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2025.12.18

Asia Pacific Conference 2025に参加しました!

2025年11月29日(土)から11月30日(日)にかけて、立命館アジア太平洋大学においてAsia Pacific Conference 2025が別府市にある立命館アジア太平洋大学にて開催されました。今回は、アジア・日本研究所を軸とした2つのパネルでの研究発表を行いました。以下は、パネルごとの報告です。

“Toward a Greener Future: Transforming Agriculture through Environmental Technological Innovations”

《発表者および発表タイトル》
・司会:Dr. Thi Thuong NGUYEN(立命館アジア日本研究機構 専門研究員): “Recycling Corncobs as a Substrate in Constructed Wetlands for Heavy Metal Removal from Mine Drainage”
・Dr. Thanh Tam HO(立命館大学国際関係学部 助教):“The Benefits of Sustainable Agriculture Practices on Rice Productivity and Soil Health: A Case Study in Long An Province, Vietnam”
・Mr. Najeebullah JAMAL(立命館大学理工学研究科 博士課程後期課程):“Prediction of Suspended Solids in Afghanistan’s Kokcha Basin Using Machine Learning: Integrating River Flow and Climate Variables”
・Mr. Aziz Amin ABD(立命館大学理工学研究科 博士課程後期課程): “Decolorization of Reactive Black 5 by Anaerobic Biodegradation and Toxicity Evaluation of Its Metabolites”
・Dr. Thi Thuong NGUYEN: “Recycling Corncobs as a Substrate in Constructed Wetlands for Heavy Metal Removal from Mine Drainage”

【パネルの概要】
このパネルでは、立命館大学から4名の発表者が持続可能な資源管理に関する革新的なアプローチを反映した研究を紹介しました。各発表は、持続可能な農業、環境工学、グリーン技術を統合した新たなソリューションをそれぞれ強調するものです。パネル全体を通して、資源効率を高め、環境保護を強化し、より一層持続可能な未来に向けてレジリエントな農業・環境システムを構築するために、科学的進歩を実践的な戦略にどのように転換できるかを検討しました。

【各報告の概要】
・Dr. Thanh Tam HO(立命館大学国際関係学部 助教):“The Benefits of Sustainable Agriculture Practices on Rice Productivity and Soil Health: A Case Study in Long An Province, Vietnam”

Dr. Thanh Tam Hoによる最初のプレゼンテーションは、農村部の生計と国家の食料安全保障にとって稲作が依然として不可欠な地域であるベトナムのロンアン省を事例として、持続可能な農業の実践が米の生産性と土壌の肥沃度に及ぼす影響を調査するものです。ベトナムでは低炭素で環境に優しい農業システムに移行するにつれて、多くの米農家は化学肥料や農薬への依存を徐々に減らしています。彼女の研究は、三作期 (2023~2024年)にかけて稲作農家で実施された圃場実験に基づいており、これらの実践を採用した場合の効果を測定するために差分の差分法アプローチ(a difference-in-difference approach)を用いました。その結果、持続可能な農業は従来の方法と比較して、肥料と農薬の投入量が約10%削減されることが示されました。持続可能な農法への移行によって米の収量は当初20%減少したものの、土壌肥沃度 (細菌バイオマスや総炭素などの指標を含むSOFIX 〔土壌肥沃度指数〕 法を用いて評価)は大幅に改善されました。こうした知見は、短期的な生産性の損失と長期的な土壌の健全性の向上との間のトレードオフを浮き彫りにするものです。また、発表では、ベトナムにおける気候に対応したコメ生産への移行を成功させるためには、政策支援と農業者訓練が不可欠であることが強調されました。

