アジア・マップ Vol.03 | 韓国
《総説》
革新と拡張を続ける韓国の現代音楽「K-POP」
K-POPは、韓国の大衆音楽産業が生み出した独自の音楽スタイルであり、今日では世界的な文化現象として認知されている。その形成には、韓国の社会経済的変化、技術革新、そしてこれに柔軟に対応してきた韓国音楽業界の戦略が深く関わっている。
1992年に登場したソテジ・ワ・アイドゥルは、韓国音楽における革命的な存在であり、ヒップホップやロックを融合させた新しい音楽スタイルが若者を中心に支持されて韓国の大衆音楽の流れを大きく変えた。この革新は、のちのK-POPの発展において極めて重要な転機となった。
以下、K-POPの革新と拡張の過程を時期別に第一世代から第五世代に分け、それぞれの特徴や展開を概観する。
K-POPアイドルの世代別発展
⑴ 第一世代(1990年代中盤~2000年代初頭デビュー)
K-POPの第一世代は、1990年代中盤から2000年代初頭にかけて登場した。代表的なグループにはH.O.T.、Sechs Kies、S.E.S.、Fin.K.L.などがある。彼らは韓国国内でアイドル文化を確立し、初めてのファンダム文化を形成した。この時期のK-POPは、国内市場を中心としながらも、中国や台湾などアジア市場への進出が試みられた。
H.O.T.は2000年に北京でコンサートを開催し、中国市場におけるK-POPの可能性を示した。しかし、この世代の海外進出は限定的であり、主に韓国国内での活動が中心であった。また、海外でインターネットの普及が進んでいない時代であったため、音楽の流通やプロモーションの手法も韓国国内市場に依存していた。
当時のアイドルたちは、歌唱力やダンスだけでなく、テレビ番組やバラエティへの出演を通じて国民的な人気を得ることが求められていた。音楽市場はCD販売が中心であり、ファンとの交流の場も限られていたが、こうした制約の中で韓国のアイドル文化は確実に成長していった。
⑵ 第二世代(2000年代中盤~2010年代初頭デビュー)
第二世代は、2000年代中盤から2010年代初頭にかけてデビューする。東方神起、BIGBANG、少女時代、KARA、Super Junior、Wonder Girlsなどが含まれる。
この世代の特徴は、アイドルシステムがより体系化され、トレーニング期間が長期化したこと、そして日本市場への本格的な進出が行われたことである。
第二世代の日本進出の礎を築いたのは、BoAの成功であった。BoAは2001年に日本でのデビューし、本格的なローカライズ戦略を導入した。彼女は日本語の楽曲を発表し、日本の音楽市場に適応するために徹底した日本語トレーニングを受けた。2002年にはアルバム『Listen to My Heart』がオリコンチャートで初登場1位を獲得し、ミリオンセラーを達成した。
BoAの成功を受け、韓国の芸能事務所は日本市場を本格的なターゲットとして認識し始めた。その流れの中で、東方神起が2005年に日本デビューを果たし、日本語楽曲を中心にした活動を展開する。彼らはライブパフォーマンスを重視し、日本のファンとの継続的な交流を図ることで、徐々に知名度を向上させた。その結果、東方神起は2009年に東京ドーム公演を成功させている。
また、KARAや少女時代は日本語曲をリリースし、オリコンチャート上位にランクインするなど、K-POPの国際的な認知度を高めた。
他方、Wonder Girlsは2009年に「Nobody」でアメリカ市場に進出し、ビルボードHot 100にチャートインした最初のK-POPグループとなった。この世代のK-POPは、アジア圏のみならず、欧米市場への可能性を模索し始めたのである。
⑶ 第三世代(2010年代中盤~2018年頃デビュー)
2010年代中盤から2020年代初頭にかけて登場したのが第三世代で、EXO、BTS(防弾少年団)、BLACKPINK、TWICE、SEVENTEENなどがその代表である。
この世代の特徴は、SNSの活用によるグローバルマーケティングの成功である。特にBTSは、YouTubeやTwitterを活用して世界中のファンと直接つながる戦略を採用し、グローバルファンダム「ARMY」を形成した。2018年にはビルボード200で1位を獲得し、K-POPの国際的な評価を一変させた。デジタルプラットフォームがK-POPの国境を越えた拡散を容易にしたのである。一方で「ARMY」は、国境を越えて構成員が団結してチャリティー活動や社会運動に積極的に参加し、時にはBTSのメンバーや所属事務所HYBEに対しても積極的に発言するようになった。これを可能にしたのもまた、デジタルプラットフォームの存在であった。
BLACKPINKもYouTube戦略を駆使し、アメリカやヨーロッパでの人気を獲得した。「DDU-DU DDU-DU」のミュージックビデオはK-POPガールズグループとして初めて10億回再生を達成した。
