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  • ISSUE 12:
  • 環境

世界の水環境を微生物が救う

微生物や植物を生かした有効な廃水処理プロセスをデザインする。

惣田 訓理工学部 教授

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水環境の汚染は汚水処理技術の発達した日本においてもいまだに解決しきれていない課題である。まして世界には産業の発展によって深刻な水質汚濁に直面する国々が数多くあり、解決にはいっそうの努力が必要とされている。

惣田訓は微生物や植物を使って都市下水や産業廃水、汚染された水環境から有害な有機物や金属を除去・回収する研究に取り組んでいる。「日本の廃水処理施設では主に凝集沈殿や吸着、オゾン酸化といった物理作用や化学反応などを利用する物理化学的な方法と、微生物や植物を活用した生物学的方法で浄水が行われています。中でも微生物による分解や植物による吸収など自然界の浄化作用を利用する方法は、速度は緩やかですがエネルギー消費量やコスト、環境負荷を抑えるという点で有効な手だてです」と惣田。しかし微生物や植物は多種多様で、有効な廃水処理を実現するためには処理プロセスのデザインと制御が欠かせない。その中で現在、惣田が力を注いでいるのが、人工湿地を活用した鉱山廃水の処理技術の開発だ。

「日本には採掘・管理する者のいなくなった休廃止鉱山が100ヵ所以上もあるといわれています。問題は、鉱山が閉鎖された後も重金属を含む鉱山廃水は流出し続けていること。環境への悪影響を防ぐには、半永久的に廃水処理を続けなければなりません。現在自治体がその役割を担っており、コストのかかる物理化学的処理に代わる安価で簡易な処理方法の開発が待たれています」。そう語る惣田が着目したのが、人工湿地だった。

[写真1]ヨシやヒメガマなど数種類の植栽系と土壌、生育条件を変えたラボスケールの人工湿地

惣田によると、湿地には植物や微生物が豊かに繁殖しており、近年、そうした生物や土壌による水質浄化作用が注目されつつある。北海道で人工湿地による鉱山廃水処理の導入事例があるものの、普及させるにはノウハウの蓄積が十分ではない。「鉱山によって除去しなければならない金属は多様です。どのような土壌や植物が対象金属を最も除去するのかを突き止め、最適な除去原理と処理方法を見つける必要があります」と惣田。そこで2年前から石油天然ガス・金属資源開発機構(JOGMEC)との共同研究で模擬鉱山廃水の処理実験を行い、土壌や植物の浄水作用の評価を行っている。

「ヨシやヒメガマなど数種類の植栽系と土壌、生育条件を変えたラボスケールの人工湿地を作り[写真1]、カドミウムや亜鉛、銅などを含んだ模擬抗廃水を注水、処理実験を行ったところ、土壌吸着を主なメカニズムとして各金属を除去することができました」と惣田。また硫酸還元細菌によってカドミウムや亜鉛が硫化物として除去され、鉄酸化細菌を付着させたろ材を用いた実験では、鉄とヒ素を共沈させ、除去することにも成功した。これらの結果をもとに最適な除去機構を構築し、パイロットスケールでの実証を目指していくという。

また惣田は、都市下水の処理に用いられる微生物についても興味深い知見を蓄積している。その一つがアナモックス(Anammox)細菌と呼ばれる微生物を使った窒素除去プロセスの開発だ[写真2]。

[写真2]アナモックス細菌を使って都市下水を加温することなく処理することを目指す

下水処理において窒素やリンの除去はとりわけ難しいといわれているが、1990年代にアナモックス細菌が発見されたことにより、アナモックス(嫌気性アンモニア酸化反応)を利用した生物学的窒素除去プロセスが開発された。現在多くの企業や研究機関によって実用化が進められているが、課題も残されている。一つにはアナモックス細菌の増殖速度が遅く、十分な細菌量を確保するのが難しいことだ。増殖速度を上げるには下水を35℃程度に温める必要があるが、その分余計なエネルギーがかかることになる。それに対して惣田は、常温で反応する画期的なアナモックス細菌に着目。従来のアナモックスより低い温度で同等の高活性を維持し、優れた窒素除去能力を発揮することを確かめた。これなら10~20℃の都市下水を加温することなく処理できる窒素除去プロセスを開発できる期待が高まる。

もう一つ都市下水の余剰汚泥を除去するユニークな方法として惣田が和歌山県工業技術センターと取り組んでいるのが、水生ミミズの活用だ[写真3]。「和歌山県で地場産業の梅干し製造工場から出る廃水に余剰汚泥が少ないことがわかったのがきっかけです。調べてみると、廃水処理の担体に用いたアクリルのパイル織物に水生ミミズが定着し、汚泥を食べていることが判明しました」と惣田。これを下水の汚泥処理に応用できないか。そう考え、実験室で汚泥除去に適した水生ミミズの種類や生育条件を探っている。

その他惣田の研究室では「ダックウィード」と呼ばれる浮き草を使った水質浄化[写真4]や、珪藻と微生物の共生による化学物質の除去などにも取り組んでいる。研究課題を持ち込んだのはインドやベトナムからの留学生だという。惣田はこう結んだ。「世界には日本のような大規模集約型の廃水処理施設が十分整っていない国も多くあります。低コストでしかも環境負荷の低い生物的廃水処理の分散型施設なら導入しやすい。それに我々の研究知見を役立てたいと考えています」。

[写真3]都市下水の余剰汚泥を食べる水生ミミズ
[写真4]「ダックウィード」と呼ばれる浮き草による水質浄化の取り組み

惣田 訓SODA Satoshi

理工学部 教授
研究テーマ

生物学的廃水処理プロセスのデザインと制御、人工湿地を用いた廃水処理とバイオマス生産、持続可能な廃水処理プロセスの開発のための環境影響評価

専門分野

環境動態解析、環境技術・環境負荷低減、環境モデリング・保全修復技術、土木環境システム