・Mr. Najeebullah JAMAL(立命館大学理工学研究科 博士課程後期課程):“Prediction of Suspended Solids in Afghanistan’s Kokcha Basin Using Machine Learning: Integrating River Flow and Climate Variables”
次に登壇したNajeebullah Jamal氏は、機械学習を用いてアフガニスタンのコッチャ盆地の浮遊物質 を予測する研究を紹介しました。彼は、アフガニスタンの乾燥気候、限られた植生、進行中の森林伐採などが土壌浸食を加速し、洪水時に多くの土や砂が流れ込む一因となっていることを強調しました。水中に増えすぎた浮遊物質は灌漑用水路を混乱させ、貯水池の貯蔵能力を低下させ、水力発電の生産を阻害し、下流地域の食料・水・エネルギー安全保障を脅かします。2014年以来、毎月のSSデータが収集されていますが、短期 (日)の 変動を理解することは、効果的な水資源管理と生態系保護にとって極めて重要です。この問題に対処するために、K-最近傍(KNN)、ランダムフォレスト、人工ニューラルネットワークの3種類のAIモデル(機械学習モデル)を開発され、これらのモデルを使って、2008年から2022年までの1日ごとの浮遊物質(SS)の推定データを、詳細に作り出すことが可能になりました。これらのモデルの中で、KNNモデルが最も高い精度(R2値:0.56–0.75)で浮遊物質の変化を予測できることがわかりました。長期的な傾向を分析したところ、この地域の浮遊物質ははっきりと増加していることが判明しました。その増加量は33~157 kg/km`2́/decadeで、特に川の上流にあたる山岳地帯で、この増加が顕著でした。Jamal氏は、これらの結果は気候の変動性と土地利用の変化によって引き起こされる堆積リスクの増大を反映しており、水の利用可能性、農業生産性、長期的な流域管理に重要な意味を持つことを強調しました。

・Mr. Aziz Amin ABD(立命館大学理工学研究科 博士課程後期課程): “Decolorization of Reactive Black 5 by Anaerobic Biodegradation and Toxicity Evaluation of Its Metabolites”
次に、Aziz Amin Abd氏は、色の濃い合成染料を多く含み、生態系に悪影響を与えるバティック産業の排水問題への取り組みに関する研究発表を行いました。同士の研究は、一般的に使用される染料「Reactive Black 5 (RB5)」の処理方法を調査するものです。研究では、T4と呼ばれる特定の細菌株を使い、酸素がない状態(嫌気的条件)でRB5染料を分解させます。このT4株は非常に強力で、高濃度の染料であってもわずか3-7日間で98%まで無色化(脱色)することに成功しました。しかしながら、以上の脱色プロセスで分解物(芳香族アミンなど)が生成されました、その分解物(芳香族アミンなど)を分析したところ、これらは環境指標生物であるオオミジンコに対し、元の染料よりも強い毒性を持つことが判明しました。この結果は、脱色されても、毒性が消えたことにはならないという事実を示しています。したがって、Abd氏は、バティック排水を効果的に処理し、環境へ安全に排出するためには、T4株のような色を取り除く細菌による処理だけでなく、発生した有毒なアミンをさらに分解できる追加の微生物プロセスも必要であると強調しました。色の除去と毒性の低減の両方を確実にするための多段階の微生物処理が不可欠である、というのが本研究の結論です。

・Dr. Thi Thuong NGUYEN: “Recycling Corncobs as a Substrate in Constructed Wetlands for Heavy Metal Removal from Mine Drainage”
最後の発表者はDr. Thi Thuong Nguyenです。彼女は、酸性鉱山排水(acid mine drainage)という有害な廃水から重金属を取り除くための、費用対効果が高く環境に優しい方法として人工湿地に関する研究発表を行いました。Dr. Nguyenは、従来の人工湿地をさらに効果的にすることを目指して、ろ過材(基質)として、リサイクルしたトウモロコシの芯を利用する方法を紹介しました。彼女の研究では、トウモロコシの芯を多孔質で炭素を多く含むバイオ炭(農業廃棄物由来の多孔質で炭素を豊富に含む材料)に変換し、それをろ過材として使用するものです。さらに外部炭素源として植物リターブロスを加えて、金属除去を担う微生物の働きを刺激する工夫をしました。比較対象として従来の基質である砂利も使用し、トウモロコシの芯のシステムと並行して、ヨシを植えた湿地ユニットを稼働させました。実験の結果、全てのシステムが高い中和能力を示し、酸性の排水のpHを6.8~8.4の中性付近まで改善できました。実験ではpH 5.3で66.7 mg/Lのマンガン、12.3 mg/Lの亜鉛、およびその他のミネラルを含む合成AMDを、2~4日間の水力学的滞留時間で連続的に供給しましたが、それらの重金属の除去効率も高く、マンガンは57.5~76.7%、亜鉛は89.4~96.7%と、他の金属(カドミウム、銅、鉄、鉛)は65.6~99.6%の除去効率を示し、結果として大幅に除去されることが分かりました。このうち、植物の落葉培養液を用いたトウモロコシの芯のバイオ炭システムが、吸着能力の向上と微生物の働きが強化されたことにより、一貫して最高の性能を達成しました。微生物分析により、金属の沈殿に寄与するマンガン酸化細菌や硫酸塩還元細菌の存在が確認され、亜鉛の除去が主に水酸化物としての沈殿や微生物が作った酸化物への吸着によって起こっていることが示唆されました。彼女の発表では、トウモロコシの芯のバイオ炭は人工湿地の有望な基質であり、農業副産物を活用することで処理コストの削減、環境の持続可能性の向上、そして地域社会のグリーン廃水処理技術へのアクセス拡大につながると結論づけられました。

