3.R2030チャレンジ・デザインの具体的な取り組みにむけて

R2030チャレンジ・デザインの具体的な取り組みに向けて、改めて認識する必要がある観点を本文書冒頭でも触れましたが、改めてそれらを踏まえ、認識を共有したいと思います。⽴命館⼤学では、時代の変化も捉えながら、R2020を進めてきました。この計画を実施していくなかで、急激に変化する先⾏きの予測が困難な時代(VUCA時代)に突⼊したことを実感させられました。この象徴は、新型コロナウイルス禍の経験です。新型コロナウイルスによるパンデミックは、瞬時に世界共通の課題となり、これまでの、個⼈の⽣活、社会、政治や経済などのあらゆる⾯で、前提や常識に変化を迫りました。また、テクノロジーの進歩・進展によって、新型コロナウイルス禍の課題克服の取り組みも広がり、多くの恩恵を世の中に与えつつも、パンデミック前の日常から変わりました。この経験のなかで、⼈間性・倫理性の重要性が改めて問われ、その認識が⼀層⾼まったともいえます。唯⼀の正解が無い不確実性の時代を⽣き抜くために⼤切なことは、それぞれの⼈が、よりよい⾃分、よりよい社会を探し求めて、学び、成⻑し続けることでしょう。また、⾃⾝の役割を⾃覚し、進路を開拓し、変化する社会のなかで役割を果たすことが、その⼈らしく⽣きることや、より良い社会の創造に繋がる、ということを改めて認識する必要があります。

これまでも⽴命館⼤学は、その時代や来たるべき時代の状況・要請をふまえながら、学⽣の学びと成⻑にとってより良い⼤学のあり⽅を求めて、教育・研究および学生生活支援の改善・充実を図ってきました。そして、急激な変化が突如として訪れる時代的背景の変化をふまえると、⽴命館⼤学における教育・研究および学生生活支援のあり⽅も⼤きな転換期を迎えているといえます。これからも普遍的な価値の創造と人類的な諸課題の解明のため、持続的に研究・教育の⽔準や質を⾼め、学び、成⻑したい⼈が集う場であり続けるために、R2030では、以下のような取り組みを進めます。

(1)R2030チャレンジ・デザインの考え⽅

⽴命館学園は、R2020での取り組みをふまえ、2018年度に、R2030のビジョンとして「挑戦をもっと⾃由に」を策定しました。このビジョンに基づき、学⽣・⽣徒・児童はもとより、教職員や校友に⾄るまで、個々⼈がそれぞれの⽴場から社会のあり⽅を考え、平和な社会の実現に向けて、果敢に、⾃由に挑戦する⼈々が集う学園創造を進めるために、学園全体の学園像・⼈間像・政策⽬標を設定することにしました。

学園像

学び続ける社会の拠点としての学園
人類社会における様々な課題に挑む学園
ダイバーシティ&インクルージョンを実現する学園

人間像

チャレンジ精神に満ちた人間
社会の変化に対応し、自ら考え、行動する人間
グローバル・シチズンシップを備えた人間

政策目標

新たな価値創造の実現
グローバル社会への主体的貢献
テクノロジーを活かした教育・研究の進化 未来社会を描くキャンパス創造
シームレスな学園展開 多様性を活かす学園創造

⽴命館⼤学は、2030年代のめざすべき姿として、社会共⽣価値の創出に向けて、①新たな価値を創造する次世代研究⼤学、②イノベーション・創発性⼈材を⽣み出す⼤学、の2つの柱を掲げ、新たな価値や学びが⽣み出され続けることをめざします。この源泉となるのは、学⽣・院⽣・校友・教職員が⽣涯にわたって学び、探求・探究し続けることであり、そうした⼈たちが⼈⽣の節⽬で⽴命館⼤学に集い、学び合うことにあると考えています。⽴命館⼤学は、この⽣涯にわたる学びの旅路の主体者の⺟港(⺟校)のような存在であるといえます。

そしてR2030チャレンジ・デザインでは、次世代研究大学をめざすプロセスとして「研究と教育の拡大的再結合」という理念を掲げています。これは社会共生価値を生む知的創造としての研究の場が、他の大学や研究機関ばかりでなく、企業や政府・自治体、そして市民社会・地域社会と広く多様に接続する一方で、附属校から学部、大学院、そして社会人に至るまでの学びのタテの繋がりのなかで、学び手がそうした広い意味での開かれた研究へ参加することが、一貫した探求的・能動的学びそのものになることを意味しています。

また、このR2030の到達⽬標として、「学⽣の成⻑実現実感NO.1の⼤学」を⽬指します。このなかでは、「これまでのように、学⽣の学ぶ場を正課・課外といった⼆項対⽴の概念で括る考え⽅から脱却し、すべての学⽣が学⽣⽣活のなかで、個性を活かして多様な⼈々と協働して学ぶことを通じて成⻑実感を獲得し、他の誰でもない⾃分⾃⾝のパーソナルベストを更新し続けていくことが可能な環境を提供する」ことが求められていると考えます。

R2020や新型コロナウイルス禍の取り組みによる到達点としては、①多様な学⽣に対する学びと成⻑の機会の拡充、②それを⽀える学⽣交流の促進や交流拠点などの基盤的条件の整備、などを図ることができたといえます。その結果、豊かな学⽣⽣活を過ごした学⽣が、社会⽣活の様々な局⾯で、⼈間的な成⻑実感を持つことができるようになりました。これらの到達点を昇華し、さらなる学⽣の成⻑実感や満⾜度を⾼めるための取り組みが、R2030チャレンジ・デザインの具体施策には強く求められるといえます。

(2)研究と教育の拡⼤的再結合の意味−⽴命館⼤学の使命達成のために−

研究と教育の拡⼤的再結合を図るためには、研究に繋がる教育の姿を明らかにする必要があります。⼤学は「知の拠点」であり、研究活動を通じて、さらには教員が集中して研究に打ち込む姿を⾒せることを通じて、学⽣の「学びの意味」の理解を促し、「知を共有」する場であるといえます。また、初等中等教育の学習指導要領改訂により、2022年度より探究学習が必修化されたことを受けて、⾼校在学中から、⼤学における研究の⼀端にふれる機会も⽣まれています。立命館大学の若手研究者の研究発表を聞き、自由にディスカッションを楽しむセミナーである「ライスボールセミナー」などは、附属校・提携校の生徒が身近に大学の先端研究にふれることができる、好例といえます。しかし、そのような経験や獲得した知⾒は、⼤学⼊学後の学びにストレートには接続されておらず、⼊学後の⼤学での学びに不満を抱く原因となっている課題も存在しています。こうした状況への対応は必須であり、⼤学はこのような課題の解消も含めて、「探究⼒を育む教育改⾰」の必要性を認識しています。具体的には⼀貫教育を推進し、⾼⼤接続を進め、⾼校での⼤学科⽬の早期履修制度の導⼊も検討しています。また、附属校・提携校以外の高校との接続も含め、この間に各学部が独自に積み重ねてきた高大接続の成果や経験を共有し、そこから学んでいくことも重要です。そのうえで、⼤学院での学びの継続、展開を前提した学⼠課程教育のあり⽅を追究するものです。

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