NEWS

2025.05.27

【レポート】 第79回AJI研究最前線セミナー開催!Dr. Nguyen Anh Tuyet, “Household Debt and Their Impact on Mental Health among Older Adults: Evidence from a Longitudinal Study in Vietnam”

2025年5月13日(火)、第79回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回はDr. Nguyen Anh Tuyet(大阪大学IAFOR研究センター リサーチフェロー)から“Household Debt and Their Impact on Mental Health among Older Adults: Evidence from a Longitudinal Study in Vietnam”と題して発表をしていただきました。

まず、Dr. Nguyenは少子化と高齢化が進む現在において、人口の高齢化とメンタルヘルスの問題が重要な課題であることを指摘するところから発表を始めました。特にベトナムは、アジアで最も出生率が低く、高齢者人口の割合が高い国の一つです。その一方で、2013年から2020年にかけて家計債務の残高が2倍に増加し、国民総債務に占める割合は46%に達しました。また、メンタルヘルスの問題を訴える人の割合は2019年の11%から2022年には41%へと大幅に増加しました。中国、アメリカ、スウェーデン、イギリスなどの国々で、家計の金融債務の増加がうつ症状のリスク増加と関連しているとする複数の研究があり、ベトナムにおいてもその影響と背景にあるメカニズムを明らかにすることが今回の発表の目的でした。

Dr. Nguyenは、2019年と2022年にベトナム12省で実施された高齢化全国調査のデータを使用しました。この調査の対象となったのは1,446人で、2,893件の観察データが示されています。うつ症状の評価にはGDS-15(高齢者うつ尺度)を用い、回帰モデルに加えて他の指標や推定方法も使用することで、分析結果の信頼性を検証しました。その結果、家計債務はうつ症状の増加と有意に関連していること、特に農村部に住み、日常生活に必要な収入が不足している人、医療費をまかなえない人、生活環境への満足度が低い人に顕著であると結論づけました。本研究は、ベトナムおよび中低所得国における家計債務がメンタルヘルスに与える影響を明らかにした初の試みであり、全国規模の調査に基づくデータを用いることで、多様な層に対する精度の高い分析が可能となっています。

発表後のQ&Aでは、計算に用いた変数や結果の扱いについての質問が寄せられました。製造業への外国投資の急増と都市開発の進展により、高学歴と低学歴、都市の富裕層と農村の貧困層との間で格差が拡大しています。Dr. Nguyenは、講演の締めくくりとして、ベトナム政府がこの問題に取り組み始め、最近では低所得世帯を対象とした医療制度や支援策を導入して状況の改善に努めていると説明しました。

発表を行うDr. Nguyen Anh Tuyet
発表を行うDr. Nguyen Anh Tuyet

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/