カテゴリーで探す
キーワードで探す

足の健康を通して、健康長寿とWell-beingに貢献する

草川 祐生KUSAGAWA Yuki

総合科学技術研究機構 専門研究員
研究テーマ

1. 生体における足部筋の形態的特徴
2. 足部の機能解剖的役割の解明
3. 足部筋トレーニング手法の開発

専門分野

形態、構造、整形外科学、リハビリテーション科学、スポーツ科学、生体医工学

研究テーマを教えてください。

草川:ヒトの足部、つまりくるぶしから下にある骨や筋の構造・形態といった解剖学的特徴を調査し、それらがどのようにヒトの身体活動に関わっているのかを明らかにしようとしています。

ヒトの足部は、四足歩行で樹上生活を行う他の霊長類とは異なる特徴を有しています。これは、直立二足歩行を実現するため、その構造や機能を適応変化させた結果と考えられています。例えば、内側縦アーチ、いわゆる土踏まずの明瞭さは、直立二足歩行を行うヒトに特有な特徴と考えられています。

しかし、中高齢期になると、疼痛やこわばりといった健康問題を抱える人が増えていきます。例えば、外反母趾/内反小趾、鉤爪・金槌・木槌変形といった足趾の変形を持つ人の割合は、高齢者、とりわけ女性ほど高いという報告があります。また我々を含む国内の研究者は、高齢になるにつれ、足ゆびの筋力(足趾屈曲筋力)が低下することを明らかにしています。

これら足の健康問題は、歩行や姿勢制御能、身体活動量の低下といった身体的な機能的低下と関連します。そればかりか、日常生活動作の困難さ、外出への抵抗感など生活の質(Quality of life:QOL)が低下するなど、心理・社会的な健康状態へも負の影響を波及させてしまいます。私たちは足の健康状態に関わる解剖学的要因を調査するだけでなく、地域社会での調査活動を通して、その知見を実社会に還元することで、人々の心身の健康、最終的にはWell-beingの実現に貢献することを目指しています。

具体的な研究内容を教えてください。

草川:ヒト足部の運動に関わる筋は、足外在筋と足内在筋に大別されます。中でも足部内に存在する足内在筋は小さな10筋/片足の集合体であり、非常に複雑な解剖学的構造を備えています。これまで私は、磁気共鳴画像装置(MRI)を使用し、足内在筋の形態情報を定量することに取り組んできました。これにより、足内在筋の個別筋10筋の大きさの差異やどのような足長に沿った筋量分布をしているのかなど、形態的特徴を調査してきました。

筋の形態的特徴は、その筋の最大発揮張力や収縮速度といった収縮特性と密接に関わることは広く知られています。私はこの点に着目し、足内在筋が形態学的観点からどのようにグループ化されるのかを調査してきました。具体的には、健康な若年成人男性26名の生理学的断面積(最大発揮張力を反映)と筋線維長(最大収縮速度を反映)を個別筋単位で測定、それらの変数を使用したクラスタリングを実施しました。その結果、個々の足内在筋はそれぞれの収縮特性に基づいた四つのグループに分類されることが明らかとなりました。これは、従来の解剖学的な位置関係に基づいた分類に対して、機能的側面を考慮した新たな形態学的分類といえるかもしれません。

最近の研究成果を教えてください。

草川:最近の研究では、足部内在筋がどのような機能を有しているのか、形態学的観点から調査してきました。例えば足趾屈曲筋力は、片脚立ちなど不安定な状況下での姿勢制御に重要な役割を果たしています。また、高齢者における足趾屈曲筋力の低下は、歩行速度や姿勢制御といった運動機能の低下、さらには高い転倒リスクと関わることがわかっています。解剖学的観点に基づくと、足趾屈曲筋力の発揮には足部外在筋と内在筋の両方が関与しています。しかし、個々の筋が足趾屈曲筋力の発揮に対して、どの程度貢献しているのかはわかっていませんでした。この点を解明するため、足外在筋と内在筋の筋量と足趾屈曲筋力との関係を調査しました。

具体的には、若年成人男性17人を対象として、MRIによる足外在筋と内在筋の筋量計測、筋力測定器を使用した足趾屈曲筋力の計測を実施しました。そして、個々の筋の筋量と足趾屈曲筋力との関係を統計学的に検討しました。その結果、足趾屈曲筋力との有意な相関関係は、複数の足内在筋との間に認められました。さらに検討を進めると、足趾屈曲筋力の生成に対する寄与が最も大きいのは、母趾内転筋斜頭であることが明らかになりました。

現在の取り組みと今後の展望をお聞かせください。

草川:今後はこれまでの研究をさらに発展させるとともに、そこで得た知見を実社会に還元する方法を模索していきたいと考えています。現在は、足趾屈曲筋力のもつトレーニング効果を検証することに取り組んでいます。具体的には、健常な若年者に12週間の足趾屈曲筋力を発揮するトレーニングをしてもらい、それによって筋量、筋力、足部構造および運動機能がどのように変化するのかを検証しています。これにより、足趾屈曲筋力トレーニングによってどのような効果が得られるのかを明らかにしたいと考えています。さらに今後は、効果的なトレーニング手法の開発にも取り組んでいきたいと考えています。

加えて、地域社会において足の健康リテラシーを啓発する活動にも力を注いでいます。その一環として、2023年度から実際の研究機器を使用した体験型イベントを滋賀県とくに草津市で、足の健康状態に関する実態調査をびわこ・くさつキャンパスの研究施設で実施しています。

今後も研究・教育活動だけでなく、社会への啓発を通して、足の健康リテラシー向上、さらにはWell-beingの実現に挑戦していきます。