第4回未来への対話:AJI若手研究者へのインタビュー孫怡先生インタビュー

孫怡先生インタビュー

future_04_header  個人間の違いと文化間の違いに迫る心理学
~~人事部の経験からアカデミックの世界へ~~

―― 職業として研究者をめざすようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

孫:修士・博士課程から、研究の醍醐味を感じつつ、自然にアカデミックな世界に入ったと思います。途中、一般企業で働くチャンスもありましたが、やはり研究職のクリエイティブなところと自由があるところが自分にとっては一番魅力的だったので、研究の道に進むことを決意しました。

―― なるほど。女性研究者であるということは、意識なさっていますか?

孫:はい。学生時代やポスドクの時の指導教員の先生方がみんな素敵な女性研究者でしたので、自分もそのような研究者になりたいと、この道をめざすようになりました。

―― 孫先生は、パーソナリティ心理学を専攻されていますね。どういったことを研究するのですか?また、なぜこのご専門を選んだのでしょうか?その経緯をお聞かせください。

孫:私自身の研究では、パーソナリティ(個人差)を軸に、個性の形成と変容に影響を及ぼす家庭要因や、個人の気質・性格が社会適応に与える影響などを研究しています。なぜパーソナリティ心理学を選んだかというと、元々個人差に興味があって、なぜ同じ人間でも人と人の間で違いが生まれるのだろうという素朴な疑問から、主に個人差を研究するパーソナリティ心理学の分野に入ったと思います。

―― おもしろいですね。個人差というものに関心をお持ちになったのは、特別なきっかけがあったのでしょうか?

孫:特別かどうか、わかりませんが、大学卒業後、いったん企業の人事部に就職したことがありまして、その経験が影響しています。人事部なので、そのときいろいろなタイプの人と接する機会があって、また仕事柄、各部門にふさわしい人材の選好や育成をよく考えることになったわけです。そうすると、もともと関心があったのですが、ますます個人が本来持っている遺伝的な特徴と環境・学習との相互作用に興味が沸き、この分野を研究することにしました。

――人事部に勤めていらっしゃったのですね。そこから、パーソナリティの研究に進んでいった、と。それは興味深いです。最近の研究テーマについて教えてください。

孫:最近は、子どもの個性の形成と家庭養育環境との関連を調べています。また、日中韓国際比較研究を通じて、社会文化の要因も検討しています。

―― 東アジアを射程に収めた比較研究とは、おもしろそうですね。ところで、日本での研究生活はどうですか?日本への留学経験も含めてお話をお聞かせください。

孫:日本の研究環境はとてもいいと思います。自分はずっと恵まれている環境の中で勉強と研究を進めさせていただいています。留学当初は、研究スキルも日本語もまだまだ未熟でしたけれども、指導いただいた先生は私の研究関心をとても尊重してくださって、自分が一番関心のある研究テーマをやらせていただきました。同時に日本語能力の向上を含めて、研究ノウハウや必要なサポートを提供していただきました。
現在の所属でも、研究所から充実したサポートを、技術面も資金面もですけれど、そういうサポートをいただいており、研究プロジェクトのリーダーの先生からも十分に自由な研究活動の余地が認められていて、ありがたい気持ちで仕事と子育ての生活を楽しんでおります。

―― 盤石なサポート体制のなかでこそ研究にも集中ができるのですね。研究の面白さを、どんなところに感じていらっしゃいますか。

孫:最近は、親子のwell-beingに関する国際比較研究に参画させていただいており、各国の社会文化および親子に触れる機会があって、これまで当たり前と思っていたことが他の文化においては違うということや、社会に応じていろいろなことがあるということを知って、自分のこれまでの認識の枠組がどんどん覆されるので、とても新鮮で面白く感じています。
それに加えて、他の研究者と共同研究することで、さまざまな刺激をもらっています。新しい研究手法も教わって、違う視点からこれまで調べられなかったことが調べられるようになって、新しい研究結果を得られるのがとても楽しみです。

―― その研究成果の一部が、最近、共編著のご本である『現代中国の子育てと教育: 発達心理学から見た課題と未来展望』(2023年、ナカニシヤ出版)が出版されましたね。一冊の本をおまとめになって、どんな気持ちでいらっしゃいますか?

孫:自分がコツコツやってきたことが形になって、綺麗に印刷された一冊の本が研究室に届いたときは本当に自分の子どもが生まれた瞬間と似た感覚ですね、とても嬉しく、やっと会えたねという感じです。いろんな苦労もありましたが、とてもやりがいを感じました!周りの幼児教育や幼児発達研究の関係者がこの本に興味を示してくださったときは、私たち(共著者)の関心や頑張ってやっていることには他の人も興味があるのだな、皆さんの役に立つといいなと願っています。人類は本当に集団知恵でここまでやってきたと実感しながら、今後はもっといい成果を出して、私たちの研究チームで得られた知見を積極的に社会に発信していきたいと思います。

―― なるほど、とても大きな収穫ですね。これから、どんなプランを立てていますか。

孫:これまでは主に質問紙調査で対象者の個人特性を調べてきましたが、今後は実験室での行動観察や脳計測法を用いて、気質特性の生物学的基盤および環境との相互作用を解明していきたいと考えています。また、これまでは幼児および青年期の大学生を対象として研究してきましたが、これからは児童期におけるパーソナリティの形成と変容も検討していきたいと思います。

―― どんな研究結果が出てくるか非常に楽しみです。どんどん研究を進めて、さらに成果を発表なさることを期待しています。

(2023.4.1)
インタビュー一覧