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2025.12.17

【Report】第84回AJI研究最前線セミナー開催!Dr.鈴木慶孝「現代トルコにおける多様性 の共存に向けた課題:公的イスラームと宗教的多様性の相克を焦点にして」

12月9日(火)、第84回AJI研究最前線セミナーを開催しました。今回は、鈴木慶孝先生(立命館大学衣笠総合研究機構、准教授)が、「現代トルコにおける多様性の共存に向けた課題:公的イスラームと宗教的多様性の相克を焦点にして」と題して発表を行いました。

鈴木先生は、現代トルコ研究を専門とし、とくに多文化共生の観点から、トルコの民族・宗教・移民/難民問題に関する研究を行っています。今回の発表では、クルド問題やアイデンティティの承認問題に直面してきたトルコが、多様な価値観やアイデンティティを承認するための課題を、イスラームの管理/監督問題に焦点を当てながら報告が行われました。

まず発表では、トルコの成り立ちについて説明がされました。トルコは建国の父であるムスタファ・ケマル・アタテュルクの指導のもとで、世俗主義と政教分離を国是とする西洋近代的な国民国家として建国されました。そして、イスラームが政治や社会に与える影響を少なくすることが目指されてきました。そのためにトルコが設立したのが、宗務庁でした。宗務庁がイスラームを管理監督することで、民間領域のイスラームが政治や社会で正当性を得られないようにしたのです。しかしこうした試みが、国家とイスラームが癒着するという「政教分離の問題」や、宗務庁による社会や人心への介入という「宗教と良心の自由の問題」を引き起こすことになったことが強調されました。

鈴木先生は、宗務庁が存在することでトルコ社会の秩序や道徳、イスラームの健全性が守られるというトルコ国家側の主張を説明した後に、実際に宗務庁と対峙する宗教的なマイノリティ集団であるアレヴィー派の人々や、イスラーム復興運動であるギュレン運動を紹介しました。そこではいずれの勢力も、宗務庁によってイスラームとしての正当性を疑われている事例が示されました。その一方で鈴木先生からは、宗務庁によるイスラームの管理監督が行き届かない事例も説明し、宗務庁による過激主義の防止や、イスラーム勢力が政治に関わることを防ぐことの難しさについても解説していただきました。

発表の最後では、トルコが直面している多様性包摂のための課題は宗教問題だけでなく、クルド問題やシリア難民問題も含めて総体的に議論していくことが重要になると指摘されたうえで、トルコが多様性を包摂するための課題について総括が行われました。

以上の発表のあと活発な質疑応答が行われました。トルコ国内外のトルコ研究の動向や、インターネット空間を含めたイスラームの管理監督問題、トルコの宗教学校や宗教科目をめぐる争点などが取り上げられました。

発表を行う鈴木慶孝先生
発表を行う鈴木慶孝先生

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/