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2025.10.30
【レポート】第82回AJI研究最前線セミナー開催! Dr. Joanna Luisa B. Obispo “Policy Promises and Precarious Realities: Insights from Non-State Actors in the Philippine Creative Industries”
2025年10月14日(火)、第82回AJI研究最前線セミナーをにオンラインで開催しました。今回は、Dr. Joanna Luisa B. Obispo (立命館大学アジア・日本研究機構 専門研究員) より、“Policy Promises and Precarious Realities: Insights from Non-State Actors in the Philippine Creative Industries”と題して発表をしていただきました。
Dr. Obispoの今回の発表は、フィリピンのクリエイティブ産業における非国家主体(非国家アクター)の役割を検討し、政策理念とその産業に従事する人々の実際の生活状況との間にある緊張関係に焦点を当て、分析するものでした。
近年の法制度整備にもかかわらず、フィリピンのクリエイティブ産業従事者は依然として不安定な立場にあり、また、これらの人びとが果たす役割は過小評価されてきました。彼女は、非国家主体がクリエイティブ産業振興政策が約束する理念とクリエイティブ労働の不安定な現実とのギャップをどのように認識し、乗り越え、対応しているのかを明らかにしようとしています。
Dr. Obispoによると、公的な労働・保険制度の枠外にいるフリーランス労働者は、不安定な所得、福利厚生の欠如、偏見などにさらされています。特に、輸出志向のデジタル関連分野が優遇される一方で、現地の人々のパフォーマンス芸術などは軽視されてきました。さらに、COVID-19のパンデミックにおいて、フリーランスは所得支援を一切受けとることができず、こうした脆弱性をさらに拡大させる結果となりました。彼女は、本質的な問題点として、こうした政策が「創造する人」ではなく「創造された成果物」に焦点を当てていることや、全国のクリエイティブ労働者の登録制度が欠如しているといった課題を指摘しました。
このような緊張関係ないしギャップを埋めるために、NGO、組合、大学、民間団体などが、事実上の福祉提供者として、あるいは、政策の解釈・説明を担うアクターとしてデータベースや支援制度を構築し、政府側の関心を喚起しようと努めてきました。とはいえ、彼らは政策提言、教育活動、地域的な連帯などを組み合わせて活動を展開していますが、その運営はボランティア精神やプロジェクト単位の資金、断続的な支援に依存しているため限界があります。以上の考察を通じて、Dr. Obispoは、非国家主体の諸活動が関与する人々の情熱に加えて、無償ケア、提言活動、その場その場での対応によって支えられているクリエイティブ産業の実像を浮き彫りにしました。
最後に、発表では、既存の政策の枠組は、必要ではあるものの不十分であり、真の協働的なガバナンスの枠組へと発展させる必要があると結論づけられました。確かに、非国家主体は、ギャップを埋めるための重要な役割を果たしているが、それ韻加えて、制度的な認証制度の確立、長期的資金の確保、政策形成過程への非国家主体の参画が不可欠であることも強調されました。これらを通じてはじめて、持続可能なクリエイティブ産業の未来が確保されると考えられます。
発表後のQ&Aでは、日本や韓国など他国におけるクリエイティブ産業従事者の現状や、地方で活動する現地のパフォーマーへの支援をどうするかという課題に関して質問が寄せられました。Dr. Obispoは、各国で異なる経済状況が芸術表現活動の存続に大きく影響していることを指摘しつつ、フィリピン人が持つ豊かな才能が正当に支援される必要があることを強調しました。
発表を行うDr. Joanna Luisa B. Obispo
過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/