(3)学⽣の学びと成⻑をさらに充実したものにするために

大学における学びというのは、それが現実の社会問題の解決や先端技術の開発などと深く関わっていることからわかるように、いまだ「答え」の定まっていない、あるいは暫定的な「答え」ですら日々変化していくような課題を扱うものです。こうした特性をもつ大学での学びは、本来、高度な探究活動にほかなりません。みなさんが大学で学び、自身の探究を追求していくことは、その先にある本格的な研究活動と切れ目無く繋がっているといってもよいでしょう。

R2030チャレンジ・デザインのもとで次世代研究⼤学を実現するために、以上の意味において学部(学⼠課程)教育が鍵を握っています。学部専⾨教育による学びの領域・学びの様式を軸としつつ、他の学問領域と交流し、教養も広く⾝につけながら、新たな社会的課題の解決・発⾒に繋がるような学びを広げ・深める「探究的学び」によって、学⼠課程教育と深く関わりその⾼度化に寄与する「研究と教育の拡⼤的再結合」の具体化に取り組む必要があります。

そこで、学⽣の学びと成⻑のさらなる推進にむけ、探究⼒を涵養していくために、これまでの正課・課外・国際交流といった取り組み自体のあり⽅を見直し、その転換を含めて相応しい探究学習の場を充実させること、およびそうした探究の学習の場を適切に選択し、サポートするコーディネートシステムの構築が重点的なテーマとなります。そして、「研究・教育が再結合して⽣み出される価値をリソースとして活⽤する」、「キャンパスにとどまらず、社会との切り結びのなかで⾃らが学ぶ場を設定する」といった考え⽅のなか、学⽣⾃⾝が成⻑を把握(可視化)できる仕組みの実現が重要となってきます。

①探究力をより高めていくための学びのフィールドの発展
授業の進展

まず、探究学習の場に向けた、授業の転換についてですが、次のような論点をふまえる必要があります。

  • 学⽣の意識の変化やそれをふまえた要望への対応(時間効果を高めるための在宅や遠隔での学びの実現など)
  • 学びの効果の向上に繋がる学習方法の調査・検討(例えば、VOD教材による繰り返し学習、スキップ学習による時間の有効活⽤などに対する効果検証)
  • 学習効果を⾼める⼯夫された授業実践(TAやESの有効活⽤、複数教員によるチームティーチング、チャット機能を活⽤した双⽅性の実現など)の共有
  • 情報基盤環境の整備および⾼度化(Zoomライセンスの全学導⼊、全教室に動画撮影・配信⽤カメラの設置、動画プラットフォームPanoptoの導⼊、動画撮影スタジオ・撮影編集の⽀援など)

これらの論点に関わる取り組みは、新型コロナウイルス禍で得られた知⾒の獲得をふまえ、対⾯授業の質的転換に繋がる取り組みとして位置づけられると考えています。

他⽅で、このような学習環境を担保するためには、教員へのサポートのみならず、DXの推進、TA・ESの資質向上、院生(博⼠課程後期課程)の教育参加、授業設計の⽀援をする⾼度専⾨職能⼈材の育成・配置の必要性などの課題も克服する必要があります。新型コロナウイルス禍において確認された、オンライン授業の可能性から得られた知⾒を最⼤限活かしつつ、対⾯授業の利点を改めて明確にする必要があります。

対⾯の機会を単なる場の共有のみとするのではなく、「研究と教育の拡⼤的再結合」を⽬指して、⽴命館⼤学の研究⼒向上に寄与する新たな価値を加えていくことで、学びの質を⾼める⼯夫を⾏うことが求められるといえます。そして、そのために必要な授業環境の条件整備を進めることにより、授業の質的転換を積極的に進めることが重要となります。この取り組みには、教員や学⽣の⼀⽅的負担によって実現するものではありません。教員の研究成果をスムーズに教育に還元するため、DXも活⽤することで、さらなる⾶躍に繋がると考えます。

グローバル教育のさらなる充実

次に、グローバル教育についてです。R2030チャレンジ・デザインならびにポストSGU構想における主要テーマは、立命館大学がR2020を通して築き上げた、グローバル教育のさらなる推進と発展といえます。特に、新型コロナウイルス禍をふまえた新たな状況に対応して、アフターコロナにおける世界拠点・オンライン活用など、従来とは異なるグローバル教育展開の推進が重要になります。本学と深い関係構築の歴史を積み重ねてきたパートナー校との間では、新型コロナウイルス禍においても質の高いオンライン留学の新たな学びを築くことができました。この実績を、その他の海外大学・機関に拡げ、グローバル教育研究拠点の形成に向けた展開を図り、新たな留学プログラムの開発を行います。さらに、長期留学(交換留学)では、学生の幅広い派遣校選択が可能になるよう、派遣先として希望の高い協定校を中心に、新たな派遣枠の確保に取り組んでいきます。

