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オンラインショッピングにおける顧客行動をfsQCAを使って分析する。

苗 苗MIAO Miao

経営学部 准教授
研究テーマ

グローバル・マーケティング

専門分野

商学

研究概要をお教えください。

:eコマースのようなオンラインビジネスに関する国際マーケティングを専門にしています。現在は、大きく二つのテーマに関心を持っています。一つが、モバイルショッピングにおける消費者の購買行動です。オンラインショッピング市場が拡大する中、いつでも、どこにいても買い物できる便利さからモバイルショッピングの利用が世界的に増加しています。その中で私は、モバイルショッピングと消費者のロイヤルティの関わりに注目しています。もう一つの関心は、マーケティング活動と財務パフォーマンスとの関係です。企業が実施するマーケティング活動は、実際のところブランドエクイティ(ブランド資産価値)の創出や、財務パフォーマンスに役立つのかを明らかにしようとしています。

最近、新たな分析手法として質的比較分析(QCA)の一つfsQCA(fuzzy- set Qualitative Comparative Analysis)を研究に取り入れています。二元的な相関分析と違い、fsQCAは複雑な条件の組み合わせと結果との関連を分析でき、定量分析だけでは捉えられない複雑な文脈の中で因果関係を見出せるところに面白さを感じています。

モバイルショッピングに関する研究についてお聞かせください。

:同一のショッピングアプリを使っている中国のユーザー469名とベトナムのユーザー425名を対象に、異文化調査を行いました。消費者のモバイルショッピング行動が、使用するショッピングアプリの機能にも影響を受けることから、本研究ではアプリに搭載された二つの新機能「ウィンドウショッピング機能」とソーシャルメディアを介した「チャット機能」の使用習慣に着目。ユーザーのジェンダーや文化的価値観、どんな買い物をするかといった複雑な条件によって、満足度やアプリ継続利用意図、言い換えればロイヤルティは影響を受けるのか、fsQCAを用いて分析しました。

解析の結果、買い物客の高いロイヤルティを創出するソリューションとして、中国人の場合は四つのモデル、ベトナム人では二つのモデルが導き出されました。まずベトナム人買い物客においては、アプリのウィンドウショッピング機能の使用習慣がロイヤルティ創出に大きく影響していました。中でも女性で高価な買い物をし、ある文化的価値観(集団主義・不確実性)を持っているといった条件において、高いロイヤルティを得られることが判明しました。ところが中国人買い物客では、反対にウィンドウショッピング機能の使用習慣の低い人、中でもチャット機能の使用頻度は高く、モバイルショッピング経験が豊富であるといった条件下で高いロイヤルティ創出が見られました。

こうした結果から、買い物客のショッピングアプリの継続利用意図(ロイヤルティ)は、単一の要因ではなく、複雑な条件に影響されることが見て取れます。オンラインビジネスの課題の一つは、クリック一つで店舗(ウェブサイト)を移動できる容易さから、顧客のロイヤルティを獲得し、継続的に維持することが難しい点にあります。本研究は、さまざまな条件によってターゲットを限定することで、顧客のロイヤルティを持続的に獲得できる可能性を示しました。

二つ目のテーマに関わる研究についてもお聞かせください。

:日本のファッション市場においてブランドエクイティの財務パフォーマンスへの影響について調査・分析しました。先行研究では、衰退するファッション市場にあって、ブランド価値をいくら高めても、財務パフォーマンス向上には役立たないという結果が示されています。これは本当といえるのか。fsQCAを用いて改めて検討しました。

分析の結果、高いROA(総資産利益率)を生み出す四つのモデルが明らかになりました。特徴的だったのは、就労経験のある女性で、ブランド認知度やブランドイメージ、ブランド連想スコアの高い人は、ブランドエクイティが低くても、高いROAを生み出す可能性があることです。その反面、未就労者でブランド認知度やブランドイメージ、ブランド連想のスコアが低いという条件では、ロイヤルティプログラム(優良顧客特典)を与えても、財務実績にはマイナスに働くことがわかりました。以上から、ブランド価値は必ずしも財務実績向上にとって無意味ではなく、条件次第でプラスにもマイナスにも働くことが明らかになりました。

現在、そして今後の研究についてもお聞かせください。

:新しい研究として、日本のファッション市場において、ブランド認知度とロイヤルティプログラムは、若年買い物客のロイヤルティ向上に影響するのかをFsQCAを用いて検証しました。

それに続いて現在は、研究対象を日本に在住する外国人(韓国人・中国人・ベトナム人)に拡大し、研究を発展させています。日本のファッションブランドのブランドエクイティを支えているのは、実は日本人消費者ではなく、日本在住の外国人なのではないか。そんな疑問が研究の出発点でした。今後fsQCAで分析し、仮説を検証していきます。