こうして第三世代では、K-POPがグローバル市場における主要な音楽の一つとなったのである。
⑷ 第四世代(2018年末~2022年デビュー)
第四世代には、Stray Kids、ATEEZ、ITZY、(G)I-DLE、TOMORROW X TOGETHER(TXT)、ENHYPEN、aespa、NewJeans、LE SSERAFIMなどがいる。この世代の特徴は、ソーシャルメディアの活用とデジタルネイティブ世代へのアプローチであり、YouTubeだけでなく、TikTokやInstagram Reelsなどの短尺動画プラットフォームが主要なプロモーション手段となった。
特に、Stray KidsやTXTは、従来のK-POPグループとは異なり、メンバー自身が楽曲制作やプロデュースに積極的に関与することで、独自の音楽的個性を確立した。
また、aespaは「メタバースコンセプト」を導入し、バーチャルメンバーとリアルメンバーが共存する新しいアイドルの形を提示した。これは、第四次産業革命と呼ばれる時代の流れに合わせたK-POPの進化を象徴するものといえよう。
さらに、NewJeansは、従来のK-POPに見られる派手なメイクや衣装を排し、より「自然体」なスタイルを採用することで、Z世代のファンの共感を呼んだ。これにより、K-POPのスタイルがより多様化し、固定化されていたアイドル像に変革がもたらされた。
グローバル市場においても、第四世代のK-POPグループはアメリカ、ヨーロッパ、南米など幅広い地域で人気を獲得している。これまでのK-POPは、欧米市場への進出にあたり、英語楽曲のリリースや現地プロモーションが必要不可欠であったが、第四世代では、韓国語の楽曲のままで国際的にヒットする事例が増えている。これは、YouTubeやSpotifyの普及により、言語の壁を越えた音楽消費が一般化したことによるものである。
⑸ 第五世代(2023年~デビュー)
近年デビューした第五世代K-POPグループには、ZEROBASEONE(ZB1)、ILLIT、BABYMONSTER、BOYNEXTDOOR、KISS OF LIFE、xikers、tripleSなどがいる。この世代の特徴は、よりグローバルなプロダクション体制とファンダムの多様化である。K-POPのプロダクションはこれまで韓国内に集中していたが、第五世代ではデビュー前から国際市場をターゲットにし、多国籍メンバーを積極的に起用する傾向がより強まっている。
例えば、YGエンターテインメントによる新世代ガールズグループのBABYMONSTERは、多様な国籍(韓国、日本、タイ)のメンバーで構成されている。彼女たちはデビュー前から世界的な注目を集め、YouTubeでのトレーラー動画の再生回数が短期間で数千万回を超えるなど、グローバルな戦略が徹底されている。
また、ILLITは、従来のK-POPのフォーマットを踏襲しつつも、よりリラックスしたコンセプトを前面に打ち出している。これにより、K-POPアイドルのスタイルがさらに多様化し、「アイドルらしさ」の定義が一層拡張されている。
さらに、tripleSは「オープンワールドアイドル」をコンセプトに、ファン投票によりグループ内ユニットの組み合わせを変える新たな試みを行っている。このように、第五世代ではファンダムの参加型要素が強化され、アイドルとファンの関係がよりインタラクティブなものへと変化している。
音楽的にも、第五世代のK-POPはオルタナティブポップやインディーポップの要素を取り入れるなど、より多様なジャンルへの挑戦が顕著になっている。加えて、AI技術やメタバースの導入が進んでおり、今後はAIプロデュースによるK-POPグループが登場する可能性も高まっている。
このように、第五世代においてはこれまで以上にグローバル化と技術革新が加速している。
さらなる革新と拡張へ
K-POPの発展は、韓国の社会的、経済的、文化的変化の産物であり、その成功は計画的な産業戦略、デジタル技術の活用、そしてファンダム文化の形成に支えられている。特に第五世代に突入したとされる現在、K-POPは音楽スタイルやマーケティング手法を革新し続けながら、世界的な影響力を拡大している。
今後、K-POPがさらにどのような革新を遂げ、どのような方向へと拡張していくのか、その動向が世界中の音楽業界から注目されている。
書誌情報
山本浄邦《総説》「革新と拡張を続ける韓国の現代音楽「K-POP」」『アジア・マップ:アジア・日本研究Webマガジン』Vol.3, KT.1.01(2025年00月00日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol03/korea/country01/