立命館あの日あの時

<懐かしの立命館>立命館中高 北大路校舎誕生物語 第2部 昭和の時代を見届けた鉄筋校舎

  • 2017年09月27日更新
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こちらの記事は、全2部となっております。1部の記事は、「<懐かしの立命館>立命館中高 北大路校舎誕生物語 第1部 広小路から新天地北大路へ」をご覧下さい。


立命館中高 北大路校舎誕生物語

第2部  昭和の時代を見届けた鉄筋校舎

 

1.期待される学校・校舎

  校舎の建設は、生徒たちが毎日その進捗を目にする中で順調に進んでいきました。当初の計画では、中学校と商業学校の普通教室を中心とする建替えでしたが、建設会社からの提案を受けて、急遽、計画を変更し、講堂(1階に銃器庫や医務局、2階に大講堂)も追加で建設されることになりました。この講堂は、完成時では京都府下最大規模として注目されることになりました。また、医務局はレントゲンなどの診察器具を備え、立命館大学よりも早く、全国の学校でも先進的な設備と体制を整えた学校になったのでした(注10)。なお、図面にある西校舎は、後に上賀茂に設立される立命館第二中学校(戦後の神山中学校高等学校)の校舎として移築利用されました。

   

 

写真7 鉄筋建替え後の北大路学舎図(史資料センター所蔵  制作年不明)

 

1期工事 1937(昭和12)年6月竣工

    東校舎(中学校) 鉄筋コンクリート三階建 18教室

 

写真8 東校舎

2期工事 19371月着工で1938(昭和13)年2月末竣工

    北校舎(商業学校)鉄筋コンクリート三階建 21普通教室 3特別教室

西校舎 1階 銃器庫、医務局、実験室、地歴教室

    2階 大講堂 (236坪で京都府下第一の規模)

    地下 射撃場 地下道 (生徒用食堂としても利用) 

 

写真9 北校舎前校庭に立つ中川校長(側の四角形は地下道への光の通し窓) 

 

写真10  講堂 (2階が講堂、1階が銃器庫・医務局など)

 

写真11 全国的にも最高の設備を備えていた医務局

 

この新校舎は2000人が収容できるように建設されていました。その設計には配属将校などの軍人が多くの意見を入れていたそうです。地下には銃器庫と兵器庫があり、空襲の際には地下道が校舎をつなぐだけでなく防空壕の役目も果たし、軍事教練として大事な射撃訓練が校内で実施できるように射撃場が設けてありました。年間で数発の実射を行う訓練は、通常の学校では校外の特別の場所まで出向いていましたが、軍事教練を強調する立命館としては、地下射撃場が学校の看板的役割も果たしていたのでした。つまり、北大路学舎は、将来の戦争に備えた軍事基地的要素をもって建設された学舎だったのでした。
 新校舎建築は、当時の金額で30余万円(現在では約4億円)を要する大工事でした。学園総長であり中学校商業学校校長でもあった中川小十郎の決断を実現させるため、学園関係者も資金捻出のために苦心し、不足分には学債の募集が行われました。寄付集めのためだけの同窓会という印象をさけたいと考えていた清和会も、これには積極的に協力することとし(注11)、それでも不足する分については、銀行からの借入れまで行ったのでした(注12)。

こうして耐火耐震も備えて完成した新校舎は、1937(昭和12)年新学期から授業が開始されました。この年はまた立命館の付属学校が大きく成長発展をする年でもありました。それは4月の夜間中学校(後に立命館第四中学校)と商業学校夜間部の創設でした(:13)。当時の夜間中学校は、京都府内で二中(現鳥羽高校)と三中(現山城高校)の二校で、私学では立命館だけでした。創立者中川小十郎は学校設立時から勤労者教育を非常に重んじていたので、夜間学校の開設は教育者としての夢であったといえるでしょう。

この年の中学校では募集160名に対して入学者321名(志願者352名)で、商業学校では募集150名に対して入学者319名(志願者381名)というように生徒数は、景気の回復とともに急増していったのでした(:14)

 

 

2.戦争と北大路学舎

まだまだ瓦屋根の民家が多く、高い建築物がなかった昭和10年代の北大路烏丸に聳えるように建つ白いコンクリート3階建ての校舎は、北大路通りや烏丸通りを走る遠くの路面電車からも大きなシンボルとして見えたことでしょう。
 学校は、校舎の色の選択に師団参謀部の意見を伺っていて、その結果は新聞で「最近徒らに美観のみを誇って敵機に素早く感知されるやうな明粧建築物の増加する折柄、目下建築中の立命館中学校が一朝有事の際を考慮してその建築外面を上空から感知されないやうな擬装色となすことになった」と紹介されていました(:13)。校庭(運動場)の色と同じように見せるために校舎の屋上には土が敷かれていました。校庭の隅には五百挺の小銃と弾薬が一時に隠匿できる地下室が設けられ、屋上には空襲監視の望楼が建設されるなどその徹底ぶりは、学舎としては突出していました。当時の新聞には「竣工の上は空襲戦時の有事に役立つ全国にも稀な模範的校舎として各方面から期待がかけられている」と賞賛されていました。(:15)

