災害の被災者、子ども、セクシャリティや国籍の多様なマイノリティなど、社会の中で孤立しがちな人が集い、つながりを感じられる「まちの居場所」が重要性を増している。小辻寿規は、「まちの居場所」について歴史や現状を研究するのみならず、自らも設立や運営に積極的に関わり、その促進に力を尽くしている。
1970年頃から現代まで続く社会的孤立をめぐる問題
誰でも集うことができ、そこに行けば人との絆やつながりを感じられる。コロナ禍にあって、そんな「まちの居場所」の重要性が改めて注目されている。
「『まちの居場所』は、孤独死や孤立死、無縁社会といった社会的孤立を巡る問題を解決する一策としてつくられるようになりました」と、コミュニティの中の居場所について研究する小辻寿規は説明する。社会的孤立の問題が語られるようになって久しいが、いまだ有効な解決の手だては見出されていないどころか、ますます深刻化しているという。
過去の新聞報道をもとに社会的孤立問題の歴史を追跡した小辻らの研究によると、新聞紙上で「孤独死」「老人の孤独」といった言葉が見られるようになったのは、高齢化社会に突入したといわれる1970年頃からだという。とりわけ社会に衝撃を与えたのが、1995年に起きた阪神・淡路大震災後、仮設住宅での孤独死の報道だった。2000年代になると、孤独死の事例が次々に報道され、それまで見えていなかった社会的孤立が顕在化していく。その中で再び全国的な関心を呼んだのは2010年、NHKによる「無縁社会」キャンペーンだった。「『無縁社会』という言葉とともに、改めて社会的孤立が社会共通の課題としてクローズアップされました。2011年の東日本大震災後、『つながり』や『絆』に光が当てられる影で社会的孤立への視線が薄れたものの、問題が解消されたわけではなく、今日まで続いています」。そして2020年からの新型コロナウイルス感染拡大によって、社会的孤立は誰にとっても他人事ではない課題として認識されるようになったといえる。
被災者、子ども、マイノリティ
多様な人々の居場所づくり活動
「社会的孤立に対する取り組みとしては、地域の自治会や社会福祉協議会などによる『見守り活動』などがあります。しかしそれだけでは十分な解決策にならず、平行するかたちで居場所づくり活動が生まれてきました」。小辻の研究によると、居場所づくり活動の源流は、1995年の阪神・淡路大震災後の仮設住宅で、震災によって断ち切られた人間関係を回復する場として「茶話やかサロン」などが設けられたところにある。それから1999年に名古屋市で立ち上げられた「まちの縁側クニハウス」のように、地域の誰もが集える居場所がつくられていった。さらに2000年に介護保険制度が制定されて以降は、その対象から外れた高齢者に開かれた居場所が増加していく。「2000年代終わりからは『長寿社会文化協会』(東京都)、『さわやか福祉財団』(東京都)、『つながるKYOTOプロジェクト』(京都市)といった中間支援組織が関わる居場所や、慶應義塾大学と港区芝地区総合支所の連携によって開設された『芝の家』(東京都)のような行政との連携や、助成金などの支援制度を活用する流れも生まれてきました」
一方で1990年代から、子どもの貧困対策や学習支援の文脈で「子ども食堂」が各地にできるなど、居場所の対象者や目的は多様化してきたそうだ。小辻は「例えば京都市で1998年から活動を続ける『バザールカフェ』は、セクシャリティや国籍、年齢も多様な人々の受け入れ場所となっています。さまざまな事情で就労機会を得られない人に働く場を提供するなど、社会的な枠組みから排除されがちな人々も包摂するブレンディングコミュニティとして機能しています」と言う。
「まちの居場所」に求められる持続可能な新たな運営のかたち
小辻は全国の「まちの居場所」を調査。参与観察を通じて有効性を検討するとともに、自らも設立や運営に関わり、その促進に尽力している。「2020年のコロナ禍で、『まちの居場所』は危機的状況に陥りました。集まることが制限される中で、持ち帰り弁当を提供する『子ども食堂』をはじめ、活動を継続する努力もなされていますが、補助金などの支援なしには成り立たない従来の居場所づくり活動の課題もより明白になりました」と語る。例えば2003年から続く「まちの学び舎ハルハウス」(京都市)は地域に深く浸透し、高齢者の孤立を防ぐ場として大きな役割を果たしてきた。しかし経営は、強い信念を持った設立者のボランティアと助成金・寄付金で成り立っており、誰にでもできるものではないという。
「持続可能性を考えた時、新たな運営のかたちを探る必要があります」と小辻。可能性を見るのが、「喫茶 YAOMON」(京都市)のように、飲食店が提供する「まちの居場所」や、不動産会社などの民間企業が運営するコミュニティカフェだ。「経済活動の一環として、あるいは本業に生かせる活動として居場所を運営していく。そうした居場所が今後は必要になるのではないか」と提起する。
2022年、小辻らは「コロナ禍における『まちづくりカフェ事業』の効果と課題の検討」をテーマにプロジェクトをスタートさせた。「京都市が展開してきたまちづくりカフェ事業を引き継ぐかたちで実践型研究に取り組もうというものです。『まちづくりカフェ』が地域住民と行政の人がつながる場として機能する。そうした新しい居場所のあり方を模索していきたいと考えています」