コミュニティ形成に関わる多様な取り組みの充実

続いて、学内外のコミュニティ形成についてです。学⽣・構成員の探究⼒を涵養する場として、重要な位置づけにあること変わりはなく、このようなコミュニティ形成のサポートを継続し、学⽣⽣活での諸活動の活性化を継続して図ります。また、このコミュニティ形成に向けては、RIMIX、RI-sAをはじめとして、R2020の取り組みのなかでも多様な活動が広がってきています。これらをふまえ新たなプログラムづくり、地域交流・社会貢献活動などを、さらに充実したものとしていきます。キャンパス間交流、地域交流や外部リソースの活用に加え、オンライン・コミュニケーションの手法なども用い、学生の主体的・能動的な学びを⾼めるための探究学習の場のさらなる拡⼤も重要となります。

立命館スポーツの新たな展開

スポーツ分野については、スポーツ基本法の制定や東京オリンピック・パラリンピック2020(+1)開催を契機に創設されたスポーツ庁の政策にも象徴されるように、スポーツの持つ価値や社会的役割が大きく期待されています。立命館大学では、これまで課外自主活動の一環としてスポーツ分野の活動の高度化に取り組んできていますが、このような背景をふまえ、その位置づけから改めて検討を進めます。そのためには、立命館スポーツ宣言を制定したR2020 のスタートから現在に至る社会的な動向などを踏まえたうえで、立命館スポーツ文化から社会共生価値を創出するためのスポーツプロモーション戦略の策定と新たな学園スポーツ政策の提起に基づく取り組みが鍵となります。スポーツのもつ教育的性格(加速度的に変化する現代社会を形成していくうえで必要な⼈間形成・道徳的発達)をはじめ、倫理的性格(平等な条件のもとでの、フェアプレイや相互尊敬などの黙⽰的な価値の尊重)や知的・技術的性格(⾝体的パワーを巧みにコントロールする技術・戦術や知略・戦略の重視)、および組織的性格(ゲームを組み⽴てるための集団化や組織編成・役割分担などを創意⼯夫する⼒)などを尊重し、「学⽣とスポーツとの望ましい関係づくり」という観点から、⼤学スポーツの本質的価値を捉えた取り組みが求められます。また併せて、学生・院生が大学スポーツの本質的価値を理解することにより、スポーツ分野の活動の高度化・強化にも繋がり、スポーツを通じた学園アイデンティティの形成にも繋がっていきます。これをスポーツプロモーション戦略として展開していくことで、次世代研究⼤学にふさわしい未来⼈財としての「探究⼼・探求⼒」をもった学⽣の育成にも寄与していきます。

さらに、学⽣⽣活の基盤をサポートする奨学⾦や安全・安⼼・健康の取り組み、学⽣・院⽣が⼤学づくりに参加・参画するに向けた取り組みも、再構築していく必要があります。

②探究学習の場での学びをより充実したものにするために

このような背景をふまえ、探究学習の場における「対⾯・オンライン・ハイブリッドのベストミックス」をどのようなものとしてとらえ、どのように実現していくのかについても、議論を始めるべきでしょう。新たな手法の開発と検証も重要です。遠くない将来に、リアルとバーチャルを融合した新たな⼤学のすがたとして、デジタルツインの進展やバーチャルキャンパスの創造も現実味を帯びています。例えば、①オンライン授業導⼊に伴い資格課程教育を拡⼤的に展開する、②チーム教育(教員・TA・ES・専⾨職能職員・外部⼈材による協業モデル)を確⽴する、③学⽣の学修データを「⽴命館データプラットフォーム」として統合し、⼀⼈ひとりの学⽣の意志を尊重しつつ、統合されたデータをふまえて「個別最適化」するような学修⽀援のあり⽅を検討する、といった課題が挙げられます。これらは、⼤学内の組織再編も必要となり、教員と職員の役割分担の⾒直しに併せて検討する必要があります。

