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  • ISSUE 14:
  • QOL

瞬きの回数から目の健康状態を推測するメガネ

いつでもどこでも身体の動きや状態を確認できるセンシング技術とインタフェースを研究する

村尾 和哉情報理工学部 准教授

双見 京介情報理工学部 助教

    sdgs03|

歩いた距離や上った階段数に始まり血圧や心拍、さらには血中酸素濃度まで、近年スマートフォンやスマートウォッチといったモバイル機器に運動や身体の状態を把握できる機能が増えている。自分の状態をいつでもどこでも確認できるこうしたデバイスが人の行動を変え、病気の予防や健康増進にも寄与していく。村尾和哉の研究室では、そうした人のQOL向上に役立つセンサ情報処理技術やインタフェースを研究している。

村尾らは、センサを使って人の身体や心の状態、動き、周囲の環境を理解する技術や方法を研究し、「あらゆる環境に設置でき(ユビキタス)」、あるいは「持ち運べ(モバイル)」、「身につけられ(ウェアラブル)」、健康増進や快適な生活に役立つシステムやデバイスを開発しようとしている。村尾らの独創的なところは、既存のデバイスにも備わっているような利用しやすいセンサを駆使して思いもよらない動きや現象を捉えたり、より簡便に計測できる方法を見つけ出す点にある。最近も脈拍センサを使った斬新なデバイスインタラクションの手法を発案し、話題を呼んだ。

「スマートウォッチなどの画面は小さくて指でタップしにくく、画面を見なければ操作できません。私たちは脈波をセンシングすることで、デバイスの画面に触れることなく簡単なコマンドを実行・送信する手法を考案しました」と言う。

村尾が目を付けたのは、腕を握ったりして身体を圧迫した際に起こる血流の変化だ。脈拍センサを使えばこれを脈波として捉えることができる。「脈拍センサで腕を握った時の脈波を計測し、そのピーク値を検出します。ピーク値に達するまでの時間によって腕を握っていた長さを求められます」と説明した村尾。つまり腕を握った長さにそれぞれ意味を付与すれば、モールス信号のように簡単なメッセージやコマンドを作り、実行できるというわけだ。「例えば1秒間握った時と3秒間握った時の2種類の血流変化を組み合わせて『誰?』『いつ?』『OK』といった簡単なメッセージを作り、送信できます」。村尾らはセンシングからコマンド作成・実行までを行うシステムを構築。実際にデバイスを製作して実験したところ、秒数の認識率は89%に達したという。これなら特別なデバイスを必要とせず、音や振動も発しないので、満員電車の中や会議中でも周囲に迷惑をかけずに入力できる。いずれスマートウォッチやスマートフォンに腕を握るだけで簡単にメッセージを送信できる新機能が付加されるかもしれない。

また現在は、フォークやナイフといったカトラリーや箸にセンサを搭載し、食材を刺したり摘まんだりした際の振動を計測。機械学習によって何の食材かを識別するデバイスも開発中だ。

一方村尾の研究室に所属する双見京介は、「目」のケアに役立つウェアラブルシステムの開発に取り組んでいる。「パソコンやスマートフォン、テレビなどのディスプレイを見ながら行う作業を日常的に繰り返すと、目の疲労やドライアイ、かすみ、さらには頭痛や全身の疲労といったさまざまな症状を引き起こし、人の生活の質を低下させることが報告されています。最近は目の健康状態(アイヘルス)を把握し、自己管理を支援する技術も登場していますが、常時利用性能や価格の点で課題があります。そこで『目』の状態をより簡便・安価に把握し、アイヘルスの維持・向上に役立つウェアラブルなデバイスを作れないかと考えました」と双見は研究のきっかけを語る。

アイヘルスを把握する指標はいくつかあるが、中でも双見が注目したのが、瞬目運動(瞬きの回数や持続期間)と眼球運動(眼球の動きや移動)だった。まず双見は、瞬きする際に目周辺の筋肉運動によって皮膚が隆起することに着目。メガネのフレームに赤外線距離センサを装着して瞼からフレームまでの距離を測定し、その変化、すなわち皮膚の隆起の有無を捉えることによって瞬きの回数を導き出すアルゴリズムを設計した。

次いで双見は、眼球が上下左右どの方向に向いているか移動しているか、眼球の向きや移動を認識する手法も開発。「赤外距離センサは非常に安価かつ軽量・小型・低消費電力のため、負担なくメガネに装着することが可能です。既存のデバイスの課題を解消する実用性の高い手法と考えています」と双見。瞬きや眼球の動きのセンシングによって、目の状態だけでなく、集中度や身体の疲労度、眠気の有無などを推定することも可能になるという。今後さまざまな応用や社会への実装が期待される。

メガネのフレームに赤外線距離センサを装着して瞬目運動や眼球運動を測定。安価かつ軽量、小型・低消費電力な赤外距離センサを使用することで負担なくメガネに装着することができる。

村尾 和哉MURAO Kazuya

情報理工学部 准教授
研究テーマ

人間の行動や状況をセンシングする技術、コンピュータを快適に操作できるようにする技術

専門分野

ウェアラブルコンピュータ、HCI、生体情報計測

双見 京介FUTAMI Kyosuke

情報理工学部 助教
研究テーマ

心身を高めるためのセンシング技術や情報インタフェース技術

専門分野

人間拡張工学、HCI