アジア・マップ Vol.03 | カタル

《総説》
カタルにおける高等教育

中島悠介(京都大学大学院教育学研究科 准教授)

1.基本情報
 カタルは中東湾岸地域に位置し、イスラームを国教としている。面積は11,427㎢であり、秋田県よりもやや狭い面積に相当する。人口は約300万人だが、そのうち自国民が10~20%程度を占めるため、アラビア語が公用語であるが英語が広く通用する社会となっている(写真1)。1916年に英国の保護下に入ったが、1968年に英国がスエズ以東から軍事撤退を行うことを宣言したことにより、1971年に独立を果たした1。また、1940年代に発見された原油と天然ガスの生産・輸出により生み出されたオイルマネーを背景に、一人当たりの国内総生産は湾岸諸国でも最高水準を維持している点も特徴的である。

2.高等教育の動向
 カタルにおける高等教育部門の展開については、カタル大学(写真2)が1973年に最初の高等教育機関として設立されて以降2、2025年7月時点で33の機関が確認できる。このうち、7校の公立高等教育機関(カタル大学やカタル・コミュニティ・カレッジなど)、6校の軍事高等教育機関(アフメド・ビン・モハメッド軍事カレッジ、サイバー・セキュリティ・アカデミーなど)、9校のカタル基金大学(ハマド・ビン・ハリーファ大学、ジョージタウン大学カタルなど)、そして11校の私立高等教育機関が含まれている。後述の通り、カタルの高等教育の特徴として、外国高等教育機関の分校(以下、外国大学分校と表記)を多く受け入れていることが挙げられるが、このなかで8校の外国大学分校が展開している3。外国大学分校の分類は設立の目的によって異なり、7校の分校がカタル基金との関わりをもつカタル基金大学となっている。

 カタルの高等教育機関における就学状況を見てみると、公立高等教育機関に在籍している学生数(2020/2021年度、以下同じ)は、男子が10,025人、女子が24,230人となっている。また、学生の国籍については、多い順にカタルが22,577人(男子5,369人、女子17,208人)、エジプトが1,403人(男子727人、女子676人)、イエメンが1,202人(男子409人、女子793人)と続いている。さらに、パキスタンが658人、インドが647人となっており、南アジアからも一定数の学生が就学している。その一方で、私立高等教育機関及びエデュケーション・シティに立地している高等教育機関4については、全体で7,170人(男子2,832人、女子4,338人)の学生が在籍している。加えて、教育・高等教育省は国外の高等教育機関に就学する者に対して奨学金を提供しているが、そちらは男子が407件、女子が232件となっている。国外の行先としては、多い順に英国が471件、米国が90件、マレーシアが11件、日本が10件と続いている5

 近年の動向として注目すべきことは、2022年に国家資格・学術適格認定委員会(National Committee for Qualifications and Academic Accreditation, NCQAA)が設立され、質保証の取り組みとして適格認定や国家資格枠組みを適用する役割が付されたことである。国家資格枠組みでは、教育機関や高等教育機関を修了した際に得られる資格を11段階に整理し、それぞれの資格に対して求められる学習成果を「スキル」と「コンピテンシー」の観点から明示されている。主に高等教育段階に対応しているのは、レベル7の学士学位(Bachelor’s Degree)、レベル9の修士学位(Master’s Degree)、レベル11の博士学位(Doctor of Philosophy)であり、さらなる質保証の仕組みを整備しようとしている6

3.外国大学分校の展開と高等教育の国際化
 カタルは世界有数の外国大学分校の受入国となっており、これらの分校の多くは、ドーハ郊外のエデュケーション・シティに立地している。2025年時点で運営されている外国大学分校として、ヴァージニア・コモンウェルス大学カタル(1998年設立/米国/デザイン)、ウェイル・コーネル医科カレッジ・カタル(2001年設立/米国/医学)、テキサスA&M大学カタル(2003年設立/米国/工学)、カーネギー・メロン大学カタル(2004年設立/米国/情報科学、写真3)、ジョージタウン大学カタル(2005年設立/米国/国際政治・地域研究)、ノースウェスタン大学カタル(2008年設立/米国/ジャーナリズム)、HECパリ・カタル(2010年設立/フランス/MBA)、マレーシア国民大学カタル(2023年設立/マレーシア/会計・コンピュータ)が確認できる7 。このように、1つの分校が多数の分野のプログラムを提供するのではなく、各分校がそれぞれの強みを活かすプログラムを提供し、1つのロケーションに集積することによって、エデュケーション・シティがさながら総合大学の様相を呈していることも特徴である(写真4)。

 カタルにおいて多くの外国大学分校が展開してきた背景には、国内の高等教育部門が発展の途上にあり、潤沢な資金を背景に欧米諸国の有名大学を誘致することで、高等教育部門において補完的な役割を果たしてきたことが挙げられる。また、イスラームの文化と欧米諸国の文化の緩衝機関としての役割も指摘されている。つまり、宗教的理由により男女隔離などを求める学生層に対してはカタル大学が適しており、一方で、世界最先端の技能や知識を求める学生層には外国留学が適しているが、その中間には高度な科学教育を求めながらも欧米諸国の文化への接触を躊躇する層があり、このグループにはカタル国内の外国大学分校が最も適した選択肢となりうる8

