1.R2020期間の財政運営と到達点
(1)学生の学びの環境整備
R2020では、教育の質向上、学習者が中⼼となる教育および包括的学習者⽀援という基本目標に基づいて、教学条件の拡充・整備を行ってきました。また、R2020からR2030を架橋する協創施策では、国際コーディネーターの配置やSSPの創設、経済支援型奨学金の拡充などを通じて、多様な学生の学習ニーズに応える取り組みを進展してきました。こうした取り組みは、新型コロナウイルス禍における学びの継続のための緊急支援策や、学部・研究科のアイデアやニーズを具体化する「アフターコロナを見据えた教学高度化予算」などによる教学改善に連続的に繋がっています。
ここでは、教育・研究活動の最も基盤的な条件である教員組織整備、施設整備の到達について紹介します。今後、R2030における諸施策において、これらの基盤的なリソースをどのように活用していくのかは、大学のあり方、教育・研究のあり方の転換にも密接に関わる重要な課題となります。R2020を通じた拡充・整備は、新型コロナウイルス禍を経ていっそう多様化した学習、学生生活、教育の形態のもとで、さらなる教学・学生生活支援の展開を図るための重要な土台になると考えています。
①学習・教育環境の充実
R2020期間では、多様な学⽣の多様な学びを実現するため、教育環境基盤的な条件であるST比の改善に取り組みました。
ST比については、2010年度から2020年度にかけて、専任教員数を286人増員したことに加え、学部学生数が877人減少、大学院生数が73人増加し、全体の学生院生数では804人減少したことで、立命館大学における教員ひとりあたり学生数は32.4人から25.3人と7.1ポイント減少(改善)しました。このような、ST比の改善が教育の質保証や学びと成長実感を高めるうえでの前提となる条件整備になっています。
立命館大学 | 2010年度 | 2015年度 | 2020年度 | 2010→2020年度 (増減|増減率) |
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学部学生数 | 33,120 | 32,301 | 32,243 | (△877|△2.6%) |
大学院生数 | 3,456 | 2,819 | 3,529 | (+73|+2.1%) |
学生数計 | 36,576 | 35,120 | 35,772 | (△804|△2.2%) |
専任教員数 | 1,129 | 1,288 | 1,415 | (+286|+25.3%) |
学生数計÷教員数 | 32.4 | 27.3 | 25.3 | (△7.1) |
また、R2020における奨学金の拡充によって、正課・正課外における学びの多様化、グローバル化を推進するとともに、経済支援型奨学金については、2020年度に国による修学支援制度が開始されたことを契機としてさらなる拡充を図り、2010年度1,582人(7億円)から2020年度には2,576人(15億円)と、994人(8億円)増加しています。これらの取り組みは、多様な学びの支援・実現と、安心して学修を継続できる環境整備として重要な役割を担っています。
②キャンパス環境整備
R2020期間中、快適な学習・学⽣⽣活を実現するために様々なキャンパス整備を行ってきました。
2015年度のOICの開設や各キャンパスにおける図書館、BBPなどのラーニング・コモンズ整備により、学生1人あたりの施設面積は2010年度からの10年間で5.2㎡増加し、学び、交流、諸活動の環境・条件が大きく改善しました。
キャンパス整備
2010年度 | 2015年度 | 2020年度 | 2010→2020年度 (増減|増減率) |
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学生数 (学部+大学院) |
大学全体 | 36,576 | 35,120 | 35,772 | (△804|△2.2%) |
うち、KIC | 18,195 | 15,820 | 13,725 | (△4,470|△24.6%) | |
うち、BKC | 17,804 | 13,596 | 15,007 | (△2,797|△15.7%) | |
うち、OIC | - | 5,536 | 6,892 | (+6,892|-) | |
建物面積 | 大学全体 | 427,628 | 572,773 | 592,491 | (+164,863|+38.6%) |
うち、KIC | 163,459 | 183,677 | 191,652 | (+28,193|+17.2%) | |
うち、BKC | 237,044 | 256,050 | 260,877 | (+23,833|+10.1%) | |
うち、OIC | - | 105,908 | 112,823 | (+112,823|-) | |
学生ひとり あたり面積 |
大学全体 | 11.7 | 16.3 | 16.6 | 4.9 |
うち、KIC | 9 | 11.6 | 14 | 5 | |
うち、BKC | 13.3 | 18.8 | 17.4 | 4.1 | |
うち、OIC | - | 19.1 | 16.4 | 16.4 |
(2)収入多様化と経費節減の取り組み
R2020においては、学納金以外の収入強化政策、業務合理化・経費節減政策を財政上の最重要課題に設定し、学納金への依存度をできる限り高めずに、教育条件の維持・向上を図るための財政運営上の取り組みを継続的に進めてきました。
① 学納金以外の収入強化
