2013年6月18日、ユネスコにおいて陽明文庫所蔵の国宝『御堂関白記』が世界記憶遺産として登録され、この登録を記念して東京国立博物館、京都文化博物館などで一般公開が行われました。
立命館は今から80年ほど前の1936(昭和11)年、この『国宝 御堂関白記』を創立35周年記念事業として複製・刊行しています。
以下に、立命館の『国宝 御堂関白記』複製・刊行事業の概要を紹介します。
1.『国宝 御堂関白記』複製・刊行の概要
1935(昭和10)年、立命館は1900(明治33)年の創立から35年を迎え、また創立者で総長であった中川小十郎の古稀を記念し、創立35周年記念事業を行いました。その記念出版事業として、翌1936年に、『国宝 御堂関白記』『立命館三十五周年記念論文集』文学篇・法経篇、『美妙選集』などを相次いで刊行しました。
『国宝 御堂関白記』の複製刊行については、立命館総長中川小十郎が「近衛公爵家御所蔵 藤原道長公自筆 国宝 御堂関白記複製頒布趣旨書」で、「立命館大学は今般創立三十五周年に当るを以て此れを慶祝すると共に記念の事業として深蔵の古典籍を複製してこれを世に伝へ、又以て学界の研鑽に資することを冀ひ」複製・刊行したと述べています。
複製の経過は、貴族院議長(のちに総理大臣)であった近衛文麿氏の特別な厚意によって、1936年2月に宮内省において撮影を行い、東京帝国大学名誉教授文学博士黒板勝美氏並びに京都帝国大学教授文学博士西田直二郎氏により解題・校訂を行いました。影印複製は当時の最新最高の技術をもって便利堂印刷所が行い、5月に完成、7月より頒布を開始しました。
『御堂関白記』はもと36巻あったと伝えられていますが、藤原道長の自筆で存するものは14巻で、長徳4(998)年、長徳5(999)年、長保2(1000)年、長保6(1004)年、寛弘2(1005)年、寛弘4(1007)年から寛弘9(1012)年の各年、寛仁2(1018)年から寛仁4(1020)年の各年、計14巻で、そのすべてを現物と違わず再現したのです。
2.複製版の頒布、活字本の刊行
複製版については、「国宝 御堂関白記複製頒布規定」により、1936(昭和11)年7月より頒布を開始し、非売品として会員のみに金500円で頒布をしています。続いて活字本を同年10月に刊行しました。
頒布先についての記録は残っていませんが、複製版は国立国会図書館、国文学研究資料館、国際日本文化研究センター、同志社大学、関西大学、大谷大学、筑波大学、鶴見大学などが所蔵しています。
また『立命館学誌』第194号(1936年11月15日)には、ケンブリッジ、オックスフォード、ソロモン、ローマ、ベルリン(またはライプチヒ)、ハーバード、カリフォルニアなどの各大学に寄贈の予定とあり、コロンビア大学には現在も複製版が所蔵されています。
写真:史資料センター所蔵資料より
3.新聞の報道
当時の新聞の報道によると、大阪毎日新聞(昭和11年5月22日)は、「世界最古の日記 御堂関白記 見事複製成る 昭和の代に匂ひ滾るゝ藤原朝文化の精粋 立命館大学から海外大学へ」の見出しで、宮内省図書寮に所蔵されていた近衛家秘蔵の藤原道長自筆の「御堂関白記」が、立命館大学により現物と寸分の相違を見ないまでの複製品として完成し、海外の大学に寄贈するほか、50部に限り一般有志に頒布することになった、と報じました。
また京都日出新聞(昭和12年6月22日)は、中川総長が滞洛中の皇太后陛下を御所に伺候し、創立35周年記念事業で複製刊行した『国宝 御堂関白記』および『槐記注釈』を献上したことを伝えました。
4.世界記憶遺産に登録されて
世界記憶遺産に登録されて各地の博物館で陽明文庫の所蔵する国宝『御堂関白記』が展示されましたが、立命館が複製した『国宝 御堂関白記』も各地で公開されました。
複製版の製作にあたった便利堂、長浜市の鐘秀館、東近江市の近江商人博物館などです。
当時は近衛公爵家秘蔵であった『御堂関白記』と立命館の複製事業に改めて思いをいたしてみてはどうでしょうか。