このような点をふまえると、大学での学びを探究学習としての学びの場に転換しつつ、それらをどのように経験することが、⼀⼈ひとりの学⽣にとっての成⻑実感に繋がり、最適になるのか、という観点から、学びと成⻑の機会をコーディネートし、サポートするシステムが求められています。このような仕組みの積極的な展開によって、学びや成⻑を実感し、⾃らの次の学びに繋げ、またその学びを他者と共有することで、さらなる学びを喚起するといった学びと成⻑の好循環の創出を想定しています。結果として、それぞれの学生が希望する進路を開拓し、様々な課題を解決しつつ自分らしい生き方を実現する探究力を獲得できると考えています。

(4)院生に期待する役割(⽴命館⼤学の考える「院生像」)

R2030チャレンジ・デザインでは、⽣涯にわたって学び続ける⼈材育成をめざします。この学び続ける場として、⼤学院への進学による学びや、卒業後の学び直しも重要であるといえます。また何より「次世代研究大学」を実現していくうえで、院生には中心的な役割が期待されています。これからの10年で、⽴命館⼤学⼤学院のあり⽅が抜本的に変化していくなかで、⽴命館⼤学が考える⽬指すべき「院生像」も⼤きく転換していきます。これからの「院生像」を議論するにあたっては、ば各学問領域の特性、目指す進路、所属する課程、社会⼈・留学⽣といったバックグラウンドの違いなど、院生ごとの多様な属性を十分ふまえる必要もあります。また、高度な専門性が求められる職業に関わる専門職大学院の充実も不可欠です。そこで、⽴命館⼤学大学院では、院生を探究し続ける「⾃⽴した研究」の実施者と捉えたうえで、学術的な価値の創出をグローバルな次元で担いつつ、社会が必要とする新たな研究対象を開拓し、社会共⽣価値の創出に繋がる探究力を有した⼈材を輩出することが使命といえます。

(5)今後の⼤学院教学政策の展開に向けて

⽴命館⼤学では、数多くの研究組織、研究所や研究センターを各キャンパスに設置しています。R-⽴命館⼤学では、数多くの研究組織、研究所や研究センターを各キャンパスに設置しています。R-GIROや⽴命館アジア・⽇本研究機構などの総⻑直轄の研究組織を有することも特⾊の⼀つです。2021年度より、⽴命館アジア・⽇本研究機構では、⽴命館⼤学の博⼠課程で学位を取得した者のみを対象に専⾨研究員として雇⽤し、若⼿研究者⾃らの探究力を涵養し、キャリア形成に資することを企図した「AJI⼤学院連携次世代研究者育成プログラム」を開始しています。このプログラムでは、研究と教育とが融合した育成環境を構築することをめざし、若⼿研究者を育成するためにシームレスな成⻑環境を整備しています。具体的には、①「AJI研究最前線セミナー」②「AJI研究⾼度化推進プログラム」③「英語論⽂サポートプログラム」などを実施しています。このことは、院生が研究に専念しつつ、組織的に⼈材育成を⾏う特徴的な仕組みを⽣み出すことに繋がります。また、この仕組みを他の研究拠点に応⽤することで多様な展開が可能になります。このようにR2030で掲げた「研究と教育の拡⼤的再結合」に向けた取り組みを、すでに先⾏的に進めてきています。これからも研究に参画した院生が、世界トップレベルの研究への繋がりを実感して成⻑できるよう、多様な研究機構・研究所・研究センターなどの研究拠点において、研究教育・⼈材育成環境の整備をしていきます。

研究組織では、若⼿研究者の育成が重要なミッションであり、2021年度末に策定した第4期研究⾼度化中期計画でも、院生の研究⽀援が重要な課題として据えられています。院生には、NEXTフェローシッププログラムやRARA学⽣フェローなどの奨学制度が拡充していくなかで、個々の専⾨性に⽴脚し、研究グループを組織し、リーダーシップを発揮することで、研究上の「node」(結節点)となることも期待しています。この実現に向けて、研究所・研究センターの活動が連携し、データサイエンスと既存研究分野の融合・超越や企業との共同研究と連動した育成などの取り組みをさらに進展させます。

このほかにも、院生が、海外研究機関などと連携して研究する機会の創出も重要です。院生の意欲や希望を丁寧に把握しながら、院生の研究機会の拡大に取り組みます。

また、日本で研究することへの関心や意欲の高い留学生を、これまで以上に受け入れていくための条件整備や、キャンパス内で学生や院生などとの共修の機会をさらに充実したものにする取り組みも進めます。

NEXT:第Ⅲ章R2020期間の財政運営と立命館大学の2023年度以降の学費・財政政策について

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