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  • ISSUE 15:
  • 宇宙

太陽系の起源に迫る隕石の中に「水」を発見

地球に飛来した隕石に刻まれた太陽系初期の記憶

「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った粒子サンプルの連続的なスライス像。色は次の鉱物に対応している。 かんらん石 Caに富む輝石 Caに乏しい輝石 斜長石 ○ ニッケル鉄

𡈽山 明総合科学技術研究機構 教授

    sdgs14|

2021年4月22日、土山明らの研究グループが驚くべき発表を行った。2012年にアメリカ・カリフォルニアに落下したサッターズミル隕石の鉱物の中に、二酸化炭素(CO₂)を豊富に含む液体の水を発見したというのだ。太陽系の起源に迫るこの報告は、瞬く間に世界を駆け巡った。

土山によるとサッターズミル隕石は炭素質コンドライトと呼ばれる隕石に分類される。炭素質コンドライトは太陽系が生まれた頃に形成された始原的な隕石で、その多くのものには 当時の炭素質物質(有機物)や水が残されていると考えられている。太陽系が誕生したのはおよそ46億年前。小惑星など太陽系の小天体やそこから飛来する隕石には、現在も初期の太陽系の天体に関する情報が記録されている。中でも水や有機物を含む炭素質コンドライトは、地球の水や生命の起源を知る重要な手がかりといわれている。

「とはいえ通常この『水』は鉱物の結晶構造中に水酸基(OH)や水分子(H₂O)として存在しており、これまで液体としての水が発見されたことはありませんでした」と言う。土山らは大型放射光施設Spring-8にあるX線ナノCTと透過型電子顕微鏡を使った分析を行い、世界で初めて液体の水の存在を突き止めたのだ。

この発見の10年前、土山は小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った表面物質サンプルの三次元構造分析を行っている。土山が研究に用いるX線CTは、粒子を破壊せずに断面や内部の構造を知ることができるところに強みがある。「はやぶさ」が持ち帰った約2,000粒表面物質はそのほとんどが粒径100μm以下の微粒子で、土山らはその中の約40粒のサンプルの三次元構造を分析した。その結果、二つの大きな成果を明らかにした。

一つはこの表面物質がLL普通コンドライトという種類の隕石に対応していたことだ。「これは予想通りの結果でした」と土山。これまでの研究から推定されており、この発見がそれを実証したかたちとなった。

土山が興奮したのはもう一つ、微粒子の三次元形状とサイズを分析した時だった。サンプルには、隕石が高速で衝突してできた破片と思われるもの、粒子同士がぶつかり合い、摩耗して丸くなったものなど多様な形状・サイズの微粒子が含まれていたのだ。「これらは惑星表面でさまざまな現象が起こったことを示唆しています。イトカワのような小さな惑星であっても決して死の世界ではない。その表面は想像以上に活動的であることがわかりました」と語った。

さらに2019年11月、土山らは「水」の存在を裏付ける貴重な発見をした。砂漠地帯に落下した炭素系コンドライトのAcfer(アスファ)094隕石の内部から「氷の化石」を見つけたのだ。

「X線ナノCTの断面像を見ると、氷が抜けてできたと考えられる小さな空洞が多数空いていることがわかりました」と土山は明かし、次のように説明した。隕石の母天体が形成される時、ふつうは圧密作用によって鉱物内の空間は潰れてしまう。今も空洞があるということは当時そこに何らかの固体が埋まっていたはずだ。その最有力候補として考えられるのが氷だという。さらに調べた土山らは、マトリクスというアモルファス(非晶質)ケイ酸塩(石の成分)からなる微粒子が集積した部分が弱い水質変成を受けていることを突き止めた。これは氷が融けてできた水と周囲のケイ酸塩が相互作用した痕跡でこの空洞にまぎれもなく氷が存在していた証だった。

「太陽系初期、太陽から遠く離れた低温領域に惑星が形成される円盤状の領域があり、そこには氷やケイ酸塩からなる塵が集積していました。そこで誕生した母天体の小惑星は成長と共に太陽に近い内側へ移動していきます。太陽に近づくとともに温度が上昇し、ちょうど氷が蒸発するスノーライン(雪線)と呼ばれる付近まで来ると、太陽の熱による焼結作用で氷とケイ酸塩粒子の塊を形成し、氷を含まない塵と共に隕石母天体表面に集積します。その後小惑星がスノーラインを越え、太陽の熱を受けることで氷が融け、マイクロサイズの空洞が生じたと考えられます。それが今回観察した『氷の化石』です」と土山は考察した。