本パネルの登壇者および参加者と記念撮影
本パネルの登壇者および参加者と記念撮影

“Modern Japanese Studies Focused on Continuity: Historical and Sociological Perspectives”

【発表者および発表タイトル】 
・司会:Dr. Marika TSUKAHARA(塚原真梨佳、立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)
・Dr. Marika TSUKAHARA(塚原真梨佳、立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“The Dream and Failure of the“Hinomaru Fighter”: The Social Significance of Domestic Fighter Development in Postwar Japan” 
・Dr. Kazutaka SOGO(十河和貴、北海学園大学法学部政治学科 准教授):“ “ Imperial Assimilation” Leaded by Civil Governor System:Focusing on the Imperial Japan’s Colony of Taiwan after the Focusing of “Manchukuo ” 
・Dr. Ryo TSUNODA(角田燎、立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“The Construction of War Memory in the Postwar Imperial Japanese Naval Community: Generational Differences in the Narratives of the Suikō Newsletter” 

【セッション概要】
本セッションは、歴史学や社会学を専門とする研究者による発表を通じて、政治制度、戦争・軍事問題、社会意識などのトピックについて、近代日本と現代日本の連続性を探ることを目的に開催されました。

3つの発表を通じて、戦前と戦後の連続性について様々な論点が提示されました。発表を通じて、従来の戦前と戦後を断絶した時空間として捉える歴史観とは異なり、近現代日本を一つのまとまりある時空間として捉え、その歴史的軌跡を把握するための見方について議論が深められました。

最初の発表者であるDr.塚原は“The Dream and Failure of the“Hinomaru Fighter”: The Social Significance of Domestic Fighter Development in Postwar Japan” と題し、戦後軍用機開発が再開された1950年代から1960年代初頭にかけて、軍用機開発を中心とした軍事技術開発の国産化についていかなる社会的議論が存在したのかについて報告を行いました。

分析の結果、日本の再軍備化防止を目的に1945年から1952年まで一切の航空機開発・製造が禁止され7年の技術的空白が生じていた状況から、米軍機のオーバーホール、自衛隊機のノックダウン生産・ライセンス生産を通じて航空産業の再興が図られたこと、そしてその再興は、各企業が温存していた戦前戦中の戦闘機開発の経験を持つ技術者や設備といった人的・物的資本が基盤となってなされたことが明らかになりました。Dr.塚原は、戦前から継承された資本は人や物だけではなく、国産技術開発に対する技術者たちの強い執念や信念といった意志の継承があったことを指摘しました。

また、技術者たちが研究開発を含めた「技術の国産化」を強く推進したのに対し、防衛庁内部の用兵側やマス・メディアにおいては、「開発能力」と「生産能力」の区別が曖昧で、生産能力さえあれば開発能力を必ずしも重視しない姿勢があり、技術者と日技術者の間で「技術の国産化」に対する意識のズレがあったことも指摘されました。

報告を行うDr.塚原
報告を行うDr.塚原

これらの分析結果から、Dr.塚原はまず、戦後の防衛産業の再編には戦前から継承された様々な資本が土台となっており、とりわけ戦前から航空機開発に携わっていた技術者たちの国産開発に対する強い意志が戦後の国産航空機開発を支えたと結論づけました。しかしその一方で、技術の国産化についての社会意識は必ずしも一枚岩ではなかったことも明らかとなり、その意識のズレが後の国産航空機開発や安全保障政策にも影響を及ぼしていった可能性が示唆されました。