 このようにカタルでは多くの外国大学分校が展開してきたが、近年は閉校された分校もいくつか見られる。それらは、ステンデン大学カタル(2000年設立→2021年閉校/オランダ/観光学)、ノース・アトランティック・カレッジ・カタル(2002年設立→2022年閉校9/カナダ/工学・ビジネス)、カルガリー大学カタル(2007年設立→2025年閉校/カナダ/看護学)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン・カタル(2010年設立→2020年閉校/英国/博物館学)が挙げられる。これらの分校の撤退のきっかけはカタル基金との契約の満了など様々だが、テキサスA&M大学カタルなど将来的な閉校を検討している分校もあり、外国大学分校が安定的に展開してきたとされる状況も変わりつつあるように見える。

 その一方で、カタル高等教育の国際化および外国大学分校の展開について、新たな潮流も見られる。第1に、2023年に欧米諸国以外の高等教育機関によるはじめての分校として、マレーシア国民大学カタルが設立されたことである。マレーシア国民大学カタルは私立高等教育機関であり、また、独立した大学とされ、現地のパートナーとしてリージョナル・グループ(The Regional Group)が運営に関わっている10。上記の通り、これまでカタルに進出してきた外国大学分校は主に欧米諸国に由来していたが、マレーシア国民大学カタルが設立されることで、イスラームを国教とする国ぐにとも関係をより強固にしようとする意識が見て取れる。そして第2に、外国大学が直接的に分校を設立する形態ではなく、国内の高等教育機関が国際的なパートナーシップを結ぶことが増加していることである。例えば、ダービー大学・アル=ライヤン・インターナショナル・ユニバーシティ・カレッジ(Al Rayyan International University College with the University of Derby)やスウィンバーン工科大学・バルザン・ユニバーシティ・カレッジ(Barzan University College with Swinburne University of Technology)をはじめ、複数の高等教育機関が教育・高等教育省のウェブサイトで確認できる。これらの機関では学位が提携機関の国で認定されていたり、提携校から学位が授与されたりすることも宣伝されている。このように、カタルにおける高等教育国際化の様相も、欧米諸国の外国大学分校が積極的に進出していた状況から、新たな展開を迎えようとしているのかもしれない。

写真1

写真1. カタルの街並み(筆者撮影)

写真2

写真2. カタル大学景観(筆者撮影)

写真3

写真3. カーネギー・メロン大学カタルの校舎(筆者撮影)

写真4

写真4. エデュケーション・シティの標識(筆者撮影)

注釈
1外務省「カタール国(State of Qatar)基礎データ」https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/qatar/data.html(2025年7月30日取得)。
21973年に設立されたのはカタル大学の前身となる教育カレッジであり、現在の総合大学としての形態になったのは1977年より。
3Ministry of Education and Higher Education. “Higher Education in Qatar.” https://www.edu.gov.qa/en/Content/HigherEducationinQatar(2025年7月30日取得).
4この教育機関には、ブリッジ・プログラム、ヴァージニア・コモンウェルス大学カタル、ジョージタウン大学カタル、カーネギー・メロン大学カタル、ウェイル・コーネル医科カレッジ・カタル、テキサスA&M大学カタル、ノースウェスタン大学カタル、HECパリ・カタルが含まれている。
5Planning and Statistics Authority. “Chapter IV Education Statistics.” 2021, p.25, 26, 38, 41, 42.
6Ministry of Education and Higher Education. “National Qualifications Framework State of Qatar.” https://www.ncqaa.edu.gov.qa/?file=45a3eae9-a807-4ae4-b506-6c1b3e31562f(2025年7月30日取得).
7Qatar Ministry of Education and Higher Education. “Higher Education in Qatar.” https://www.edu.gov.qa/en/ Content/HigherEducationinQatar(2025年7月30日取得)を含め、各大学ホームページを参照。なお、マレーシア国民大学カタルはエデュケーション・シティ外に立地している。
8杉本均・中島悠介「トランスナショナル高等教育の展開―中東諸国を中心として―」杉本均・南部広孝編『リーディングス 比較する比較教育学』東信堂、2023年、266頁。
9現在はノース・アトランティック・カレッジ・カタルの名称は使用されていないが、ドーハ科学技術大学という独立した高等教育機関として展開。
10UKM-Qatar. “About UKM-Qatar.” https://ukm.qa/about-ukm/(2025年7月30日取得).

書誌情報
中島 悠介《総説》「カタルにおける高等教育」『アジア・マップ:アジア・日本研究Webマガジン』Vol.3, MN.1.01(2025年1月6日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol03/qatar/country01