難治性不妊症や疾患、同性カップル、パートナーに恵まれない。さまざまな事情から、望んでも自然生殖で子をもうけることができない人がいる。そうした人が「子どもをもち、家族をつくりたい」と願った時、第三者の精子や卵子の提供や代理懐胎といった生殖補助医療を利用する、あるいは養子縁組や里親など社会的養護を担うといった選択肢がある。しかし、日本では法律や社会システム上の課題があり、すべての人に扉が開かれているわけではない。LGBTQの人々にとってそのハードルはとりわけ高い現状がある。
二宮周平は、個人の尊重と男女平等に基づく家族法の構築に関心を持ち、子どもの権利保障などの問題に法学の観点から切り込んでいる。親の別居や離婚において子の権利を保障するシステムの構築に取り組むのもその一つだ。加えて現在はLGBTQの人々の家族形成を支援するシステムについても研究している。
「日本にはいまだ生殖補助医療の利用に関する法律がなく、日本産科婦人科学会の会合(自主規制)は、第三者の提供精子の利用のみ、法律婚夫婦に限って認めるにすぎません」として二宮は、異性カップルが婚姻し子をもうけるという旧来の社会通念の範囲内での運用に留まっている現状を指摘する。加えて二宮は日本の生殖補助医療において、子の「出自を知る権利」がまったく配慮されていない点を問題視する。精子ドナーは匿名とされ、ドナーの精子で生まれても、子はその事実を知らされず、遺伝性疾患の有無を始めとしたドナーの情報を確認することもできないという。何より「自分は誰の子なのかを知ることは子のアイデンティティの確立において極めて重要です」と二宮は強調する。また「養育する親が信頼と愛情に基づく安心感の中で子に出自を告知することで、子は自分が親にとってかけがえのない存在であると認識できます。これは子が安心できる養育環境、親子関係を築く責務を親に課すことにもつながります」と言う。
さらに二宮は精子や卵子の提供者(ドナー)や代理懐胎者の尊厳の重要性も説く。「ドナーの尊厳とは、利他的行為として子の出生に寄与し、出生後は自分の存在を明らかにして子の成長に関わり、見守ること。求められればドナーになった理由を話したり、子と交流し、子のライフストーリーをつなぐことが求められます」。それによって子は自己肯定感を持つことができるようになる。「すなわちドナーの尊厳と子の出自を知る権利は表裏一体なのだ」と二宮は言う。
世界には商業的代理懐胎を認める国があるが、そこでは圧倒的な経済格差を背景に、依頼者にとって都合のいい国で代理懐胎の市場を開拓してきた。代理母の尊厳はほとんど認められず、出産後は依頼者が新生児を国に連れ帰ってしまうため代理母と子の関係は絶たれてしまう。二宮によると先進的な国では代理懐胎で生まれた子と依頼者家族が代理母やその家族と交流することを推奨する動きもあるという。
「こうした生殖補助医療をめぐる課題の解決が先決」としながらも、二宮はLGBTQの人々への生殖補助医療の利用を認める法整備の必要性を説く。
また家族形成には、養子縁組や里親といった社会的養護を担うという選択肢もある。二宮によると、日本では年間7万件弱の養子縁組があり、その3分の2が未成年の子を養子とするが、そのほとんどは連れ子養子や孫養子で、家庭裁判所の許可を必要とする未成年者養子縁組は年間600件ほどだ。法律婚夫婦であれば、未成年者と夫婦共同で養子縁組をすることができる。また、子どもの福祉のために実親との法的な親子関係を消滅させる特別養子縁組も法律婚夫婦にのみ認められており、法律婚ができないLGBTQの家族形成には役立っていない。
もう一つの里親制度は、何らかの事情で家庭での養育が困難な子に家庭環境での養育を提供するものだ。同性カップルも里親になることが可能だが、里親に子を委託する際には実親の同意が必要で、現実には同性カップルへの委託は拒否されることが少なくないという。
二宮は、こうした生殖補助医療や社会的養護をめぐる課題を解決し、LGBTQの人々の家族形成を後押しする方法を探っている。当事者や、当事者団体へのアンケートやインタビュー調査で実態把握を試みている。その結果から「法整備を待たず、実践が先行している」現実が明らかになった。「すでにさまざまな方法で子をもち、家族を形成しているLGBTQのカップルは数多く存在しています。法整備を推進するべく政策提言を行うとともに、当事者調査から『グッドプラクティス』を収集、発信することで社会的な認知度を高めていくことにも貢献したい」と二宮。今後は医療機関や行政、福祉団体など関係者の連携システムの構築も図っていくという。
「すべての人の性的指向、性自認やライフスタイルを尊重し、真の社会的ダイバーシティの実現に貢献したい」。高い理想を掲げ、今後も研究と実践の両面から実現に力を尽くしていく。