所長室から

今年も、よろしくお願い申し上げます

 明けましておめでとうございます。本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 2022年も、皆さまから温かい応援やご支援を、たくさんいただきました。満6年を迎えた若い研究所にとって、ありがたい限りです。おかげで、本研究所もコロナ状況が続く中で1年間、所員一丸となって創意工夫をこらし、充実した活動を展開することができました。厚く御礼申し上げます。

 昨年1年の間にも、たくさんのことがありました。研究高度化の第4期に入った本学では、第4期2年目を迎え、R2030チャレンジデザインが目標としている次世代研究大学をめざして、活発な活動が展開されました。本研究所もその一翼を担って、しっかりと研究活動や国際連携を展開することができました。

 1年間をふりかえって、まず特筆すべきは、1~2月に多言語国際フォーラムMeridian180を、多言語連続ワークショップとして実施したことかと思います。「東アジアにおけるパンデミック下のジェンダー変容」をテーマに、4言語5文字、つまり、日本語、英語、中国語(簡体字と繁体字)、韓国語を用いて報告と討議をおこないました(4言語5文字のポスターをご覧下さい )。

 Meridian180は多言語主義(マルチリンガリズム)を掲げていますが、アジア・日本研究所でも、日本語・英語とともに、アジア諸言語を大事にする方針を採っています。この方針の1つの表現として、『AJI Journal』では、日本語・アジア諸語で書かれた研究書や原典資料を、英語の書評によって世界に知らせる企画を続けています。アジア・日本研究という場合に、アジアや日本におけるアジア研究、日本研究の豊かな歴史と蓄積があるわけですが、国際的にはそれがまだまだ未知の宝となっています。私たちには、それを広く世界に周知していく責務があると認識しております。

 一昨年の5周年記念国際シンポジウムを受けて、昨年から、毎年2月に年次国際シンポジウムを開催することを決めました。昨年は、その嚆矢として、「アジア日本研究 国際シンポジウム2022」を開催し、非常に充実した3セッションを実施することができました。なお、「年次」という場合に、学事暦の年で数えることもありますが、本研究所の「年次」は暦年で数えることにしています。そのほうが国際的にもわかりやすいように思います。

今年の年次シンポジウム「アジア日本研究 国際シンポジウム2023」は、2月23~25日に、3セッションで開催します。是非、オンラインでご来場ください。

 学術誌の刊行では、英文学術誌2誌、和文学術誌1誌を毎年刊行しています。次第に投稿数も増え、日本や世界の各地でアジア・日本研究にたずさわっている皆さまの研究成果の公開の場として成長しております。3誌とも、研究論文(および研究ノート)については、厳密なダブルブラインドの査読体制によって、しっかりとした内容保証ができる仕組みを確立しています。J-STAGEにも3誌とも登録され、掲載された論文などがすばやく認知される形となっています。皆さまの引き続きのご支援をお願いするとともに、ご投稿をお待ちしております。

 一昨年に創刊されたAJI Booksも、これまでに6冊を刊行しました。現在のところ、英文のものが主ですが、上にも触れた多言語主義の立場から、次第に多言語化していく構想を持っています。研究所での国際研究集会や研究プロジェクトの成果を紹介するメディアとして育てていきたいと思いますので、是非、ご支援ください。

 昨今は、コロナ禍の危機がやや低減したためか、国内外の人流が次第に復活しています。そのためもあって、本研究所のメインの施設がある大阪いばらきキャンパスでは、市民向けのイベントである「AsiaWeek2022」が10月23日に、3年ぶりに開催されました。本研究所も、初めて出展して、一般市民の皆さまと交流し、アジア・日本研究の一端を知っていただく展示をおこないました。多くの皆さまにおいでいただき好評をいただいたのは、嬉しい限りでした。出展を担当した若手研究者たちも、社会還元活動の経験をすることができ、意を強くいたしました。

 若手研究者育成でも、「大学院連携・次世代研究者育成プログラム」が2年目に入り、新しいメンバーを迎えて、いっそう活発な展開となりました。これは、本学の大学院でアジア・日本研究の分野(およびその関連分野)で学位を取得した研究者の皆さまに、常勤の研究・教育職をめざして研究力にいっそうの磨きをかけていただくプログラムです。