学納金以外の収入強化政策として、寄付金募集政策と資金運用政策に重点的に取り組みました。寄付金政策では、校友からの大型寄付金により、衣笠C平井嘉一郎記念図書館(2015年度)やOIC分林記念館(国際寮・国際交流施設、2019年度)の建設を実現しました。また、校友会と連携した「未来人財育成基金」の募集活動などによって、卒業生を中心とした個人からの恒常的な寄付金が拡大しました。資金運用においても、他大学と比べても高い水準の収入を確保しています。また、産官学地の連携・協力によって競争的な補助金や受託研究などの多様な外部資金を獲得するとともに、OIC開設にあたっては自治体からの財政的支援を実現しました。
その結果として、収入に占める学納金収入の割合(学納金比率)は、2010年度の75.9%から2020年度には73.1%へ低減してきています。
収入多様化により結果として学納金比率(1)は低下(2010→2020年度:△2.8%)。
(1)経常収入(=教育活動収入+教育活動外収入)に対する比率。
(2)現物寄付は含まない。
② 経費節減・支出見直し
「学費の重みに応える」財政運営上のもうひとつの課題が経費節減の取り組みです。経費節減の取り組みでは、経常的な物件費支出のなかで大きな割合を占めている業務委託費を中心に、契約単価や内容、契約方法の見直しを積み重ねてきました。その結果、キャンパス管理経費や光熱水費について、約19億円の支出抑制効果を生み出すことができ、R2020期間におけるキャンパス・施設整備に伴う支出増加を吸収することができました。
その一方で、R2020期間には、二度にわたる消費税増税、グローバルでのエネルギーコストや資材費の高騰、為替の変動などがあり、これらは学園財政にとっても強力な支出増の圧力となりました。経費節減の取り組みは、期限を定めて取り組むものではなく、恒常的な運営努力として今後も継続していきますが、こうした社会情勢に伴う学園財政に対する影響については、基盤的な財務状況にインパクトを与えるものとして留意しておかなければならない重要な点となります。
社会情勢変化等による強力な支出増圧力のなか、コスト削減努力を経年で積み重ね
(1)コスト削減の主な対象としている委託費、光熱水費の推移。2010年度および2019年度は決算数値。
(2)労務費は最低賃金(全国加重平均)による(https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20210929_1839.html)。
(3)電気料金は産業用平均単価による(https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/002/)。
(3)R2020財政運営の到達点
教学条件の充実には、そのための支出増加を伴いますが、R2020期間の学習環境整備、包括的学習者支援の拡充などについては、授業料改定を行わず(授業料の変動は物価指数および入学金減額との連動のみ)、遂行してきました。
一方で、文部科学省の方針に基づく定員管理厳格化への対応による学納金の減少、消費税増税やエネルギーコストの増加、社会保険料改定による人件費の増加など、個別大学の努力ではいかんともしがたい社会情勢・政策動向の変化によっても、学園財政は大きな影響を受けています。
こうしたことを背景に、経年の推移でみると、学納金や補助金などの教育活動収入から人件費や教育研究経費などの教育活動支出を差し引いた、いわゆる本業での収支状況を示す、教育活動収支差額は大きく低下してきています。
R2020後半期の財政運営方針では、教育活動収支差額に、資金運用による収入などを加えた経常収支差額のプラスを維持・確保することを目標としています。2020年度は新型コロナウイルス禍への対応として緊急的に大規模な支出を行いつつ、一定程度の資金運用収入を確保することで、かろうじてこの目標を達成することができていますが、学納金以外の収入多様化や経費節減に取り組みながら、ギリギリの厳しい財政運営を行っている状態にあります。
現在の教学条件を維持・保証しながら、R2030チャレンジ・デザインを遂行していくことが財政運営の最も本質的な目的です。そうした教学展開の持続性を支える財務的な基盤となるのが教育活動収支のバランスであり、社会的な変動があるなかでもそのバランスを悪化させずに健全に保つことがR2030における財政運営上の最も重要な課題となっています。
NEXT:第Ⅲ章2.新型コロナウイルス禍における学びの継続目次
- 第Ⅰ章これまでの全学協議会における議論経過と2022年度全学協議会の位置づけ
-
第Ⅱ章R2020からR2030に向けた⽴命館⼤学の取り組みについて
- 1.R2020の取り組み
- (1)多様な学⽣の多様な学びを実現するための取り組み(学⽣の学びの環境整備)
- (2)⼤学院におけるより⾼度な研究やキャリア⽀援の取り組み
- (3)より豊かで快適な学習・学⽣⽣活を実現するためのキャンパス環境整備
- 2.新型コロナウイルス禍での緊急対応とその経験をふまえた将来への展望
- 3.R2030チャレンジ・デザインの具体的な取り組みにむけて
- (1)R2030チャレンジ・デザインの考え⽅
- (2)研究と教育の拡⼤的再結合の意味−⽴命館⼤学の使命達成のために−
- (3)学⽣の学びと成⻑をさらに充実したものにするために
- (4)院生に期待する役割(⽴命館⼤学の考える「院生像」)
- (5)今後の⼤学院教学政策の展開に向けて
- 第Ⅲ章 R2020期間の財政運営と立命館大学の2023年度以降の学費・財政政策について
- 資料