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  • ISSUE 14:
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現代に生きる若者の「居場所」はどこにあるのか

時代とともに変わりゆく「居場所」その意味を問う

御旅屋 達産業社会学部 准教授

    社会科学|
  • QOL
    sdgs08|

「あなたの『居場所』はどこですか」。そう問われたらどのように答えるだろうか。
「学校」や「職場」といった物理的な空間を答える人もいれば、「友人と一緒にいること」といった人との関係性や「部長職」など社会的な役割を「居場所」と呼ぶ人もいるだろう。「居場所」とは不思議な言葉だ。「特定の場所だけでなく、安心感や自尊感、所属感など『社会との関係』からポジティブな感覚を得られる空間が『居場所』と呼ばれるようになってきました」。そう説明する御旅屋達は、「居場所」という言葉の意味の変遷を追うとともに、現代における若者の自立支援の形態の一つとしての「居場所」に着目して研究している。

御旅屋によると、単に物理的な場所を表す言葉だった「居場所」の意味が揺らぎ始めたのは、30年あまり前。次第に心理的、関係論的、存在論的な次元で語られるようになり、「社会的活動の場における親密な関係によって形成されるもの」としてその意味を拡張させてきたという。主要3新聞の新聞記事から「居場所」という言葉を拾い上げ、その数の推移や意味の変遷を分析した御旅屋の研究がある。それによると初めて「居場所」が生き方と結びつけて使用されたのは1978年、「家庭に亭主の『居場所』がなくなった」という記事だった。「これを見ると、最初に揺らぎ始めたのは家庭における亭主・父の『居場所』だったといえます。しかしそれでもまだ当時の成人男性には『職場』という居場所がありました」と御旅屋は言う。

1980年代以降、「居場所」という言葉はどんどん意味の広がりを見せ始める。1990年前後から少年や若者によるセンセーショナルな事件の報道とともに、社会における「居場所のなさ」が犯罪の原因、病理として語られるようになったという。「2000年代に入るとさらに変化を遂げ、厳しい就職状況の中で『居場所』が若者支援の枠組みと接続して語られるようになってきました」と解説した。 「就労」の文脈で「居場所」が重視される背景には、日本独特の「居場所」の捉え方があると御旅屋は指摘する。2012年に実施された都市圏の大卒者(20~39歳)の国際比較調査によると、「仕事をするうえで大切なもの」として諸外国が「賃金・福利厚生」を最も重視しているのに対し、日本の若者だけが「人間関係」を最上位に挙げたという。「だからこそ『仕事がない』ことが『居場所のなさ』になり、『人間関係』から切り離されることに直結する構造がある」と御旅屋は指摘する。2000年代にはそれが「ひきこもり」問題などのかたちで浮き彫りになってきたと語る。

雇用情勢が厳しさを増した2000年代以降、就労に困難を抱える若者の存在が社会問題となってきた。その中で「地域若者サポートステーション」が全国に設置されるなど、行政によって若者支援が制度化されるようになる。

御旅屋は、こうした若者自立支援施設の一つで、特に「ひきこもり」経験のある若者を対象に若者自立支援をどう受け止めているかを調査・研究した。その中で御旅屋は、安定した仕事を得て出て行くことを目的としているはずの自立支援が「居場所」として活用される過程について明らかにしている。「利用者たちが『獲得した』と語るのは、いわゆる職能ではなく『元気』や『コミュニケーション能力』『友人』『生活リズム』といったものでした。支援者からも『居場所』から出て行くためには、まず『居場所』にどっぷり『浸かって』、人間関係を構築したり、生活を立て直すことが重要だと語られました」と言う。「職場」が社会的関係を取り結ぶ「居場所」と位置づけられる日本で若者の自立を支援するには、就労以前に「居場所づくり」の実践が求められるというわけだ。

その結果、就労しても仕事に定着できずに支援の場に戻ってきてしまうといったアンビバレントな問題も起こっていると御旅屋。またこうした支援のかたちは就労実績に直結しないため、行政が行う支援としては予算がつきにくいといった点からも「居場所」を通じた支援の難しさを論じる。

さらに御旅屋は、若者支援施設が抱えるもう一つの課題として、就職がうまくいかない若者に発達障害や精神障害が疑われる者が多いことを指摘する。「しかし若者支援施設における『居場所』で形成された利用者同士の関係性が、当事者が自身の困難を障害と位置づけ、別の就労の形を探る契機として機能していることもあります」と利点にも言及する。

そして今、ひきこもりを経験した当事者が自ら「居場所」をつくろうとする動きが起こっていると御旅屋は言う。「国や自治体による『居場所』づくりから当事者による『居場所』づくりに活動は移ってきています。今後はそれにも注目していきたい」。

「居場所」は私たちの人生にどのような意味をもつものになるのか。御旅屋の研究を待ちたい。

御旅屋 達OTAYA Satoshi

産業社会学部 准教授
研究テーマ

若者支援・居場所論・当事者活動

専門分野

教育社会学・福祉社会学