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2024.12.04
【レポート】 第73回AJI研究最前線セミナー開催!Dr.ジョアナ・オビスポ: “Mapping the Creative Workforce: Voiceover and Localization Talents in the Philippine Cultural and Creative Industries (CCIs)”
2024年11月12日 (火)、第73回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回は、Dr.ジョアンナ・ルイサ・B・オビスポ(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)が、“Mapping the Creative Workforce: Voiceover and Localization Talents in the Philippine Cultural and Creative Industries (CCIs)”と題して発表しました。
まず、Dr.オビスポは、東南アジア、特にフィリピンの創造産業(creative industries)が知的財産の創出と活用を通じて経済的利益や雇用を創出する大きな可能性を秘めていることを説明しました。フィリピンのアニメーション産業は、制作前段階の絵コンテから制作後の吹替までの業務を手掛けています。また、大企業や中小企業に所属しているアーティストもいますが、大半がフリーランスとして活動しています。
フィリピンは、業務委託(business process outsourcing)の部門において世界有数のプロバイダーの一つですが、創造産業に従事する労働者の人々のアイデンティティ、ニーズ、貢献については十分に理解が進んでいないという現状があります。彼女の研究は、こうしたギャップを埋めることを目的としています。彼女が行ったインタビュー調査によれば、アーティストのほとんどは首都マニラ周辺で活動しており、マスコミュニケーション学やアート関連の学位を取得しています。こうした人々が仕事を求め、平均して週に約5回ものオーディションを受け、年間最大15にのぼるプロジェクトに参加しています。また、これらのアーティストが雇用される形態は様々です。例えば、何らかの配役募集や個人間のやり取りを通して、あるいは、アーティスト集団に参加したり、プロダクション会社からのオファーを受けたり、ソーシャルメディア経由であったり、ソーシャルメディアの広告や企業のPR動画のために雇われたり、あるいはまた、ラジオやコマーシャルへの出演、映像の説明音声、ライブイベント、アニメーション、YouTube上での仕事であったります。
Dr.オビスポによれば、一方で、欧米諸国においては、創造産業に従事する労働者は高給を得ており、また、日本では声優がアイドルに近い社会的地位を持つ有名人であるケースが多く見られます。他方で、フィリピンでは、リハーサルの時間がなかったり、台本が検閲されたり、給料が他のアジア諸国の人々に比べて低かったり、訓練や教育もほとんど受けられなかったりという境遇に置かれています。これとは対照的に、日本では、声優プロダクションに所属し、実際の就職に向けて力を入れている声優養成学校が多く存在します。
以上の問題点に加えて、Dr.オビスポは、フィリピンで活動する人々が、あらゆるソースから文化的コンテンツを入手し、それを現地の言語を使って視聴者に発信し、文化を共有する「ローカライザー」としての努力を展開していることにもっと注意を向ける必要がある点を強調しました。そのために、創造的な労働者を保護し、彼らの活動を維持する目的において、法律や政策の確立を通してフィリピンの文化創造産業を公的支援の対象として認め、この産業を「社会的起業」として理解していく必要があると論じました。
質疑応答では、参加者からフィリピンの方言や「ローカライザー」の仕事に関する質問や、フィリピンにおける人気番組や他のアジア諸国への業務委託の状況について質問が投げかけられ、活発な議論が共有されました。
発表を行うDr.オビスポ
過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/