続く発表者のDr.十河は“ “ Imperial Assimilation” Leaded by Civil Governor System: Focusing on the Imperial Japan’s Colony of Taiwan after the Focusing of “Manchukuo” ” と題し、植民地台湾の統治環境を対象に、日本本国で政党政治が発展する中で進められた文官総督制が、台湾の現地状況にどのような影響を与え、またそのことが1930年代にどのような結果をもたらしたのかについて報告を行いました。Dr.十河は、1920年代に本国の政党政治のもとで発展した民主的政治が、植民地における皇民化政策、さらには総力戦体制の構築の“土台”を準備したのではないかという仮説の下、1920年代以降の台湾統治の発展過程を確認したうえで、1935年6月に開催された第8回台湾総督府評議会(台湾総督府評議会)の意義を再評価しました。とりわけ、この時期を 原敬が提唱した「内地延長主義」政策が統治原理として完全に確立した転換点 と位置づけ、その歴史的な位置を明らかにしました。

報告を行うDr.十河
報告を行うDr.十河

分析の結果、特に1932年以降台湾統治が二大政党制の帰結によって大きく左右されていたこと、そして、二大政党制・文民総督制度・内地延長主義が互いに密接に結びついていたことが指摘されました。しかし、この二大政党制は頻繁な総督交代を招き、台湾人エリートと台湾在住日本人実業家という二つの台湾の支配者層双方の期待する政策が実行されなかったことや民族間の分断を生み出していたことも同時に指摘されます。

こうした分析の結果から、二大政党制の発展は、台湾側・日本側の双方の期待を高め、政策要求をいっそう活発化させ、一方では台湾人エリート層から義務教育の実施や精神的皇民化政策が提案され、他方では台湾在住の日本人実業家層から南進政策の推進が強く求められたことが明らかにされました。そしてこうした展開は、のちの総力戦体制の基盤を円滑に形づくることに結びついたと結論づけられました。

三人目の発表者Dr.角田は“The Construction of War Memory in the Postwar Imperial Japanese Naval Community: Generational Differences in the Narratives of the Suikō Newsletter” と題し、海軍士官の戦友会である水交会が発行した会報を主な手がかりとし、戦後の元陸海軍軍人イメージがどのようなメディア環境や組織条件のもとで形成されてきたのかについて報告を行いました。

Dr.角田は、戦後、社会的発言を行うことに対して抑制的であった海軍関係者と暴露的な発言が多かったとされる陸軍関係者の相違は、それぞれの戦友会が発行していた会報のメディア構造の違いにあると指摘しました。特に、水交会会報では同期生通信欄が設けられなかったことで、陸軍に比して世代を超えた意見表明や内部批判が誌面上で展開されなかったことが明らかにされました。また、世代構成と参加感覚にも相違が見られ、若年層の参加が少なかった水交会では、若年世代の声や不満、葛藤は誌面には表れにくい構造になっていたといいます。そして、戦争責任に対する「反省」をめぐる議論についても、陸軍関係者の間では戦争責任議論の試みと挫折の過程自体が会報を通じて共有されたのに対し、海軍関係者間においては一部の元高級士官による限られた場でのみ行われ、若年世代に共有されなかったことが指摘されます。

報告を行うDr.角田
報告を行うDr.角田

分析の結果、戦後日本において広く流通してきた「海軍は統制された沈黙を守ったのに対し、陸軍は内部対立や暴露的な言説が多かった」というイメージが、単に戦時中の組織文化や戦争体験そのものの差からだけ生まれたのではないことが明らかにされ、世代構成や人員規模、戦友会の組織文化、会報メディアの編集方針と誌面構成が相互に結びつき、その結果として、海軍=統制・沈黙/陸軍=対立・暴露という認識が、戦友会の会報メディアを通じて形成・再生産されてきたと結論づけられました。

本パネルの発表者(左から:Dr.角田、Dr.塚原、Dr.十河)
本パネルの発表者(左から:Dr.角田、Dr.塚原、Dr.十河)