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2024.02.22

【レポート】第64回AJI研究最前線セミナーを開催しました!千暻娥氏(チョン キョンア)「韓国における生ごみ資源化の現状と課題」

 2月13日 (火) 、第64回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回のセミナーでは、千暻娥氏(立命館大学 立命館アジア・日本研究機構 補助研究員)より「韓国における生ごみ資源化の現状と課題」と題して、大変有益な研究発表をしていただきました。

 千氏は、韓国における生ごみリサイクルとその資源利用、および、アメリカ、フランス、日本の都市部におけるごみ処理との比較研究をご専門としています。韓国は、国際的にも生ごみ処理の義務化と処理システムに成功したモデルと考えられています。今回の発表では、韓国が生ごみ処理の資源化を推進してきた歴史的経緯や現状、今後の課題などについてお話いただきました。

 韓国は、1980年代前後の時期に深刻なごみ処理の問題を抱えていました。その深刻さを典型的に示すのが蘭芝島(ナンジド)のごみの山です。そのごみの山は100メートル近くに達し、世界で最も高いごみ山として知られていました。また、堆積したごみの山は、周辺の生態系にまで悪影響を及ぼしていました。

 こうした状況から、いかに韓国は循環型社会へと舵を切ったのでしょうか。千氏は、その歴史的経緯について、韓国社会で市民運動の機運が高まったことや、当時問題となっていたダイオキシン問題と相まって、埋め立てや焼却処理施設建設への住民からの反発が高まった経緯について明快な説明がなされました。

 以上の社会状況のなかで、韓国政府は、蘭芝島一帯の大規模な改修・緑化に取り組み、その結果、その地区は生態公園へと姿を変えました。公園内にはごみ処理施設や、ごみ処理から生まれる熱を資源利用する発電所が併設されています。こうした取り組みは、蘭芝島だけでなく、韓国社会全体の循環型社会化をめざす政策的方向性のなかで実現してきました。

 くわえて、韓国において、国家全体でリサイクル率を高める方針を統一し、各自治体間で協力して、資源利用する仕組みがいかに機能しているのかについての詳細な研究成果も示されました。特に、1991年のごみ分別の義務化や95年のゴミ従量制度の導入、また、2005年の生ごみの埋め立て禁止などの規制の導入を通じて、焼却率や埋め立て率が大幅に下がり、リサイクル率が増大しました。こうした規制強化と並行して、現在の韓国における生ごみ処理の仕組みが形成されていきます。千氏は、生ごみ納付ステッカーの購入と連動した生ごみ専用容器による処理や、街路に設置されている「生ごみ無線認識計量器(RFID)」を通じた処理の方法など、興味深い事例を紹介しました。以上の方法を通じて、韓国では自治体から排出される生ごみの総量を把握し、効率的に処理することができます。こうしたゴミ処理の方法について、日本では、千葉県市川市における「RFID」に似た装置の実験的導入の事例が見られるのみで、広く認知されているとは言えません。

 発表の最後には、生ごみの資源利用という場合、韓国では、家畜の飼料化、堆肥化、バイオガス化などが主たる資源化の方法とされていますが、飼料化や堆肥化の割合を減らし、いかにエネルギー資源化に重点を移していくかということが韓国のごみ処理の次なる課題であることも示されました。

 Q&Aでは、韓国と日本の間のごみ処理にかかるコストの違いや、住民負担への意識を高めるインセンティブについて議論が及びました。千氏は、一つ一つの質問に対して丁寧かつ明快に答えました。韓国のごみ処理コストが比較的高いこと、それにもかかわらず、市民がコストを引き受ける傾向があることが、現在の韓国社会における先進的なごみ処理モデルを可能にしているという興味深い見方もお示しいただきました。

発表を行うDr. Dinia
発表を行う千暻娥氏

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/