之助ら経済界の支援により全国的なネットワークが形成されました。その動機として、①反自衛隊文化への対抗、②国民の防衛問題への無関心への懸念、③革新勢力の安保廃棄論への対抗が挙げられました。本研究は、自衛隊支持の基盤が1960年代から築かれていたことを示し、会場からは地域差や経済界の役割について質問が寄せられました。

中原先生
報告を行うDr.中原雅人

Dr.角田の報告は、退役自衛官の戦友会参加が自衛隊のアイデンティティや社会的役割に与える影響を分析しました。彼らは戦没者慰霊を通じて自衛隊の社会的地位向上を図る一方、旧軍の失敗から学ぶ姿勢も示しています。しかし、靖国神社との関係や歴史認識の問題が複雑な課題を生んでいます。会場からは、旧日本軍と自衛隊の違いを元自衛官がどのように認識しているのかについて質問が寄せられました。

Dr.角田
発表を行うDr.角田燎

Aaron Skabelund教授の報告は、冷戦期における陸上自衛隊の正統性確立の過程を分析しました。戦前、日本軍は国民の崇敬を集めていましたが、戦後の平和憲法や教育改革、反軍事的風潮により、自衛隊は長く社会的な支持を得られませんでした。報告では、警察予備隊・保安隊を経て発展した陸上自衛隊が、基地公開、災害派遣、土木支援、スポーツイベント協力などを通じて社会的受容を獲得しようとした過程を検証しました。これらの活動は、社会の意識を変えるだけでなく、自衛隊内部の価値観や組織文化も形成し、冷戦期の防衛アイデンティティを確立しました。このアイデンティティは冷戦終結後も継承され、自衛隊と日本社会に影響を与え続けています。

Skabelund先生
報告を行うAaron Skabelund 教授

会場からは、自衛隊がどのような「国民」の支持を求めていたのかについて質問が寄せられました。
以上の内容を踏まえて、最後に登壇者から自衛隊と社会の関係、その研究の今後について議論が行われ、本ワークショップは締めくくられました。

集合写真
当日の会場参加者を含めて記念撮影