2.新型コロナウイルス禍での緊急対応とその経験をふまえた将来への展望

これまで述べてきたR2020期間の様々な取り組みに加え、2020年度以降のいわゆる「新型コロナウイルス禍」のもと、学びを⽌めないために⼤学が取り組んできた諸点も重要です。これらの取り組みには「緊急避難」的な対応と、将来の新たな展開に繋がる対応とがあり、R2020の到達点と課題およびR2030への取り組みの⽂脈のなかで、振り返りつつ、課題を改めて確認する必要があります。こうした観点から、新型コロナウイルス禍の取り組みを以下のとおり記載します。

(1)授業に関わる取り組み

2020年度4⽉、新型コロナウイルス禍の影響を受けて、全学的・全⾯的な規模でのオンライン授業の導⼊という過去に例のない取り組みが必要となり、そのための実施体制の構築と学⽣への⽀援を緊急的に行いました。この初期段階での対応として、まずは、学園の「学びの緊急⽀援」のもとで、受講環境の整備のため⼀律3万円をすべての学⽣に給付するとともに、ノートパソコンや無線LANルーターの無料での貸し出しを⾏いました。家計急変やアルバイト収⼊の減少で困窮する学⽣には、9万円(⽉額3万円×3カ⽉)の緊急学⽣⽀援⾦を⽀給しました。加えて、オンライン学習環境を整えることができる「オンライン授業スタートパック(有償)」のサービスも導⼊しました。オンライン授業の受講や関連ツールの使い⽅、新型コロナウイルス感染症に関する情報などについても、⽴命館⼤学のウェブサイトやmanaba+Rなどを通じて学⽣にメッセージや情報を発信しました。

また、オンライン授業の全⾯展開により、受講⽣から多数のアクセスがあってもmanaba+Rなどのシステムが問題なく稼働するよう、サーバーの強化を⾏いました。加えて、教員のオンライン授業実施を⽀えるため、サポートデスクの開設、教務⽀援ページでの関連情報の発信やFD企画なども⾏いました。

2020年度の秋学期開始の時点では、オンラインでの授業をより効果的に実施しつつ、対⾯授業の⼀部再開にも対応するための環境を⼤規模に整備しました。ライブ配信で授業を提供するZoomのライセンス契約を⼤学全体として締結し、オンデマンドの動画配信のために、録画・共有・管理プラットフォームであるPanoptoも導⼊しました。教室の機器整備については、約600におよぶ⽴命館⼤学の教室すべてに授業のライブ配信⽤のカメラ・スピーカーシステムを設置しました。これによって、教室での対⾯授業とオンラインでのライブ授業とを同時に実施するいわゆる「ハイブリッド」型の授業の提供の環境が整いました。

新型コロナウイルスの感染状況が徐々に緩和され、オンライン授業をキャンパスで受講する学⽣が増加していくことを考慮し、2020年度の秋学期から2021年度開講期には、教室の無線LANのアクセスポイントの増強を進めました。また教室の換気設備の整備(機械換気システムの無い教室にはこれを導⼊)や⼩教室の⻑机を⼀⼈がけの個机に換装すること(⾐笠C・BKC)など、直接的に感染防⽌対策に関わる施設整備も⾏いました。

これらの取り組みの多くは、短期的な視点でみると新型コロナウイルス禍への対応という⽂脈において実施され、効果を上げたといえます。また、これらのオンライン講義を可能とした基盤的な整備は、今後、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関して全学的な議論を深めた後、これを本格的に推進していくための教育手法開発の取り組みやインフラ整備の基礎にもなります。新型コロナウイルス禍が続く2021年度において、BCPレベル切り替えの際、特に低回⽣の⼩集団科⽬については、可能な限り対⾯での実施を進めてきました。これも、専⾨⼩集団科⽬は⽴命館⼤学の伝統であるピア・サポートが機能する場であり、学⽣のコミュニティ形成に寄与することをふまえた判断です。

(2)図書館の取り組み

図書館は、新型コロナウイルス禍においても開館し続け、学びの環境を維持に取り組んできました。図書館は、学⽣にとってリアルな場(居場所)としての役割についても、改めて問い直す必要性に迫られました。そこで、学⽣の「学問の⾃由」を守り、「知る権利」を保証するために、新型コロナウイルス禍という公衆衛⽣上の危機にあっても、利⽤上の制限を極⼒限定して適⽤するという基本的な考えに基づいて、開館を続けました。また、BCPレベルに対応して、貸出郵送サービスなどにより、利⽤上の制限を緩和する措置・施策を実施してきました。また、データベースや電⼦ジャーナルを十分に整備し、多くの電⼦資料を提供するオンラインサービスの継続をするとともに、オンラインで閲覧可能な書籍も充実させました。

(3)海外留学派遣や受け入れに関わる国際交流の取り組み

海外留学の派遣や留学⽣の受け⼊れについても、影響がありました。海外留学派遣は、2018年度は2,080名でした。しかし、新型コロナウイルス禍の影響により、2019年度には2、3⽉における約300名の短期派遣を中⽌せざるを得ず、年間2,300名の派遣⽬標に対して1,941名の派遣となりました。2020・2021年度は、出⼊国の制限により派遣が極めて厳しい⾒込みとなるなか、2021年7⽉にはオンラインでの代替プログラムを含む派遣計画へ変更し、新型コロナウイルス禍においても国際的な学びを期待して⼊学した学⽣の⽀援を続けました。

