アジア・マップ Vol.01 | アラブ首長国連邦

《総説》
アラブ首長国連邦という国

堀拔功二(日本エネルギー経済研究所・主任研究員)

1.UAEの成り立ち
 アラブ首長国連邦(United Arab Emirates; UAE)はペルシア湾の南側に位置する国家で、国土面積は約8万3600平方キロメートル(北海道とほぼ同じ面積)である。周囲をオマーン、サウジアラビア、カタル、ペルシア湾の対岸にあるイランに囲まれている。1971年12月に英国の保護領から独立し、2021年に建国50周年を迎えた。その名が示す通り、7つの首長国(アブダビ、ドバイ、シャールジャ、アジュマーン、ウンム・アル=クワイン、ラアス・アル=ハイマ、フジャイラ)から構成される連邦君主制の国家である。UAEは豊かな石油収入や中東のビジネス拠点として知られている。

 UAEの人口は独立以来、増加の一途をたどっている。国連人口統計によると、1971年の独立時にはわずか32万人程度の人口であったのが、2021年時点で933万人を数えている。特徴的なのは国民と外国人(移民)の人口構成である。人口の約90%は外国人で、UAE国籍を持つ人々はわずか10%程度と推定されている。外国人の多くは欧米やアラブ諸国、南・東南アジア諸国、アフリカなど、様々なところからやってきている。

 公用語はアラビア語であるが、多様な人口構成が示す通り言語も様々であるため、英語が事実上の公用語となっている。同様に国教もイスラームであるが、外国人のなかにはキリスト教やヒンドゥー教に属する者も多い。2020年のUAE・イスラエル国交正常化以降ではユダヤ教徒の数も増えており、国内には初めてシナゴーグも設置された。UAEへ仕事や観光で訪れる外国人も多く、社会的・文化的にも多様な風景が見られる。

写真1:UAEの国家運営は多くの外国人労働者によって支えらえてきた

写真1:UAEの国家運営は多くの外国人労働者によって支えらえてきた

2.政治の仕組み
 UAEの政治システムは、連邦政府と首長国政府に分けられる。中央政府と地方政府の関係と捉えても問題ない。憲法ではそれぞれの管轄権が定められており、外交や国防、教育などは連邦政府が管轄する。最も重要な点は天然資源の開発・処分権が各首長国に与えられているという点である。UAEに埋蔵される石油資源の約9割はアブダビに眠っているため、UAEにおける石油開発から生産、輸出、そして石油収入の活用に至る一切はアブダビ政府の責任によって行われているのである。この点が、UAE政治のダイナミズムを生み出している。とはいえ、その石油収入の大半がアブダビに独占されているわけではなく、一部は連邦財政等への拠出を通じて国内で再配分されてきた。

 UAEには歴史的に各地を統治してきた首長家があり、ナヒヤーン家(アブダビ)、マクトゥーム家(ドバイ)、カースィミー家(シャールジャ、ラアス・アル=ハイマ)、ヌアイミー家(アジュマーン)、ムアッラー家(ウンム・アル=クワイン)、シャルキー家(フジャイラ)がある。首長位は首長家内で継承されるもので、明確な継承ルールが存在するわけではないものの、一般的には指導者たる資質や経験、政治力が考慮され、一族の合意によって選出される。首長や副首長、後継者候補である皇太子は、今日でも首長国政府の中心にある。

 これらの7つの首長国が連邦制度の下で一つの国家として運営されるのが、UAEである。7人の首長が集まる連邦最高評議会が最高権力機関であり、7首長の互選によって大統領と副大統領が選出される。国家元首である大統領はアブダビ首長が、副大統領はドバイ首長が選出されることが慣例となっている。また大統領が連邦政府の首相を任命するが、これもドバイ首長が指名されてきた。そして、首相、副首相、国防相、内相、財務相など「主権の諸省」と呼ばれる重要ポストにはアブダビやドバイ首長家のメンバーが就いており、それ以外のポストにはテクノクラートが配置されている。2000年代半ばから連邦政府では行政改革が行われ、政府機構の近代化・効率化が進んだ。また寛容・共生や先端技術など、UAEが重視する戦略や価値観を推進するための政策が積極的に取り組まれている。

 このように、UAEの政治は首長家要人とテクノクラートによって運営されている。その一方で国民の政治参加は制限されている。UAE国民は政府から資源収入の手厚い配分を受けており、豊かな社会経済生活を享受しているため、概ね体制を支持しているといえる。議会として40議席からなる連邦国民評議会が設置されており、そのうち20議席は選挙を通じて国民から選出される。しかしながら、連邦国民評議会には立法権はなく、さらに現時点では完全な普通選挙の実施には至っていない。

写真2:建国の父ザーイドと7首長の肖像画※2009年撮影

写真2:建国の父ザーイドと7首長の肖像画※2009年撮影

3.対外関係の特徴
 UAEは建国以来、諸外国とバランスの取れた外交関係を築いてきた。湾岸協力会議(GCC)やアラブ連盟、イスラーム協力機構(OIC)に加盟しており、アラブ・イスラーム諸国との友好的関係を重視。石油収入の一部を、経済・財政支援やインフラ開発などの対外援助を通じてこれらの国へ配分している。また米国、英国、フランスとは安全保障分野で協力関係にある。後述する日本を含むアジア諸国は、UAE産原油の主要な輸出市場であると同時に、様々な製品を輸入するなど、経済的な相互依存関係が深まっている。

