研究プロジェクト紹介

共創領域

新たな社会経済発展モデル作成プロジェクト:アジアでの環境福祉国家の実現のために

プロジェクトリーダー
産業社会学部

江口 友朗 准教授

「市民社会」を中心に据えた新しい社会経済成長モデルの構築を目指す

この20~30年の間、アジア諸国は急激に発展を遂げており、近い将来、先進国と同様に、高齢化とそれに伴う労働人口の減少が始まると予測されています。環境破壊や資源の枯渇など地球規模で多様な問題が起こっている現代では、かつて先進国が経験したような工業化政策による産業発展は見込めません。アジアの国々は、環境消費の抑制と産業の高度化を同時に進めながら、来る高齢社会に必要な「環境福祉国家」をつくっていかねばならないという極めて難しい課題に直面しているのです。本プロジェクトは、こうした現実を踏まえ、アジア全体の持続的な未来を考えるための「見取り図」を作成しようとしています。アジアにおける「市民社会」を中核に据え、「国家」や「市場」を中心としたこれまでの社会経済発展モデルとは異なる形の新たな社会経済成長モデルを構築することが目標です。

プロジェクトでは、「労働・雇用」、「社会保障」、「環境・産業構造」、そして「市民社会」の4つの部門で研究を進めています。まずアジア各国の実情を把握し、各種統計指標や現地調査結果について討論を重ねる一方、環境・福祉の先進国であるヨーロッパの事例も研究し、経済的、政治的な側面からアジアへの適応可能性を考えます。最終的には研究成果をもとに、アジア各国で現実の政策に資する具体的な産業・福祉・環境の政策を提起することを目指しています。

とりわけ本プロジェクトでは、従来の「国家」や「市場」の分析では見過ごされてきた「市民社会」に注目します。アジアにおける「市民社会」とは何かを詳らかにするとともに、例えば公的な社会保障制度の代わりに家族や友人、恋人間での金銭のやり取りが盛んなタイの事例などを対象に、「私的(プライベート)な関係性」や「非公式な人的ネットワーク」の社会経済的な機能・役割を探ります。

多彩な学術的背景を持つ国内外の研究者が集結し、有機的に関わることで、より広い視野で、立体的・多面的なアジアの全体像を捉えることができます。こうした学術横断的な研究を目の当たりにすることが、若手研究者の育成にも資することになると考えています。

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