その結果、2021年度には、海外渡航19名、オンライン留学プログラムへの参加347名、協定校とのオンライン国際交流への参加226名、合計592名に国際教育プログラムを提供しました。

(4)包括的学習者支援に関わる取り組み

包括的学習者⽀援の取り組みとして、新型コロナウイルス禍の当初では、学⽣がキャンパスで対⾯でなくても⽀援できるよう、安全性や法的な問題を確認したうえで、他⼤学に先んじて、オンラインや電話などを活⽤した遠隔での相談・対応体制を整備しました。特に、サポートルーム(Student Support Room (SSR))の機能は体制を強化し、従来の第3次⽀援(カウンセリング、特別・個⼈のケア)に加え、第1次⽀援(セルフケアで対処が可能な学⽣層を対象とした⽀援)、第2次⽀援(セルフケアや集団でのケアで対応できる学⽣層を対象とした支援)の充実により、すべての学⽣を対象とした⽀援と繋がりづくりを促進してきました。

(5)課外自主活動に関わる取り組み

新型コロナウイルス禍は、学びのコミュニティとしての課外⾃主活動の位置づけや重要性を改めて認識する機会にもなりました。対⾯での課外⾃主活動の再開にむけ、「活動再開まで、活動再開後も安全・安心な活動が実施されるようなサポート」など、従来にない課外⾃主活動⽀援に取り組みました。2020年6⽉から対⾯活動再開にむけた申請を受け付け、クラブへのヒアリング、副部⻑⾯談などを経て、継続したコロナ対策が実施可能な団体から活動の再開を判断しました。2022年3⽉時点では、全団体数の約7割にあたる276団体が対⾯での活動を実施しています。また、2020年度からオンラインでの新⼊⽣とクラブの交流の場の提供を開始しました。2020年12⽉からはサイバーキャンパスを設置し、オンラインでの交流が可能な環境を整備し、2021年度はオンラインと対⾯での新⼊⽣歓迎、クラブ・サークル勧誘促進企画・学園祭を新⼊⽣や在学⽣を対象とした取り組みとして位置づけ⽀援をしました。

(6)コミュニティ形成に関わる取り組み

新型コロナウイルス禍においては、様々な繋がりが打撃を受けました。特に学生間のコミュニティ形成が大きな影響を受けました。このような状況を踏まえ、学びを止めないためにも、2020年度秋学期以降、⼤学が主催で、オンライン・オフラインの交流会・発表会などを断続的に実施しました。これらの交流会などは、課外⾃主活動の勧誘に関わる企画、助成⾦を活⽤した成⻑⽀援に関わる企画、リラクゼーションなど⼼⾝のサポートに関わる企画(SSR主催)、学修のサポートに関わる企画(SSP主催)など、多岐にわたるものでした。2021年度は、年間80⽇以上で企画を実施し、延べ3,000名以上の学⽣が参加しました。また、特にSSPでは24本のオンデマンド講座を公開し、延べ8,903回の視聴がありました。このほか、学⽣・院生がオンラインを⽤いて、交流企画・交流するプラットフォーム「RI-sA(⽴命館⼤学オンライン交流促進プロジェクト)」などの取り組みも加速し、充実したものとなっています。

(7)進路・就職に関わる取り組み

新型コロナウイルス禍においても、学生が不安なく就職活動を続けられるように各種ガイダンス、セミナー、模擬面接などの支援企画はオンライン実施、オンデマンド配信として実施したほか、窓口での個別相談をオンライン相談に移行しました。学生の不安に寄り添うため、オンラインでの学生交流企画も実施しました。2021年度以降の個別相談は、学生のニーズに合わせて対面、オンライン、電話、メールといった様々なツールで対応できるようにしています。さらに、OB・OG訪問プラットフォームの導入、HPのリニューアル、デジタル書棚の導入、オンライン面接・選考に対応したプライベートブース設置など、新型コロナウイルス禍を契機に、進路・就職支援のあり方を多様なものとしました。

(8)新型コロナウイルス禍の取り組みをふまえて

このように、新型コロナウイルス禍は、学⽣の学びと成⻑の機会確保に⼤きく影響を与えつつも、⽴命館⼤学は「学びを⽌めない」ために各種の取り組みを進めてきました。振り返ってみると、新型コロナウイルス禍で得られた知⾒は、「コロナ以前のキャンパスへの回帰」でも「対⾯/Webの単純な⼆元論」でもない、「学びの効果」と「学びへのアクセシビリティ」に基づく新しいキャンパスのあり⽅、新しい学びと成⻑の姿に接続されるものといえます。テクノロジーを活かした教育DXを視野に入れた取り組み、従来になかった⽀援の枠組みの拡充などは、R2030チャレンジ・デザインで構想していたものを先⾏的に取り組んできたものとも位置付けられます。また、この新型コロナウイルス禍のように、世界情勢を短期間に⼀変させる事象は、未来においても⼗分に起こり得ることを念頭に置く必要があります。そうしたなかでも「学びを⽌めない」環境をいかに構築できるかが求められ、かつそのなかで責任ある役割を果たしていくことが⽴命館⼤学の使命の一つであるといえます。

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