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  • ISSUE 21:
  • 脱炭素

環境と経済の両方に寄与する持続可能なプラスチックの資源循環とは?

プラスチック製容器包装廃棄物のリサイクルコストを分析

笹尾 俊明経済学部 教授

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二酸化炭素(CO₂)の排出増加や海洋汚染などの環境問題を背景に、プラスチックの資源循環が進められている。笹尾俊明は、その中でもプラスチック製容器包装廃棄物のリサイクルの「コスト」に着目し、その実態の定量化を試みた。

プラ製容器包装廃棄物のリサイクルコストが上がる理由は?

海洋汚染や生産・廃棄の際に排出される二酸化炭素(CO₂)量の増加など、プラスチックによる環境影響が深刻化していることを背景に、プラスチックの資源循環の動きが加速している。その一策として日本ではプラスチックごみの回収・リサイクルが積極的に進められている。「しかしリサイクルの過程でかえって多くのCO₂が排出されては意味がないし、コストがかかりすぎても持続可能な取り組みになりません。『リサイクル=環境に良い』と短絡的に推奨するのではなく、科学的根拠をもとに判断する視点が必要です」と笹尾俊明は説く。

笹尾は、環境経済学の観点から廃棄物の処理や資源循環をテーマに計量経済分析を行っている。最近の成果の一つに、PETボトル以外のプラスチック製容器包装廃棄物のリサイクルにかかるコストに焦点を当てた研究がある。

「PETボトルのリサイクルは日本では1990年代の後半から行われており、高い割合で再資源化されていますが、PETボトル以外にも、『その他プラスチック製容器包装廃棄物』に分類されるプラ製容器包装は非常にたくさんあります」と言う。例えば菓子やパンなどの袋類やレジ袋、食品のパックやカップ、トレイ、種々のボトルなどがそれにあたる。

廃棄物となったプラ製容器包装
リサイクルのために圧縮されたプラ製容器包装

リサイクルの手法には主に材料(マテリアル)リサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル(熱回収)の三つがあるが、笹尾によるとプラ製容器包装廃棄物に関しては、素材を再利用する材料リサイクルが優先される傾向にあるという。しかしそれが環境と経済の両面において本当に最善の策といえるのか。とりわけ持続可能性を考えた場合には、経済面を無視してその是非を判断することはできない。そこで笹尾は、これまでの研究で経済的な分析が行われていなかったPETボトル以外のプラ製容器包装廃棄物を対象に、どのような要因がどの程度リサイクルコストの決定に影響しているのか、定量化を試みた。

「日本では、各自治体が家庭などから出されるプラ製容器包装廃棄物を回収し、入札で決まった再商品化(リサイクル)事業者にリサイクル業務を委託します。今回の研究ではその落札単価をリサイクルにかかるコストとみなし、それに影響を与えうる要因として、落札数量や、市町村がリサイクル事業者に引き渡すプラ製容器包装の品質、リサイクル手法などの技術的要素、さらに市町村にある廃棄物の保管場所からリサイクル工場までの運搬距離といった地理的要素を設定しました」

時系列データと市町村等の廃棄物保管場所ごとのクロスセクションデータを合わせたパネルデータを用いた分析の結果、落札価格の上昇要因として明らかになったのは、まず「同一のリサイクル事業者が連続して落札した場合」や「材料リサイクル」だった。「同一業者による連続落札が上昇要因になった理由には、地域に競合がおらず、委託業務を独占できる状況で落札価格が高くなっている可能性が考えられます」と笹尾は考察する。その他「運搬距離の増加」や「保管施設が離島にある」といった要因にも有意な差が見られたという。

加えて笹尾が注目したのは、収集袋の破袋度の影響である。「収集されたごみ袋の中には雑多なプラスチックが混在しています。また自治体によっては指定収集袋の使用が義務付けられていますが、この袋は法律上その他プラ製容器包装には含まれません。そのため、回収後に袋を破き、分別するという工程が必要になります。こうした工程はコスト増加につながる可能性がありますが、この分析では落札単価に影響していないことがわかりました。また品質に関わる要因であるライターなどの禁忌品の有無についても、落札単価に有意な影響は与えないことが判明しました」

加えて笹尾は既存研究にない新たな試みとして、時間的な変化と、保管施設や市町村の違いを区別して推定できるモデルを用いた分析も行った。「今回の分析では、概ね時間的な変化よりもむしろ保管施設や市町村の特性の違いが落札単価の上昇に影響していることがわかりました」

多様な観点で資源循環を推進する方策が必要

今回の分析結果は、持続可能なプラスチックの資源循環を考えた時、材料リサイクルを優先する現在の制度設計が必ずしも最適であるとは限らないことを示唆している。「リサイクルや残さ処理にかかるコストを低下させ、リサイクルによる資源売却益を増加できれば、リサイクル料金の低下をもたらし、リサイクル促進につながります。本研究では経済的な側面に焦点を当てましたが、環境的な観点から見ても、材料リサイクルのCO₂排出量と、ケミカルリサイクルや熱回収のそれとに大きな差はないという報告もあります。環境面と経済面を両立させるなら、材料リサイクルだけにこだわる必要はないかもしれません」と笹尾は言う。

従来の大量生産から消費・廃棄までの一方通行の経済活動に対する反省のもと、サーキュラ―エコノミー(循環経済)が提唱され、EU(欧州連合)が先行するかたちで法制化などが進みつつある。「循環経済では、従来の3R(リユース、リデュース、リサイクル)の取り組みだけでなく、そもそも資源の投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら付加価値を生み出し、経済成長を図っていくことが重視されます。日本でも多様な視点から資源循環をめぐる課題を克服し、循環経済へ移行する道筋を見出していく必要があると考えています」

笹尾 俊明SASAO Toshiaki

経済学部 教授
研究テーマ

廃棄物処理・資源循環に関する計量経済分析

専門分野

環境経済学、循環型社会システム、循環経済