多くの生徒たちが待ち望んだ新校舎でしたが、なかには「(中略)その建築にすこしの建築美といふやうなものもなく、ただ単に昔ながらの学校風の建て方に流れてゐる事であった。(中略)平凡至極なひらべったな細長い校舎を見て入るよりはそこにいく分なりとも芸術味を加味したものの加へられてゐる方が気分に大変な差ができる」(:16)という失望の声もありました。

 

 

写真12  新校舎完成後の北大路学舎全景 (昭和13年)

 

写真13 陸軍現役将校学校配属令公布15周年御親閲(昭和145月)

 

 6)「さよなら北大路学舎」

北大路学舎は、戦争によって痛々しいくらいに姿を変えさせていました。軍需生産の工場として機械をいれるために校舎の窓や扉は壊され、空襲を避けるため校舎の壁面に迷彩が施されていました。そして、生徒たちのうちで3年生以上は学徒勤労動員で各地の工場へ、2年生以下は農作業の手伝いに駆り出されていて、主役である生徒たちがいない学校になっていました。
 それが、終戦となって生徒たちが戻ってきて、教職員と一緒になって学校の再建へと歩みだしました。1948年から発足した夜間高校には、向学の意欲に燃える勤労青年たちが集まり、夜遅くまでこうこうと輝く教室の明かりは、戦後の北大路の夜の名物風景にもなりました。

    北大路学舎は、この地で戦後の平和と民主主義への歩みと共に、さまざまな苦難の道を乗り越えながら生まれ変わりました。そして、その努力と成果を継承しながら、21世紀を展望し教育内容をさらに充実させ、より良い学校環境で男女共学を実現していくために学校の移転を決意しました。

    こうして北大路学舎は66年間の歴史に幕を閉じたのでした。新しい教育への夢をもって1988(昭和63)年にさらなる新天地深草へと移転したのでした。

 

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立命館 史資料センター調査研究員 西田俊博

 

写真14  北大路学舎校庭での中高合同体育祭 (1950年頃)

 

写真15 定時制高校での授業風景(卒業アルバム 1960年)

 

写真16 新館建設前の校庭風景 (1963年度 高校入学案内)

 

写真17 中高全生徒と教職員による人文字(小雨の中で撮影)

 

10:「文部省は学校に対して、年一回の定期健康診断をさせるだけで、これでは健康の管理は出来ない。学校には如何にも弱そうな青びょうたんの生徒や学生がいる。こんな人には勉強よりもまず健康だ、体力だと言う考えの下で、レントゲン其の他の診察器具を備えて、毎日、医者に診察させる医務局を設けられたのであります。そこでの診断の結果を父兄に通知して、治療をさせたのであります。実に先見の明で、其の後十年程して文部省は是を見習ろうて、各学校で診察をさせる様にしました。学校内に医務局の設置は、日本中本校が嚆矢(こうし)(最初)であります」

前掲書 木村嘉一氏「立命館とともに」p.3

    (木村氏は中川小十郎の家庭医で、戦後の立命館清和会の再建に奔走され、第2代会長として長く職につかれ、理事長も務められました。)

11:立命館清和会長本田義英氏からの寄付・学債協力趣意書

   「(前略)既に在学生父兄に於ては旧臘(きゅうろう)校舎改築期成後援會を組織せられ熱心なる後援をなされつつある由に之れ有り。我々三千名の卒業生としても此の際一致協力して、此の難事業に直面せる母校のため、出来得る限りの援助を致したく存ずる次第に之れ有り候。就ては御迷惑の至りと存じ候へども、学債と寄附との如何を問はず、特に各位の御尽力を願ひたく切に御依頼申し上候(後略)」

     (立命館清和会  保存資料)

12:「中川先生は『学校には今金がない、木村お前石原(広一郎氏、当時の立命館理事)の所へ行ってこのことを相談してくれ』とのことで、吉祥院の宅を訪ねて、其由を申しました。氏は『私の取引の第一銀行から私が保証人になって借入れよう』との話で、これがまとまり、北校舎と講堂が完成されたのであります。」

前掲書 木村嘉一氏「立命館とともに」p.3

13:後に工業学校となり第四中学校へ統合される。

14:『立命館百年史 通史一』 p.561

15:『京都日日新聞』 昭和12629日付 (京都日日新聞は現在の京都新聞の前身)

16:同上

17:『立命館禁衛隊』第77号(19377月号)「新校舎への待望」 生徒感想より 

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