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  • ISSUE 16:

オーケストラを支える関係性マネジメント

オーケストラの発展のためには誰と関係を結び、どのような価値を創造すべきか。

近藤 宏一経営学部 教授

    経営・経済|
    sdgs16|

多彩な楽器編成で豊かに、時に大迫力のハーモニーを響かせるオーケストラ。世界的な指揮者が率いるオーケストラのコンサートなどは日本でも人気が高いが、大編成ゆえに楽団を維持するのは簡単ではない。サービス・マネジメントを専門とする近藤宏一は、クラシック音楽を愛する一人としてオーケストラのマネジメントに関心を持ち、研究を通じてその発展に寄与したいと考えるようになった。とりわけオーケストラと多様な外部ステークホルダーとの「関係」に焦点を当てた研究を進めている。

これまでの研究では、第二次世界大戦後の日本において、オーケストラが誰とどのような関係を結ぶことで発展してきたかを検証した。「サービス・マネジメントの視点から言えば、事業を安定的に発展させていく上で重要なのは、顧客と長期的・継続的・反復的な関係をつくることです」として近藤はまず歴史を振り返った。それによると日本の特に東京のオーケストラは、1950年頃から放送局との関係を構築し、ラジオやテレビに音楽コンテンツを提供することで発展を遂げた。1960年代以降は、教育コンテンツとして用途が拡大。各地方自治体や学校との関係を深めていく。バブル経済の只中にあった1980年代には、企業がスポンサーとなる冠コンサートや自治体による支援が盛んに行われ、企業や自治体などとの長期的な関係構築が図られた。しかしバブル崩壊後、関係性が多様化。さまざまな個人や組織がオーケストラの経営基盤を支えるようになったという。

その上で今後、オーケストラは誰に価値を提供し、関係性を発展・継続させていくべきなのかを考えた時、近藤は「音楽ファンに質の高い音楽を提供することだけが継続的関係につながるとは限らない」と指摘する。音楽を聴くことはあくまで付加的な要素で、時には音楽を聴く『場』が社交などの価値を創造することもあるというのだ。日本では、「友の会」など「支援すること」に価値を見出すファンも存在するし、自治体や地域においては、まちおこしの起爆剤として価値をもたらす場合もある。「将来を考えた時には、子どもにオーケストラの魅力を伝え、自発的な聴衆に育てていく必要もあります」と近藤。こうした関係性に応じた価値を創造・提供していくことが、固定的・長期的な聴衆の獲得につながる可能性を示した。

また近藤は、オーケストラの経営について東アジアにも視野を広げて比較研究を行っている。19世紀以降に西洋クラシックを導入したという共通点がある中国、韓国、台湾、香港の計15のオーケストラを対象に運営状況に関するインタビューを実施し、それぞれの展開を検討したところ、ある共通点が見えてきたという。それは、オーケストラの運営を安定的な軌道に乗せるプロセスで、重要な役割を果たした卓越したリーダーの存在だ。

「日本でよく知られているのは、大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を長く務めた指揮者の朝比奈隆です。韓国では指揮者のクム・ナンセ、中国では香港シンフォニエッタの指揮者・葉詠詩や中国主要オーケストラの音楽監督を兼任した指揮者・余隆が同様の役割を果たしました」と近藤。これらのリーダーはいずれも音楽家としてカリスマ的な人気があり、オーケストラ内部における求心力として、また外部から支援を獲得する上でも有効に機能した。

次いで経営主体と財源について調べた近藤は、韓国・台湾・中国では、地方自治体や国による公営オーケストラが多く、財源も公的資金や補助に支えられているのに対し、日本ではほとんどのオーケストラが民間の自主運営団体であることを明らかにした。そうした日本において経営基盤を支えるために独自の仕組みとして発展したのが、先にも触れた「友の会」などのファンクラブである。「日本ではこうした組織がオーケストラの経営を支えるとともに、ブランドロイヤルティを高める役割も担っています。こうしたファンクラブの運営モデルは他国においても参考になる可能性がありますが、運営方法についてはさらなる検討が必要です」と近藤は述べている。

さらには、関西フィルハーモニー交響楽団が2020年、コロナ禍で苦境に立たされた際に大阪府門真市とパートナー協定を結び、コンサートホールの優先利用や安定的な事務所の確保に成功した例を挙げ、複数自治体との包括協定や複数企業とのスポンサー協定など、支援元の多元化や新たな支援のカタチについても検討が必要だとした近藤。「新型コロナウイルスの感染拡大という条件のもとでも、各オーケストラがこれまで以上に多様な演奏会を展開しています。それらの経験も生かして、アートはもちろん、エンターテインメントとしてもオーケストラの発展可能性を広げることに資する研究成果を提示していきたい」と意欲的だ。

近藤 宏一KONDO Koichi

経営学部 教授
研究テーマ

サービス・マネジメントの理論的検討および応用、交響楽団のマネジメント、公共交通におけるサービスのあり方の検討

専門分野

経営学、商学