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eクチコミが消費者行動に与える影響

ネガティブなeクチコミが含まれる方が購買意欲が高まる?

菊盛 真衣経営学部 准教授

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マーケティング論の研究領域でも注目が集まっている「eクチコミ」。菊盛真衣は、eクチコミが消費者行動に与える影響について研究している。「正の情報だけでなく負の情報も含まれる方が消費者の評価が高くなる」というeクチコミならではの現象が起こる条件を探索した。

正負の多様な情報を同時に閲覧できるeクチコミに着目

新しい製品やサービスを購入する時、インターネット上のクチコミ(eクチコミ)を参考にする人は少なくない。消費者はどのような情報が掲載されていたら、「買う」と決めるのだろうか。

「『クチコミ』は、消費者の製品評価や購買意思決定に大きく影響を与えることから、マーケティング論において古くから活発に議論されてきました。とりわけ最近重要なトピックの一つとなっているのが、インターネットを介して見知らぬ人々が発信する『eクチコミ』です」。そう語る菊盛真衣は、「eクチコミ」が消費者行動に与える影響について研究している。

菊盛によると、既存研究の多くは、従来の対面のクチコミと同様に、肯定的(正)なeクチコミは、プラスの評価や購買行動に影響し、また否定的(負)なeクチコミはマイナスの影響を与えると主張してきた。「しかしeクチコミと対面クチコミには大きな違いがあります。それは、対面クチコミが一人(単一)の情報源から発信された情報に基づくのに対し、eクチコミの場合は、複数の異なる情報源から発信された正負さまざまな情報をWEB上で同時に閲覧できるという点です。こうしたeクチコミの特徴を考慮した上で、消費者行動に与える多様な影響を検証する必要があります」と菊盛は言う。

負のeクチコミが正の影響を与える条件とは

菊盛は、多数の正のeクチコミの中に、一定の割合で負のクチコミが含まれている方が、消費者の製品評価にプラスの影響を与えたという結果を報告した先行研究に注目。さらに踏み込んで、こうした現象がどのような条件で生起するのか、解明を試みた。

まず負のeクチコミの存在が、受信者である消費者の製品評価に正の影響を生起する条件を実験室実験で検討した。正負の比率が異なる(10:0、8:2、6:4)eクチコミを掲載した仮想WEBページを作成し、被験者に各WEBページを閲覧させた上で、製品評価に関する質問項目に回答させるというものだ。

最初の実験では、「快楽財」と「実用財」の2種類について消費者の製品評価に与える影響を分析した。快楽財として映画や漫画を、また実用財には、ポータブル・メディア・プレーヤー及びデジタルカメラが想定された。「検証の結果、対象製品が快楽財の場合、多数の正のクチコミの中に一定割合(10~20%)の負のクチコミが存在する方が、製品に対する評価が高いことがわかりました。一方実用財の場合は、正のクチコミだけの方が、製品評価が高いという結果になりました」

また消費者の「専門性の高低」に焦点を当てた実証実験では、専門性の高い消費者がeクチコミを読む場合、先と同じくすべて正のeクチコミよりも、一定割合負のクチコミが存在する方が対象製品を高く評価することが示された。「WEBページ上に良い評価しかないと、消費者は『偏った情報しか提供されていない』と認識し、eクチコミを低品質で信用できない情報と見なすためと考えられます」と菊盛は考察する。

続いて負のeクチコミの正の影響がより促進される条件として、WEBページ上のeクチコミの「掲載順」についても検証した。「その結果、クチコミ対象製品が快楽財である場合と、専門性の高い消費者がクチコミを読む場合において、2割程度の負のクチコミがまとめて先頭に並ぶ時の方が、まとめて末尾に並ぶ時に比べて、消費者の対象製品に対する評価は高くなりました」

菊盛によると、情報の順番効果については、最初の情報の影響が大きいとする「初頭効果」と、最後に提示された情報を記憶しやすい「親近効果」という相反する二つの効果が指摘されている。今回の結果については、「連続して情報を提示する場合は親近効果が生じやすいとの先行研究があり、eクチコミの閲覧の場合は『親近効果』の方が生起しやすかったのではないか」と分析する。

その他、負のeクチコミの負の影響が緩和される条件として、対象商品が「探索財」である場合、また受信者が「ブランドに精通している」場合があることも見出している。「いずれにおいてもeクチコミの正負比率が消費者行動に与える影響について、これまで明らかにされていなかった面を描写できた」と結んでいる。

インフルエンサーの発信が消費者行動に与える影響に関心

現在菊盛は、SNSを活用するインフルエンサーによるクチコミが、消費者行動へ与える影響にも関心を抱いている。一般的にはフォロワー数が多いインフルエンサーの発信する情報ほど、消費者への影響力が高いと考えられているが、菊盛はこれに懐疑の目を向ける。最近の研究で着目したのが、「文化的価値観」である。「文化的価値観は、国家間で大きく異なると主張されていて、先行研究では、文化的価値観の国家間差異を捉える理論枠組として、『個人主義』『権力格差』『不確実性回避』および『男性性』の4次元が提示されています」。菊盛は、日本、イギリス、シンガポールの消費者データを元に検証を実施。例えば「権力格差」の価値観を強く持っている人は、フォロワー数の多いインフルエンサーの影響を受けやすいなど、いくつかの興味深い結果を見出している。今後さらに分析を進めていく予定だ。

インターネット上のさまざまな情報が消費者の購買行動に与える影響は計り知れない。菊盛はそれを掬い取り、新たな面を照射し続けている。

菊盛 真衣KIKUMORI Mai

経営学部 准教授
研究テーマ

1. eクチコミが消費者行動に及ぼす影響
2. eクチコミ発信のメカニズム
3. ソーシャルメディア・インフルエンサーによる情報発信と消費者行動
4. 企業間クチコミの活用と企業成果の関係性

専門分野

商学