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2025.07.15

【Report】 第80回AJI研究最前線セミナー開催!Dr. ウスマン・アルハッサン “Mobile Money Adoption, Financial Literacy, and Informal Enterprises Performance.”

2025年6月10日(火)、第80回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回はDr.ウスマン・アルハッサン(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)が、“Mobile Money Adoption, Financial Literacy, and Informal Enterprises Performance”と題して英語で発表を行いました。

冒頭でDr.ウスマンは、一部のアジア諸国では労働力の80%以上がインフォーマル企業に従事している一方で、それらの企業は経済発展に不可欠であるにもかかわらず、その貢献度は限定的であり、成長の鈍化、信用の欠如、金融サービスからの排除などの要因によりGDPへの貢献も減少傾向にあると説明しました。その上で、彼は次の2つの問いを提示します。「モバイルマネーはアジアにおけるインフォーマル企業のパフォーマンスを向上させるか?」「金融リテラシーは、モバイルマネーという携帯電話を通じた金融サービスの効果を強めるのか、あるいは弱めるのか?」

彼は、世界銀行が実施した最新の「インフォーマル部門事業調査(Informal Sector Enterprises Survey)」のデータを用い、都市部の特定地域に集中するインフォーマル企業の実態を捉えるために、新しいエリアベースの適応型クラスターサンプリング手法(area-based adaptive cluster sampling technique)を導入しました。また、「平均処置効果(average treatment effect on the treated:処置を受けた集団が、受けなかったと仮定した場合と比べて、平均してどれくらい効果があったか)」を推定するため、エントロピー・バランシング、傾向スコア・マッチング、回帰補正付き逆確率重み付け法(inverse probability weighted regression adjustment)といった手法を用いて因果関係の推計過程に伴うバイアスを回避し、モバイルマネー利用が企業パフォーマンスに与える実質的な効果を明らかにしました。

その結果、先行研究と一致するかたちで、モバイルマネーがインフォーマル企業の業績を向上させ、顧客や取引先との支払いシステムを改善し、運営コストの管理にも貢献することが明らかとなりました。Dr.ウスマンは、アジアにおいては運営コストの構造が非常に重要であり、金融リテラシーがモバイルマネーの潜在的な負の影響を緩和することにとって鍵となると結論づけました。加えて、金融リテラシーの役割を無視すると、モバイルマネーの効果が過大評価されてしまうと警鐘を鳴らしつつ、金融リテラシーを備えた事業者では利益や労働生産性が向上することを指摘しました。モバイルマネーは、インフォーマル企業にとって正式な金融サービスへの架け橋となりうるものであり、金融包摂を推進する可能性を秘めています。

発表後のQ&Aでは、データと分析手法、アジア諸国におけるモバイルマネーの急速な普及、そして金融リテラシーに関する対応について質問が寄せられました。これに対しDr.ウスマンは、これまでのインフォーマル事業に関する研究において、金融リテラシーの重要性が見過ごされてきたことを再度強調し、それがフィンテック(FinTech)やモバイルマネーが家計福祉に与える負の側面を相殺する上で重要であると強調しました。


発表を行うDr.ウスマン・アルハッサン

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/