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2025.10.07

【レポート】 第81回AJIフロンティア・セミナーを開催しました!Dr.塚原真梨佳 “The Media History of ‘The Yamato Museum’: Focusing on the Role of Local Communities in the Construction and Inheritance of War Memories”

2025年7月8日(火)、第81回AJIフロンティア・セミナーがオンラインにて開催されました。今回の発表者としてDr.塚原真梨佳(立命館大学アジア・日本研究機構 専門研究員)が“The Media History of ‘The Yamato Museum’: Focusing on the Role of Local Communities in the Construction and Inheritance of War Memories”と題する発表を行いました。

最初にDr.塚原は発表の目的について、地域の文化的実践がナショナリズムの構築にどのように寄与するのかを明らかにし、その過程における地域社会の位置づけと役割を明らかにすることであることを強調しました。それと同時に、従来の研究では、国民のアイデンティティ形成の過程における地域社会の主体性や能動的な役割が十分に評価されてこなかったことも指摘されました。Dr.塚原によれば、広島県呉市の地域社会が主体となって戦争の記憶の発見と表象の場として建設された「大和ミュージアム」は、旧日本海軍の美化やナショナリズムの助長という批判を受けてきましたが、呉市における「ヤマト」をめぐる語りがいかにして国民的な言説やアイデンティティ形成に関わったのかについて、実証的な研究はほとんど存在していませんでした。

発表では、まず呉市が戦時中には海軍基地および海軍工廠であったこと、そして戦後には「平和志向の造船王国・日本の産業都市」として再定義された経緯について説明されました。しかし、1973年の高度経済成長の終焉とバブル経済の崩壊によって造船業は停滞・衰退し、呉市は新たな地域的アイデンティティの模索を迫られました。また、Dr.塚原は、当初は自然を志向する博物館として構想されていたものが、次第に産業技術や戦艦「大和」といった軍事的要素に注目するようになり、結果として、平和記念都市・広島市からの支援を得られず、呉市は別の資金調達先を探さざるをえなかったことについても議論しました。しかし、呉市という地域社会における技術の継承という物語を、日本全体の科学技術の発展と結びついたナショナル・アイデンティティへと拡張することで、戦艦「大和」を中心とした博物館は、呉市の歴史と日本の技術的遺産を象徴する存在として確立されました。

発表後のQ&Aでは、参加者から、呉市民や広島市民の感情的な反応、日本と戦争の歴史を持つ諸外国からの観光客による受け止め方について質問がされました。Dr.塚原は、同館が非常に高い人気を博しており、来館者の少なくとも3分の1は外国人観光客であると指摘しました。また、地元の海上自衛隊との関係性や、呉市の歴史的アイデンティティの追求がいかにして日本のナショナル・アイデンティティの再確認と不可分となったのかについての詳細な説明も求められました。

発表を行うDr.塚原真梨佳
発表を行うDr.塚原真梨佳

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