 若手研究者の育成については、第4期の研究高度化では、新しい取り組みとして研究部が学内の大学院と連携して、博士後期課程の院生育成に協力する仕組みが構築されつつあります。本研究所でも、大学院博士課程の院生を対象とする「NEXTフェローシップ・プログラム」や、立命館先端研究アカデミー(RARA)のRARA学生フェローなどの育成支援に参画しています。研究所にとっては、大学院に直接的に関与するのは新しいことですが、これによって、「大学院⇒次世代研究者育成(学位取得した若手の育成)⇒プロの研究者」という、シームレスな(切れ目のない)キャリアアップの道を具現化していきたいと願っています。

 次に、今年の抱負と予定を申し上げます。

 まず、グローバル展開の件です。現代における大学附置の研究所はどこでも、国内外に研究成果を発信し、地球社会にグローバルに貢献していくことが求められています。そのためには、研究所そのものがグローバルな存在として認知される必要があります。その要件はいろいろと考えられますが、第一に、成果発信をグローバルにおこなう学術的なメディアをしっかりと持っている必要があります。「グローバルな発信」という場合は、国外へ向けた発信だけがあればいいわけではありません。その研究機関が属している言語圏(私たちの場合は日本語)での発信をしっかりおこない、その言語圏で認知されることは、グローバルな発信の第一歩であり、そこからの国際的発信が重要です。本研究所では、学術3誌(英文2誌、和文1誌)を厳密な査読システムとともに刊行することで、そのようなグローバルな発信の基礎としました。

 次は、ウェブサイト(ホームページ)の充実です。デジタル化が進む現在、ウェブサイトが十分に機能していることが、サイバースペース上での実在の第一条件となります。そこで、昨年は、ウェブサイトで可能な限りすばやく情報開示や告知をおこなうとともに、和・英のバイリンガル発信を円滑に展開する仕組みを構築することに注力しました。そのためもあって、サイト訪問者が増加しているのは、嬉しい限りです。さらに、DXと連動する新企画として、「アジア・マップ」を1月10日に公開します。是非、ご覧ください。

 本研究所が日本支部を務めているMeridian180は、グローバルな視野から多言語で専門家(研究者、実務者ほか)が意見交換し、国際的に先端的な知見の告知と政策提言をおこなっていくフォーラムです。その活動の一環として、立命館大学では学内に研究チームをいくつも置き、交代で討論の場である「フォーラム」を1つ、毎年主宰しています。

 これまでのテーマとして「スマート&シュリンキング・シティー」「老年学と社会テクノロジー」「食と農:パンデミックを超えて」、昨年は「東アジアにおけるパンデミック下のジェンダー変容」のフォーラムや国際シンポジウムを開催し、大変好評を博してきました。昨年はさらに、「スマート&シュリンキング・シティー」の成果として英文のe-bookが、Meridian180の本部があるノースウェスタン大学バフェット研究所・同大図書館から刊行されました。

 今年は、1月26日に、Meridian180フォーラムの多言語ワークショップとして、「災害管理における『現地固有の知』とコミュニティ参加」を開催します。今回の使用言語は、日本語・英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・インドネシア語となり、それぞれ同時通訳が付きます。是非、皆さまからご参加いただけますよう、お願いいたします。5言語6文字の多言語ワークショップは、グローバル時代にあるべき多言語主義の実践例として、とても意義のあるものではないでしょうか。

 アジア・日本研究推進プログラムも、4月からスタートする新しい3つのプロジェクトが採択されています。3つのキャンパスで各プロジェクトの開始に向けて、現在、鋭意準備を進めています。

 学術3誌、AJI Booksの刊行も、しっかりと注力して続けていきます。国際研究集会も、ほぼ毎月1つ以上の企画があって、準備が進められています。

 そのほかにも、本学と本研究所のグローバル化を推進するさまざまな活動を企画中です。内容が固まり次第、順次、お知らせしていきたいと思います。

 本年も、どうぞご支援・ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

アジア・日本研究所所長 小杉 泰
(2023年1月1日)