小惑星はどこで生まれたのか?CO₂を豊富に含む水から絞り込む

Acfer094隕石に「氷の化石」を見出したものの、氷そのものは融けてなくなっており観察することは叶わなかった。そして2021年、サッターズミル隕石から土山らはついに「液体」を発見することに成功したのだ。

隕石中の水を探すにあたって、土山が着目したのが方解石(CaCO3)という鉱物だった。先に述べられたように、太陽系初期に形成された小惑星が成長と共に移動し、スノーラインを越える際に氷が融けると、その際鉱物と反応して水質変成が起こる。方解石はこの時に水溶液から析出したと考えられており、そこに取り込まれた包有物として水が残されている可能性があると考えたのだ。

土山が方解石粒子を含む30μm程度の粒子を切り出し、X線ナノCTで三次元構造を解析したところ、方解石の粒子内に数多くの数μm超の包有物を発見した。だが残念ながら平坦な結晶面を持った包有物の中はまたしても空隙だった。かつて存在していた水は46億年の間に逃げて行ってしまったらしい。

しかしさらに緻密に調べた土山は、方解石中に1μmより小さなナノサイズの包有物が無数に存在しているのを見つけた。もしそこに水が入っているとしたら凍っているはずで、透過型電子顕微鏡を使えばその結晶を検出できると考えた土山が顕微鏡で観察すると、常温(20℃)で方解石結晶を示す斑点に加えて、-100℃の低温で新たな斑点が出現した。世界中の宇宙に関わる研究者が探し求めてきた「水」をついに発見した瞬間だった。

「しかもこれらは水(H₂O)が凍った氷ではなく、CO₂の氷やCO₂ハイドレードと呼ばれる氷であることが分かりました。つまり包有物に入っていたのは液体の水(H₂O)ではなくCO₂を含む流体だったのです。CO₂の割合も15%以上だとわかりました」と言う。

このような多量のCO₂を含む流体の存在から、隕石の母天体がどこで形成されたかその領域を絞り込めるという。「太陽系初期、太陽から遠い低温領域には、順にH₂O、CO₂、COなどの氷が出現するスノーラインがありました。今回の結果はサッターズミル隕石の母天体がCO₂スノーラインよりも外側、かつCOスノーラインよりも内側で作られたことを示しています」。

サッターズミル隕石の鉱物(方解石)を透過型電子顕微鏡で観察、ナノ包有物(黄色の矢印の先)の中に「CO₂に富む水」を発見

最近の太陽系形成理論では、惑星や小天体はずっと同じ場所に留まっているのではなく、形成後に軌道が変化(移動)したと考えられるようになってきた。このモデルに従うと、木星は現在の軌道よりやや内側で形成された後、現在の軌道に移動したことになる。「スノーラインから天体の形成領域を類推すると、サッターズミル隕石の母天体は、木星が形成された領域よりも外側の低温領域で形成され、その後木星の軌道変化に伴って内側へ、火星と木星の間にある小惑星帯に移動したと考えることができます」と土山。CO₂を含む水の発見は、新しいダイナミックな太陽系形成モデルの信ぴょう性も高めることになった。

2020年12月、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取したサンプルが地球に帰還した。土山らの研究グループは初号機「はやぶさ」に続き、このサンプルの分析も担っている。リュウグウの表面物質もサッターズミル隕石と同じく炭素質コンドライトであると考えられており、液体の水や有機物の発見が期待されている。土山らの研究がいずれ太陽系の誕生、生命の起源に迫ることになるかもしれない。

太陽系星雲物質の太陽への落下率(太陽質量/年)
サッターズミル隕石母天体の形成領域とH₂O, CO₂, COスノーライン。太陽系形成時に存在したH₂O, CO₂, COスノーラインについて、これらの太陽からの距離が時間(太陽系星雲物質の太陽への落下率として表している)経過とともにどのように変化したかを示した図に、考えられるサッターズミル隕石母天体の形成領域(CO₂スノーライン、COスノーラインと、氷を含む物質が枯渇した領域に囲まれている)を示した。木星は現在の軌道よりも太陽に近いところ(3天文単位付近)で形成されたと考えられ、隕石母天体の形成領域は木星よりも外側であったことがわかる。やがて木星は現在の軌道へと移動し、これに伴って隕石母天体は木星軌道より内側の小惑星帯に移動したと考えられる。

記事の一部内容に誤りがあり、訂正を致しました。
【誤】Acfer(アスファ)094隕石の連続的なスライス像。
    ↓
【正】「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った粒子サンプルの連続的なスライス像。

𡈽山 明TSUCHIYAMA Akira

総合科学技術研究機構 教授
研究テーマ

物質科学をもとにした太陽系初期物質の生成と進化

専門分野

鉱物学・惑星科学