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  • ISSUE 13:
  • サステイナブル

ITが人と人のコミュニケーションを活性化する

認知科学の知見を応用しインタラクションを促すインターフェースを開発。

林 勇吾総合心理学部 准教授

    sdgs09|

自分とは違う視点の意見を聞くことで物事に対する理解が深まったり、新しいアイデアを思いついたりした経験はないだろうか。

「認知科学の領域では、異なる視点や知識を持つ他者とのインタラクション(相互作用)がメタ認知や批判的思考を促す上で有効であることが知られています。相互作用を繰り返すことで他の知識との関連に気づいたり、より客観的に知識を捉えることができるようになるのです」と解説した林勇吾。

人は他者とのコミュニケーションや相互作用を通じてどのように新たな視点や知識を獲得していくのか。林はそのメカニズムを探究するとともに、コンピュータを使って人と人、あるいは人とシステムやロボットとの対話や協同学習を支援する方法を探究してきた。林によると、こうした研究は近年HCI(Human Computer Interaction)と呼ばれる学問領域で盛んに行われているという。「しかし情報工学的なアプローチだけでは人のインタラクションを十分に捉えられないことがわかってきました」と林。そこで林はHCIに認知科学のアプローチを統合することで協同学習による知識獲得のメカニズムを解明し、その知見を生かして新しい協同学習システムやロボットを作り出そうとしている。

現在研究しているのが、複数人が一緒に学ぶ際に効果的なインタラクションを促す「擬人化エージェント」いわば「コンピュータの教師」を使った協同学習システムである。「誰もがすぐに学習効果の高いコミュニケーションを実践できるわけではありません。そのため教育の現場では教師や学習の補佐役によるファシリテーションが重要になります。学習場面でこうした教師的な役割を果たす『コンピュータの教師』は『PCA(教育用会話エージェント:Pedagogical Conversational Agent)』といわれます」と林。PCAを知的学習支援システムに生かそうという研究は数多くあるが、具体的にどのようにファシリテートすれば学習者同士のインタラクションを活性化し、協同学習を促進できるのか、いまだ最適な方法論は確立されていないという。

林はまず認知科学の発話分析手法(プロトコル分析)を用いて人と人の対話実験を行い、どのような言葉かけがインタラクションを促進するかを明らかにした。そこでは、異なる他者の視点を取得する方法やメタ認知と関連する発話を抽出する分析を行っている。続いては、そこで得られた知見をもとに作成された発話モデルをPCAに実装。その効果を確認するために心理学的な実験室実験による検証を行っている。

その一つが、学習者のペアがある概念について学んだ後、それについて「互いに説明し合う」ことでさらに理解を深めるという協同学習を支援するPCAだ。林が開発したPCAは音声認識と自然言語処理技術を使って2人の発言内容を検知・解析し、対話が滞ったり学習に関係ない発言が続くと効果的な対話を促すキーワードを提示する仕組みになっている。

また林は「言葉」以外にも学習効果を高める介入因子を検討。人の身体からさまざまな情報をセンシングし、複数のコミュニケーションチャネルを使ったマルチモーダルなインターフェースを協同学習システムに生かそうとしている。例えば「感情表出」という因子もその一つだ。学習場面では、褒め言葉などのポジティブな言葉に加えて、嬉しそうな顔といったポジティブな感情を表す画像を提示すると、学習者の学習意欲や理解度が高まることを実証した。

さらに林が注目したのが、「視線」である。互いに離れた場所にいる2人がパソコンのモニターを介して協同学習する際、2台の眼球運動測定器を同時に使って視線の動きをリアルタイムに検知し、互いのモニターに表示するインターフェースを開発した。「離れた場所にいる相手とのコミュニケーションを成立するうえでは、お互いがどこに注意を向けているのかという共同注意が重要だといわれています。私たちは、学習者がお互いにどこを見ているか、相手に対する注意を与える手法を構築。学習者の視線を誘導し、相手に対する共同注意を促すことで対話が活性化することを確かめました」。

視線の動きをリアルタイムに互いのモニターに表示する

「最新の研究では、異なる根拠に基づく批判などのコンフリクト(対立や軋轢)を起こすような論争的な議論が協同学習に有効であるという先行研究から、効果的なコンフリクトを引き起こす議論を誘発するような協同学習システムの開発に着手しています」と林。現在は、研究室に所属する学生とコンフリクトを引き起こすためのプロンプトの提示方法を研究するプロジェクトを進めている。目指しているのは、議論に不慣れな学習者が建設的な議論を行えるよう「議論のやり方」を教える教師役=PCAの開発だ。まずは議論に熟達したエキスパートによる理想的な論争的議論から学習を深めるプロトコルを導き出し、「議論モデル」を構築するという。それをPCAに実装して効果を検証していく計画だ。

例えば未来の教室では、林が開発した自律的なPCAが人に代わって教師の役割を果たしているかもしれない。あるいは臨床心理の現場でのグループセラピーやカウンセリングにも応用可能性は広がる。林の研究成果が社会実装される日が待たれる。

林 勇吾HAYASHI Yugo

総合心理学部 准教授
研究テーマ

人間同士の協同問題解決に関する研究、対話エージェント/ロボットとのコミュニケーションに関する研究、メディアイクエージェン(Media Equation)に関する研究、教育用の擬人化対話エージェントを用いた学習支援と実践、SNS上の発話・行動データの解析とその活用に関する研究

専門分野

認知科学、ヒューマンインターフェース・インタラクション、感性情報学、ウェブ情報学・サービス情報学、学習支援システム、教育工学、社会心理学

撮影協力:DMM.make