カテゴリーで探す
キーワードで探す
  • ISSUE 19:
  • 地域/Regional

IoTで豪雪地帯の安心・安全を支える

除雪作業を支援するIoTシステムを開発する

山本 寛情報理工学部 教授

    sdgs11|

北海道から東北・北陸地方、さらに中国地方にまで及ぶ日本列島の日本海側は、世界でも有数の豪雪地帯といわれている。人口密集地域に大雪が降るのが特徴で、生活や交通に被害をもたらすことも少なくない。こうした地域の生活に欠かせないのが、除雪車による除雪作業である。

高速道路などと異なり生活道路の除雪作業では、除雪車のすぐそばを歩行者や車両が通ったり、マンホールや消火栓、縁石などが雪に隠れていることがある。除雪車を操縦する除雪オペレータには慎重な作業が求められる上に、歩行者や車両の往来状況によって除雪作業を中断しなければならないこともある。そのため除雪作業の効率化が長く課題になってきた。IoTを活用してこの解決に取り組んでいるのが山本寛だ。

山本は豪雪地帯で除雪作業を支援するIoTシステムを研究開発している。2019年1月、長野県白馬村およびKDDI株式会社と連携し、次世代移動通信システム5Gを活用した除雪車支援「5G統合実証実験」を実施した。山本らは、雪に埋もれている道路構造物の存在を除雪オペレータに通知する除雪車支援システムの開発を担当した。「除雪車に設置したタブレット端末に、積雪のない道路状態の写真を表示する仕組みです。GPSで現在地を測位し、5G通信でリアルタイムに非積雪時の道路写真をタブレット端末に送信するIoTシステムを構築しました」

その後も長野県白馬村との連携は続いており、2021年には除雪車周辺の危険を感知するIoTシステムを開発した。「除雪オペレータの作業を妨げる要因として特に指摘されたのが、歩行者や車両が不用意に近づいてくることでした。そこで除雪車の周辺状況を検知して歩行者や車両の存在に早い段階で気づき、危険を回避できないかと考えました」

開発にあたってまず検討したのが、除雪車の周辺状況を観測する装置だ。除雪作業は夜間や早朝に行われることが多く、カメラでの観測は難しい。そこで山本らが採用したのがLiDAR(ライダー:Light Detection And Ranging)だった。LiDARは赤外線レーザーを照射することで、明暗に関係なく対象物の形状を3次元点群データとして計測できる。

観測装置には、LiDARに加えて除雪車の現在地を把握するGPSレシーバと通信機器、計測したデータを解析するための小型コンピュータを組み込んだ。「観測装置から除雪オペレータ用のタブレット端末に検知結果を送信し、近づいてくる歩行者や車両を画面に表示するIoTシステムを構築しました。除雪オペレータが作業中にタブレットを見ることは難しいため、画面表示だけでなく警告音で通知する機能も検討しています」。今後は、後続車両に対して追い抜きのタイミングを通知する方法なども視野に入れていくという。

LiDARで計測された3次元点群データ
アルゴリズムによって路面の部分が除去された3次元点群データ

最近山本らは、除雪車の周辺だけでなく、除雪する地域の積雪・降雪状況を観測するIoTシステムの研究をスタートさせた。「積雪や降雪の状況は地域によって異なります。積雪を予測して除雪車を向かわせたのに、実際には積雪が少なかったり、反対に想定以上に積雪が多く、除雪車が間に合わないこともあります。除雪オペレータの負担を軽減しつつ除雪効率を高めるためには、まず豪雪地帯に広く点在する除雪対象区間の積雪・降雪状況を正確に把握する手だてが必要です」と山本は開発の背景を語る。

まずは積雪量を観測する方法を検討する。山本はこれまでに超音波距離センサを用いて雪の深さを計測するシステムを開発している。超音波を地面方向に発信し、反射して戻ってくるまでの時間から距離を算出するもので、雪がない状態での地面までの距離が分かっていれば、積雪時の反射面までの距離との差で積雪深を導き出せる。「しかしこのセンサで測定できるのは、一点だけ。起伏がある積雪面を対象として積雪深を捉えるのは難しいという課題があります」。そこで山本らは、LiDARを使って路面を広範囲にセンシングする方法を考案した。「LiDARなら赤外線レーザーにより積雪面の状態を面的に計測できます。ただし赤外線レーザーは雪に反射・吸収されて観測データにノイズが生じることがあります。それをいかに取り除くかを検討しているところです」

次にLiDARで観測したデータをもとに、周辺の積雪・降雪状況を捉える解析手法の開発も必要になる。「タブレット端末とクラウド上のサーバを連携し、リアルタイムに解析するシステムを考えています。通信性能が低い地域でも使えるよう、扱うデータ量をできるだけ少なくするのが課題です。観測データの圧縮処理やデータ解析の前処理などを除雪車に設置する小型コンピュータ内で行う、いわゆるエッジコンピューティング技術も検討しています」

一方で、除雪オペレータの操縦ノウハウを除雪作業に活かす方法も考えている。熟練の除雪オペレータの操縦動作をモデル化し、それと積雪・除雪状況の観測データとの対応関係を解明。積雪・降雪状況に応じた適切な操縦法を蓄積して地域間で共有するシステムの開発につなげようとしている。

「近年、全国の豪雪地帯で雪の降り方が変わってきているといわれており、過去のデータや経験から積雪や降雪を予測するのが難しくなっています。どの地域でも、またどんなに気象条件が変わっても、適切な除雪作業を行えるIoTシステムを作りたい」と山本は常に先を見据えている。

山本 寛YAMAMOTO Hiroshi

情報理工学部 教授
研究テーマ

ピアツーピア技術を活用した情報共有・配信システム、移動体を利用した情報転送システム、組込みシステムを中心とした生態・環境観測システム

専門分野

情報ネットワーク、ウェブ情報学・サービス情報学、通信・ネットワーク工学