NEWS

2026.01.22

【Report】第85回AJI研究最前線セミナー開催!欧陽珊珊氏「障害とセクシュアリティの交差に関する社会学的研究:台湾身障同志の経験を中心に」

1月13日(火)、第85回AJI研究最前線セミナーを開催しました。今回は、欧陽珊珊(OUYANG Shanshan)氏(立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程)が、「障害とセクシュアリティの交差に関する社会学的研究:台湾身障同志の経験を中心に」と題して発表を行いました。

欧陽氏は、社会学を専門とし、とくにセクシュアリティと障害が交差するインターセクショナリティに関する研究をしています。彼女の研究では、これまで欧米の事例や文化を背景として発展してきたクィア・スタディーズや障害学に対して、東アジア、特に台湾や日本における障害と性的マイノリティの交差(インタセクション)に関わる生活経験や文化的・政治的を焦点化するものです。

今回の発表では、欧陽氏はまず以上の問題の図式について説明した後に、これまでの台湾現地の当事者の人びとに対して行ったインタビューや、当事者とともに参加した政治運動の経験を踏まえた研究が紹介されました。

「身障同志」と呼ばれる台湾における性的マイノリティであり、なおかつ身体障害がある当事者の人びとがいかなる戦略やコミュニケーションを通じて、権利主張を公共的な場で発信し、承認を勝ち取ってきたのでしょうか。この点に関して発表では、例えば、かつて「クィア(queer)」という性的マイノリティの人びとを侮蔑的に指す言葉が、当事者による再意味化を通じて、自己肯定と政治的主張を担う概念として回収されてきたように、欧米の運動においては「クリップ(crip)」という障害者に対する侮蔑語を、障害者自身によって規範に対抗する批判的概念としてとして位置づけ直されてきました。こうした実践は、台湾の身障同志の経験からにも見いだすことができます。身障同志たちは、自らの複合的アイデンティティを表す「残酷児」という言葉を創出しました。中国語圏では「残」は「障害」という意味を持ち、「酷児」は「クィア」の訳語として使われます。また「残酷」という言葉が含まれるように、ネガティヴな意味を持つものでしたが、身障同志は運動を通して「酷」の文字に含まれる「cool(かっこいい)」というニュアンスや、「酷児(クィア)」に込められた規範への抵抗の姿勢を読み替えてきました。このような再意味化の実践は、台湾の文化的・言語的土壌の中から生み出された、きわめてローカルかつ創発的な実践であります。

そうした公共的な場における承認を確立する過程と合わせて、台湾という東アジアの家族主義的な文化において承認を獲得するための固有の文脈についても議論が及びました。欧陽氏によれば、台湾では欧米社会におけるように「カミング・アウト」モデルを通じて支配的な価値観と対立するモデルとは違い、「カミング・ホーム」モデルと呼ばれる文脈において承認を得るためのコミュニケーションが行われます。後者のモデルでは必ずしも当事者の人びとが性自認を直接的に宣言せず、パートナーの紹介、セクシュアリティを前景化させない話題、性自認と身体障害を受け入れた上での社会的自立の追求など、いわば迂回的な戦略を取りながら、家族との間で承認関係を形成していきます。以上のように、台湾において身体障害者かつ性的マイノリティの人びと(身障同志)は、公共的な場と私的領域におけるスティグマを押し付ける言葉の意味の転換や、家族主義的文化におけるコミュニケーション戦略などを通じて、「ノーマル」な性認識を問い直す実践を展開してきました。

発表後の質疑応答では、「カミング・ホーム」戦略が成功・失敗するケース、アジアの他の地域における状況、あるいは、インタビュー手法に関する質問が投げかけられました。欧陽氏は、一つ一つの質問に丁寧かつ熱心に応答し、非常に活発な議論が交わされました。

発表を行う欧陽珊珊氏
発表を行う欧陽珊珊氏

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/