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  • ISSUE 15:
  • 宇宙

ガンマ線で高エネルギー宇宙線の謎に迫る

宇宙線はどこで生まれ、どこから到来するのか。

森 正樹理工学部 教授

    sdgs09|

2015年8月、国際宇宙ステーション(ISS)にある日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置された宇宙線観測装置(CALorimetric Electron Telescope)、通称「CALET(キャレット)」が稼働を開始した。

「CALET」は、これまでにない高い精度で高エネルギーの電子やガンマ線を測定する装置だ。日本を筆頭にイタリア、アメリカとの国際共同プロジェクト「CALETプロジェクト」では、「CALET」を使って宇宙を飛び交う粒子のエネルギー量や粒子の種類、到来方向を測定し、高エネルギー宇宙線(電子・陽子・原子核)がどこからやってきたのか、その発生源を突き止めるとともに、宇宙線の加速や伝播のメカニズム、さらには暗黒物質の正体を解き明かすことを目指している。ガンマ線を使った高エネルギー天体物理学研究のトップの一人である森正樹と森の研究室の学生たちも、このプロジェクトに参画している。

「宇宙の観測には長らく目に見える光(可視光)が用いられてきましたが、近年電波や赤外線、紫外線、X線、γ(ガンマ)線といった目に見えない光を捉える技術が発達してきたことによって、これまで捉えることが難しかったニュートリノや電子、陽子、原子核といった粒子の観測が可能になってきました」と森は説明する。それにより、謎とされてきた宇宙のさまざまな現象を解き明かせる可能性がでてきた。宇宙線がどこから来るのかという問いもその一つだ。

森によると宇宙線が地球に到来していることはわかっているが、それがどこでどのように生成されているのかを突き止めるのは難しいとされてきた。ほとんどの宇宙線は電荷を持っており宇宙空間の磁場によって進む方向を曲げられ、到来方向を測定できないためだ。だが電荷を持たないガンマ線は宇宙空間をまっすぐ進むため、それを捉えれば宇宙線の発生源を見つけることも可能になる。特に森が焦点を当てるのが、超新星残骸やパルサー、活動銀河核などから放出される非常に高エネルギーのガンマ線だ。「重い星が進化の最期に大爆発を起こした後に残される超新星残骸、周期的なパルスを放出する天体・パルサー、中心に巨大なブラックホールをエネルギー源として有する活動銀河核などの高エネルギー天体では、電子や陽子などの粒子がとてつもなく高エネルギーに加速され、周辺の放射や物質が粒子とぶつかることによってガンマ線が発生します。どうやって人間には到底作り出せないほど高エネルギーに粒子を加速するのか。そのメカニズムを解明したい」と森。高エネルギー領域を探れる性能を持つ「CALET」の観測データを研究することで、それに近づこうとしている。

※宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子(陽子や電子など)のこと

天の川銀河を中心に光で見た宇宙
Axel Mellinger, PASP 121, 1180-1187 (2009).
ガンマ線で観測するとこう見える
NASAフェルミ望遠鏡の画像

天体から放出されたガンマ線は、大気の厚い層に阻まれてしまうため、地上で直接観測することはできない。そのため人工衛星に搭載された検出器を用い、大気外で観測が行われてきた。これまで森は2008年に打ち上げられたガンマ線天文衛星のフェルミ衛星に搭載されたLAT検出器の観測データを用いて、X線連星や超新星残骸、活動銀河核、パルサー星雲などの解析を行ってきた。

「CALETプロジェクト」では約6年間にわたり、1GeV以上の高エネルギー領域のガンマ線を観測し続けている。「これまでに22個の点源を検出しており、フェルミ衛星で観測したものと矛盾のないエネルギースペクトルを得ています」と森。いくつものインパクトの高い成果も挙げている。その一つが2017年、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」が検出した重力波と同時期の「CALET」の観測データを解析したことだ。「検出された重力波は、ブラックホールの合体によって発生したという説が最も有力だと考えられていました。もしそれが事実なら、巨大な吸引が発生するためガンマ線の放出はないはずです。私たちの解析の結果、有意なガンマ線の増加は認められず、この予測を裏付けました」と森は解説した。

また活動銀河核「CTA102」から短期間のみ放出されるフレアからのガンマ線放射の観測にも成功している。森によるとフレアはブラックホール近傍から放射されると考えられており、時間変動やエネルギースペクトルを解析することにより、ガンマ線の発生源の特定に一歩近づけるという。

さらに森は、いまだ大きな謎である暗黒物質の正体にも迫ろうとしている。暗黒物質とは光を出さない未知の物質で、存在することはわかっているものの観測が困難なため、どのような物質なのかまったく明らかになっていない。暗黒物質が衝突して対消滅する際にガンマ線を放出すると考えられている。森は「CALET」の観測データから、この暗黒物質の存在を示すガンマ線を探り当てようとしている。未知なる物質の正体は何なのか。宇宙科学のフロンティアへの森らの挑戦は続く。

びわこ・くさつキャンパスの立命館大学天文台。冷却CCDカメラを検出器とする60㎝口径の反射式光学天体望遠鏡を設置。

森 正樹MORI Masaki

理工学部 教授
研究テーマ

宇宙線物理学の実験的研究、高エネルギーガンマ線の観測による天体物理学の研究

専門分野

宇宙線物理学、高エネルギー天体物理学