 「アラブの春」を迎えた2010年末以降、UAEの対外関係は大きな変化を遂げた。エジプトやシリアなど伝統的な域内大国が混乱に直面するなかで、UAEは国家と体制の安全確保を目的に域内で外交・軍事パワーを行使するようになった。隣国の地域大国のサウジアラビアと同盟関係を強化し、イランとの敵対関係を深めたり、2015年からはイエメン内戦に軍事介入したりした。さらには、2017年から2021年にかけて、地域政策で対立した隣国カタルと外交関係を断絶している。他方で、長らく水面下で非公式な関係があったイスラエルとは、2020年にアブラハム合意を締結して国交を樹立した。

 その後、UAEは外交方針を修正し、最近では対立していた域内諸国との関係改善を進めている。また経済発展を国益と定義し、経済主要国や新興国に対して積極的な経済外交を展開するようになった。

4.経済とエネルギー
 UAE経済は天然資源と貿易・ビジネスを両輪として、1971年の建国以来、順調な成長を遂げてきた。1975年のGDPは545億ドルであったのが、2020年には3,709億ドルと約7倍の規模にまで成長した(実質2015年基準、世界銀行統計)。また一人当たりのGDPは36,285ドルと高い。

 UAEは世界規模の産油・産ガス国として知られている。BP統計(2022年版)によると、石油埋蔵量は978億バレル(世界8位)、生産量は日量367万バレル(世界7位)である。また天然ガスの埋蔵量は5.9兆立方メートル(世界第9位)、生産量は570億立方メートル(世界第15位)である。1954年にアブダビで初めて油田が発見され、1962年に生産・輸出が開始された。また1977年には液化天然ガス(LNG)の輸出が始まった。近年は世界的な脱炭素化の潮流を受けて、クリーン・エネルギーとして期待される水素やアンモニアの開発・生産にも力を入れ始めた。 経済・産業構造を見ると、とくに商都ドバイを中心に多角化が進んでいる。2020年の部門別の国内総生産(GDP)を見ると、鉱業・砕石(石油)が17%で、卸売・小売(14%)、金融・保険(10%)、製造(10%)が続いている(UAE政府統計より)。UAEはビジネスに必要なインフラや法制度が整っており、多国籍企業が地域拠点を構えるケースが多い。またエミレーツ航空やエティハド航空など世界的な航空会社を有しており、グローバルな交通ハブとしても栄えるようになった。2021年10月から22年3月にかけて開催されたドバイ万博には国内外から2,400万人が集まったが、観光もUAEが拡大を進める経済部門の一つである。

写真3:ドバイはわずか50年で湾岸の港町からグローバル・シティへ成長

写真3:ドバイはわずか50年で湾岸の港町からグローバル・シティへ成長

5.日本との関係
 日本はUAEが独立した1971年12月に国家承認し、翌1972年5月に国交を樹立した。1973年にUAEが東京に大使館を設置し、翌1974年に日本がアブダビに大使館を設置し、外交関係は本格化した。さらに日本は1995年にドバイ総領事館を設置した。要人往来(首脳級)としては、1970年の大阪万博にはアブダビ館が出展されており、これに合わせてハリーファ・ビン・ザーイド・アブダビ皇太子(後の第2代UAE大統領)が来日を果たしている。その後、UAEから首長家・政府関係者の来日が相次ぎ、1990年にはザーイド・ビン・スルターン初代大統領が国賓として日本訪問を果たした。また日本側からは、1978年の福田赳夫首相に始まり、1995年には徳仁皇太子ご夫妻、2007年、2013年、2018年、そして2020年には安倍晋三首相がUAEを訪問している。

 なお、日本・UAE関係は国交樹立以前より始まっている。1967年12月に日本の石油会社(丸善石油、大協石油、日本鉱業)がアブダビの石油権益を獲得したことは、その後の二国間関係の方向性を決めるものになった。UAEにとって日本は主要な石油輸出国であり、最盛期の2002年には日本がUAE産原油の約7割を輸入していた。今日、日本のエネルギー企業が世界中で有する石油権益の約4割がアブダビに集中していると言われており、UAEは日本のエネルギー安全保障を支える重要な国であると言える。

 日本・UAE関係はエネルギーを基軸としながらも、その関係は多様化している。二国間の非エネルギー貿易量は年々拡大している。特筆すべきは、UAEが中東地域におけるビジネス・貿易ハブに成長するとともに、同地へ進出する日本企業数と在留邦人数も増加を続けていることである。1973年時点ではわずか137人であったのが、1977年には1,000人を超え、今日では4,428人(2021年10月現在)の日本人がUAEに住んでおり、中東最大の邦人コミュニティを形成している。また日本を観光目的で訪れるUAE人も増えている。2022年11月よりUAE人は日本入国に際してビザを免除されたため、今後もUAE人観光客は増えていくことになるだろう。

書誌情報
堀拔功二「《総説》アラブ首長国連邦という国」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, AE.1.01(2023年3月22日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol01/uae/country/