NEWS

2026.07.16

【レポート】第90回AJI研究最前線セミナー開催! Dr. Zeying Wu “Nationalism and Chinese Perceptions of Disinformation regarding Japan’s Discharge of Treated Nuclear Wastewater”

6月9日(火)、第90回AJI研究最前線セミナーがオンラインで開催された。今回は、Dr. Zeying Wu(立命館大学アジア・日本研究所 助教)が“Nationalism and Chinese Perceptions of Disinformation regarding Japan’s Discharge of Treated Nuclear Wastewater”と題する報告を行いました。

本報告は、ナショナリズムが偽情報(disinformation)への認識にいかなる影響を及ぼすのかを問うもので、事実に関する知識が多いほど偽情報を正確に見抜けるという従来の想定に対し、Wu氏と共同研究者は、そこにナショナリズムという条件を新たに導入してこの前提の再検討を試みました。とりわけ、日本による処理水(ALPS処理水)の海洋放出をめぐる中国国内の公的な偽情報の受けとめ方に着目し、中国本土を対象として分析が進められています。

理論面では社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)に依拠し、ナショナリズムを「われわれ」と「彼ら」という対立を軸とする競争的な意識として定義したうえで、中国の文脈における測定可能な三つの次元、すなわち自足的な国民的誇りに根ざした内集団びいき、他者への優越意識に基づく内集団びいき、そして外集団への蔑視が示されました。また偽情報については、相手を誤った結論へ導くために意図的に加工された情報として捉え、その受けとめを、偽情報を見抜く「識別」と、見抜いたうえでなお受け入れる「黙認」という二つの次元から測定する枠組みが提示されました。

調査は、フォーカス・グループ・ディスカッションと、代表性のある標本を用いたオンライン・サーベイ実験によって行われました。4回の予備調査から、中国人回答者のナショナリズムが一様に高く、そのばらつきの小ささゆえに実験操作の効果が統計的に有意とならなかったこと、また偽情報に関する回答も社会的望ましさバイアスや天井効果によって同様に一様であったことが報告されました。こうした知見をふまえ、Wu氏らは分析の方針を見直し、ナショナリズムを独立変数としてではなく、事実知識と偽情報認識との関係を左右する調整変数として位置づけ直すこととしました。

報告後には、参加者との間で活発な質疑応答が行われ、測定や実験設計をめぐる方法論的な論点を中心に、今後の研究の発展に資する建設的な意見交換がなされました。

発表を行うDr. Zeying Wu

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/