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  • ISSUE 12:
  • 環境

再生可能エネルギーの普及を後押しするダイナミックプライシングの可能性

人々の消費行動を変えることで環境問題の解決に貢献する。

島田 幸司経済学部 教授

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「太陽光発電などの再生可能エネルギーは発電量が自然状況に左右される不安定な電源で、それだけでエネルギーをまかなうのは難しい」。そういうイメージを持っている人は多いだろう。だがこの不安定さを逆手に取り、例えば発電量の多い時に集中して洗濯や料理など電気を使う作業をしたり蓄電したりして、発電量が少ない時には消費を控えたら、自然エネルギーもうまく活用できるのではないか。

消費者や企業の行動分析を専門とする島田幸司は、市場の需給状況に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」を取り入れることで人々に上記のような行動を促し、再生可能エネルギーの普及を後押ししようとしている。

地球温暖化は、世界の環境に大きな影響を与えている。世界中の国々が温室効果ガスの削減に取り組むことを約束した2015(平成27)年の「パリ協定」で、日本は2030年までに2013年比で26%のCO2を削減すると宣言した。1997(平成9)年に京都で採択された「京都議定書」で掲げられた2008(平成20)年からの5年間でCO2排出量-6%という目標に比べるとハードルはさらに高くなっている。このなかで、電力分野ではCO2排出量がほとんどない再生可能エネルギーの割合を大幅に増やすことが求められている。

「一方で2011(平成23)年に東日本大震災による原子力発電所事故を経験し、原子力に頼らないエネルギー使用のあり方が重視されるようになったことからも再生可能エネルギーの重要性は増しています」と島田。しかし冒頭に挙げた「安定供給が難しい」、あるいは「コストがかかる」といった課題から日本ではなかなか普及が進まないのが現状だ。

島田は環境庁(現・環境省)で20年近く環境行政に携わり、「京都議定書」の策定にあたって交渉プロセスを担当した後、研究者に転じた。「再生可能エネルギーの取引メカニズムに興味を持って研究してきましたが、原子力に大きく依存せずに『パリ協定』の削減目標を達成するためには、単に現状分析や将来予測に留まらず、再生可能エネルギーの大量導入を見据えて人々のマインドセットや行動を変えることにも尽力する必要があると考えるようになりました」。そうした強い危機意識を持って着目したのが、ダイナミックプライシングによる需要コントロールの可能性だった。

島田は2012(平成24)年からの5年計画で国のプロジェクトに兵庫県、神戸大学と共同で参画。兵庫県南あわじ市にある離島・沼島でダイナミックプライシングを用いたフィールド実験を実施した。実験では、太陽光発電を導入するとともに、天気によって変動する電気代控除ポイントを設定し、残ったポイントに応じて現金を還元する仕組みを作った。協力を得た50世帯の住民の家にスマートメーターを設置し、電力消費量をリアルタイムに計測。各世帯にはタブレットを配布し、一人あたりの平均電力消費量や世帯ごとの電力消費量ランキングなどの情報を確認できるようにした。

実験期間は2016(平成28)年7月6日から8月16日までのおよそ1か月半。得られた結果を分析したところ、天気の良い(控除額が少ない)日は電力消費量が増え、雨や曇りの(控除額の多い)日には電力消費量は抑えられることがわかった。さらに控除期間中の電力消費量は実験前より5.7%減少したことが明らかになった。プライシングによって狙い通りに電力消費行動をコントロールすることに成功したといえる。

加えてこの実験の興味深いところは、近年注目されているピーク電力カットの取り組みとは反対の消費行動を促すことだ。「ピークカットは真夏の昼間といった電力消費量が最も多いと予想される時間帯の消費量を抑えようとする取り組みですが、我々の実験では逆に太陽光発電量が増大するこの時間帯の電力消費を促します」と島田。技術力の進歩などによって近年、地域や時間帯によって再生可能エネルギー発電による電力が供給過多になり、一部の地域では系統電力への受け入れを制限する事態が起こっている。「今回の実験は、今後再生可能エネルギーを普及させていく上で直面するこうした新たな課題にも、先駆けて解決の糸口を提示できたのではないかと考えています」と島田は言う。

「教育や啓発、自発的な意識改革だけで電力消費量を減らすのには限界がある」と言う島田。「『パリ協定』の削減目標を達成するためには、持続的で強力な対策が必要です。今回の実験で、プライシングによって人々の行動変容を促し、需要をコントロールしていくための科学的な基礎を作れたと思っています」。今後も人の行動メカニズムを解き明かし、行動変容につなげることで環境問題の解決に貢献していく。

島田 幸司SHIMADA Koji

経済学部 教授
研究テーマ

エネルギー消費行動分析、居住選好特性を考慮した都市形成方策に関する研究、再生可能エネルギーの取引メカニズム研究

専門分野

環境政策・環境社会システム