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Bottle to Bottleリサイクルから持続的な資源循環の仕組みを模索する

持続可能な資源循環の仕組みを模索する

中村 真悟経営学部 教授

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PETボトルを再びPETボトルに生まれ変わらせる「ボトル to ボトルリサイクル」が話題を集めているが、その事業化は極めて難しいといわれてきた。中村 真悟は、それに成功した企業の事例研究を通して、持続可能なリサイクル産業の構築や効果的な資源循環の方策を模索している。

PETボトルのリサイクルをビジネス化するのは難しい

使い終わったPETボトルを再びPETボトルに生まれ変わらせる「ボトル to ボトル(Bottle to Bottle)リサイクル」が近年、話題を集めている。「使用済みの飲料用PETボトルを同じ用途のPETボトル原料に戻す循環型生産プロセスで、水平リサイクルともいわれます」。そう解説した中村真悟は、リサイクル業の持続における技術・経営・市場・制度の課題を研究している。

「そもそもPETボトルのリサイクルをビジネスとして成立させるのは極めて困難です」と言う中村は、PETボトルの「ボトル to ボトルリサイクル」における課題を検討し、次のように指摘している。一つ目は、技術的な課題だ。「通常PETのリサイクルでは、使用済みPETボトルを熱で溶かして樹脂を再生させますが、この際に物性の一つである粘性が低下します。溶融・混錬を繰り返すほど品質が劣化していきます。シートやフィルム、さらに繊維などへのカスケードリサイクルが多いのはそのためです。純度や物性を使用前のPETボトルと同じレベルに戻すには、PETを一旦分子レベルまで化学分解してから製造する方法もありますが、これでは大きなエネルギーが必要となりコストも高くなってしまいます」と言う。

加えて、飲料用途に再利用するには、リサイクル工程にも食品衛生法に則った高水準の品質管理が求められる。廃棄物処理を目的とするリサイクル工場では到底対応できないのだ。

二つ目の課題は、PETボトルの回収段階にも高い品質が求められることだ。回収された際にラベルやキャップが付いたままだったり、飲み残しや吸い殻などの異物が混入していると、その後の処理の難度・コストが飛躍的に上がり、リサイクルが難しくなる。「日本では自治体または一部事業者がPETボトルの回収を担っています。自治体が回収するのは全体の約半分。それらは直接、または容器包装リサイクル協会を介してリサイクル事業者に委託されます。つまりラベルやキャップを剥がしたきれいなPETボトルを提供する市民の協力と、その分別回収の仕組みを含めたシステムがあって初めてPETのリサイクルは可能になるのです」

厳格な品質管理でメーカーの信頼を得て
ボトルtoボトルリサイクルの事業化に成功

中村は、ボトルtoボトルリサイクルの事業化に成功した企業の一つである協栄産業株式会社(栃木県、以下「協栄産業」)に着目し、事例研究を行っている。「協栄産業は、使用済みPETボトルの表面をアルカリ水で溶かして不純物を除去する洗浄法と再縮重合によって、PETを劣化させずに再生する技術の開発に成功しました。それと同時に製造工程に厳格な品質管理を導入し、食品衛生法の基準をクリアした製造プロセスも実現しています」

何より事業化を可能にした最大の要因は、飲料メーカーの信頼と覚悟を勝ち得たことだったという。もしリサイクルPETボトルに不純物が混入すれば、その責任を問われるのは飲料メーカーだ。それまでPETボトルの水平リサイクルが進まなかった理由もそこにある。協栄産業は、リサイクルの技術・プロセスの確立と、広報・訴求努力でその壁を打ち破った。2012年に大手飲料メーカー1社へ飲料用途のリサイクルPETの販売を開始。それ以降、近年の社会的環境意識の高まりに乗って次々と取引が始まっていった。最近では同社を含め複数のリサイクル事業者がボトルtoボトルリサイクル向け工場の新増設を計画しており、2023年度までの約2年間で、生産能力はおよそ10倍の約55万t/年になるという。

「日本のPETボトルリサイクルは、世界でも先進的な成果を挙げています。それは、リサイクル事業者によるリサイクル技術の確立だけでなく、高品質な使用済みPETボトルの回収を可能にする市民の協力や自治体回収という制度、さらにそれを再利用する飲料メーカーの存在を前提に成り立っています」。つまり経済合理性だけではないさまざまな要因が大きな役割を占めている。「だからこそPETの『ボトルtoボトルリサイクル』は、社会性や経済性を維持しながら資源循環する方法を模索する上で重要な示唆を与えてくれると考えています」

運搬コストを下げる実証実験
立命館大学キャンパスで実行

現在中村は、研究だけでなく実践的な試みも行っている。「PETボトルリサイクルを事業として成立させる上でネックの一つになるのが、回収・運搬にかかるコストです。空のPETボトルは積載効率が著しく低いため、運搬コストを下げるには、回収した各拠点でボトルを潰し、できるだけ体積を小さくすることが望ましい。そして効率的なボトル回収拠点として、大学は極めて有望ではないかと考えています」。立命館大学大阪いばらきキャンパスを利用する学生・教職員数は約7,000人。有志の学生が中心になって、学内で分別回収されたPETボトルの「ボトルtoボトルリサイクル」を目標に、キャップ・ラベルを剥がし、飲み残しのないペットボトルの分別回収に取り組んでいる。活動のリーダーを務める倉元英吾(経営学部4回生、2022年度取材時)は「まずは学生の認知度を高めるための啓発活動から始めています」と語る。

研究を継続しながら「水平リサイクルだけが正解ではない」と中村は言う。カスケードリサイクルも含め、「持続可能な資源循環の仕組み」をつくっていくことの重要性を強調した。

中村 真悟NAKAMURA Shingo

経営学部 教授
研究テーマ

企業経営のグローバル化と産業技術の分業に関する研究、循環型素材産業の技術と経営に関する研究、日本化学産業の産業技術競争力に関する研究

専門分野

科学社会学・科学技術史、経営学