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  • ISSUE 15:
  • 宇宙

多様性を認め合い、「一つの地球」に生きる

社会・大学で見過ごされやすい留学生が抱える困難を理解する。

鈴木 華子総合心理学部 准教授

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2021年4月、欧州宇宙機関(ESA)は宇宙飛行士を新たに募集するにあたり、宇宙における真の多様性を実現するべくジェンダーの多様化と障がい者雇用を促進する方針を明らかにした。現代の宇宙開発は国際的な協力のもとで進められており、宇宙空間においても多様な国籍の宇宙飛行士が協力してミッションを遂行するのが当たり前になっている。

宇宙空間はいわば現代の地球社会の縮図だ。いまや国籍だけでなくあらゆる社会的属性を超えて多様な人との協調・共生なしに社会の持続的発展は望めない。それだけに多様性やマイノリティの理解を促進する研究の重要性も増している。鈴木華子も「多様性」に関心を持つ研究者の一人だ。人種、民族、ジェンダー、性的指向、宗教、心身機能、社会的階級、年齢など多様な社会的属性の中でとりわけ周縁化されやすい人たちに焦点を当て、カウンセリング心理学の視点からメンタルヘルスや心理的支援について研究している。近年の成果の一つに日本で暮らす留学生を対象にした「予防的心理支援モデル」の展開がある。

「法務省の発表によると、2019年末時点で日本に暮らす外国人は260万人を超え、そのうちのおよそ30万人が留学生といわれています。『外国人』としての生活にはさまざまな困難が伴い、ストレスやアイデンティティの変容を経験することが報告されています」と鈴木は解説する。そうした人々の心理的側面を支援するモデルの開発にあたり、鈴木はまず留学生が実際「何に困っているのか」を洗い出すことから始めた。日本で8ヵ月以上暮らしている中国やインドネシア、ブラジル、ナイジェリアなど7つの国籍の大学院生10名にインタビューを実施し、「困っていること」を聞き出した。

「調査の結果、最も困っていることとして挙げられたのが、『言語』です。他に『住むところ』や『食べ物』に困難を感じていることも明らかになりました。また家族や友達といった心身の支えとなる人たちと切り離されたことによる『サポート資源の減少』がメンタルヘルスに影響を及ぼすこともわかりました。その他『日本人の内向性』が、留学生自身が外部に助けを求めるのをためらう一因となったり、『差別的対応』に傷つけられたといった声も聞かれました」と鈴木。次に、これらの「困りごと」の実態と、それをいかにして乗り越えたかという対象者の実体験を相対化し、予防的心理支援モデルへと落とし込む。「身体的には健康でも、精神的に『健康感』を得られなければ本当に健康とはいえません。予防的心理支援においても、『問題となり得る行動を予防』することに加えて『健康につながる行動を促進』することの両方を実現することが重要です」と鈴木。例えば「日常的な日本語会話によって自尊心の低下を防ぐ=問題行動を予防する」だけでなく、「他者と『つながる』機会を増やしソーシャルサポートを増やす=健康につながる行動を促進する」という両面の支援が必要だという。それを踏まえた上で、鈴木は今までに提唱されている「予防モデル」をベースに大学における「予防的心理支援モデル」を構築した。

多様な人が暮らしやすくなるにはいったいどうすればいいのか。「留学生をはじめ外国人が日本で直面する困難には、本人には解決しようのない問題が少なくありません。それらを個人に押し付けず、社会や環境の問題としてとらえる視点が必要です。またマジョリティに位置付けられる人々も自分自身の社会における役割に自覚的になることも重要です。いわば『予防的支援』の名のもとに社会そのものが変容する必要があると考えています」と鈴木は強調した。

さらに今、社会的属性やアイデンティティは単一のものではなく、より複雑で複合的なものとして理解されるようになりつつある。日本において「外国人」であっても同時に「黒人」であったり「女性」であるなど、さまざまなエスニシティやジェンダーに当てはめられ、重複的な困難や差別にさらされることがある。鈴木はこうした「交差性」に着眼し、とりわけ「外国人」として一つの社会的属性で捉えられがちな在日外国人の精神的健康を交差性の理論的枠組を用いて検討しようとしている。日本で暮らす外国人を対象としたアンケート・インタビュー調査を実施し、複合的な要因が絡み合う外国人のアイデンティティと社会との関係やメンタルヘルスとの関連を明らかにしたいという。

鈴木は言う。「私たちが生きているのは、『一つの地球』です。国や民族などといった枠組みを超えて、あたかも宇宙から地球を眺めるように自分が今いる場所を見つめる視点を大切にしたいと思っています」。

鈴木 華子SUZUKI Hanako

総合心理学部 准教授
研究テーマ

多文化カウンセリング、多様性とメンタルヘルス、アイデンティティの交差性、留学生の文化変容・アイデンティティ発達・キャリア発達、留学生を対象とした包括的な予防的心理援助のモデルの構築

専門分野

カウンセリング心理学