アジア・マップ Vol.01 | シリア

シリア21世紀年表  1999~2022年

望月葵(立命館大学アジア・日本研究機構 専門研究員)

1999年
2月 ハーフィズ・アサドが約99.99%の得票率で5期連続の大統領当選を果たす。
6月 アサド大統領と新しくイスラエルの首相に就任したエフード・バラクが、和平合意に向けて努力するという意思を公に宣言した。
11月 ハーフィズ・アサドの息子バッシャールが初めての欧州での公務としてフランスを訪問。

1998年から2000年にかけて、シリアは深刻な干ばつに見舞われた。特にシリア北部では、1999年の地域の穀物生産量が40%近く下落。
2000年
6月 ハーフィズ・アサドが死去。バッシャール・アサドに権力を移譲するため、大統領の年齢要件を引き下げることが決定される。
7月 バッシャール・アサドが97%の得票率で大統領選に勝利する。

7月から9月にかけて、反体制運動である「ダマスカスの春」が高揚。
11月 600人もの政治犯が恩赦で釈放される。
2001年
2月 アサド政権が表現の自由に対する制限を発表。
3月 ムアッリム外務次官が来日。
4月 非合法化されているムスリム同胞団が活動の再開を宣言。
5月 ローマ教皇ヨハネ・バウロ2世がダマスカスを訪問し、ウマイヤ・モスクを訪問。
2002年
1月 アメリカの指定する「悪の枢軸国」にシリアも名指しされる。
6月 ハマー県にあるザイズーン・ダムが決壊し、死者および避難民が発生。
7月 リファーイ経済貿易相が来日。
9月 米国がアル=カーイダへの関与の疑いでシリア系カナダ人マーヒル・アラールを誤認逮捕し、その後シリアに強制送還。
2003年
2月 ダハル電力相、アッタール元文化相が来日。
4月 国連難民高等弁務官が、シリアのイラク難民の自国への強制送還を批判。
10月 イスラエルがダマスカスの近くのアイン・アル=サーヒブにあるキャンプを襲撃。
10月 ダマスカスで反米デモが発生。
2004年
2月 ダルウィーシュ外務次官が来日。
3月 クルド人による反体制派運動「カーミシュリーの春」が展開されるも、アサド政権によって弾圧。
5月 シリアがテロを支援したとして、米国がシリアに経済制裁を課す。
9月 国連安全保障理事会が、レバノンからのシリア軍の撤退を呼びかけ。
2005年
4月 2月のレバノン元首相ラフィーク・ハリーリー暗殺事件の影響で、アサド政権がレバノンからシリア軍を完全撤退させる。
10月 反体制派運動「第二次ダマスカスの春」が高揚し、反体制派組織や活動家による「ダマスカス宣言」が発表される。
10月 内務大臣かつ在レバノンのシリア諜報機関責任者であったガーズィー・カナーンが死去、シリア当局は自殺と説明。
2006年
2月 デンマークの新聞紙に掲載された預言者ムハンマドの挿絵をめぐってデモが発生し、デンマーク大使館およびノルウェー大使館が放火される。
5月 シリアとレバノンの活動家により、シリアによるレバノン介入を批判する「ベイルート・ダマスカス宣言」が署名される。
6月 シリア政権が「ベイルート・ダマスカス宣言」の主導者2人を逮捕。
11月 シリアとイラクが外交関係を回復。
12月 深刻な干ばつの発生。
2007年
3月 EUがシリアとの協議を再開。
5月 「ダマスカス宣言」の主要な活動家が逮捕される。
7月 バッシャール・アサドが大統領に再選。
9月 イスラエルがシリア北東部のキバルにある核施設と疑わしき場所を空爆。
2008年
1月 干ばつが激化し、家畜の大損害が発生する。
3月 シリアにおいてアラブ連盟のサミットが開催される。
8月 アサド大統領がパリを訪問、ハリーリー首相暗殺事件以来の政治的孤立が終結。
9月 フランス、トルコ、カタールをダマスカスに招き、地域の和平に関するサミットを開催。
10月 シリアとレバノンが初の外交関係を樹立。
2009年
1月 ミクダード外務副大臣が来日。
3月 経済改革の一環として、ダマスカスに証券取引所が開設される。
6月 シリア政府が名誉殺人への罰則を強化。
11月 アガ文化相が来日。
12月 ダマスカス郊外でバスが爆破され、3名が死亡。
2010年
2月 米国が5年間の空白期間を経て、ダマスカスに大使を配置。
5月 再び米国がシリアへの制裁を決定。
7月 シリア政府は学校内での教師と生徒について顔を覆うヴェールを禁止。
12月 長期化する干ばつにより、多くの農家や遊牧民が家を捨てて移動する。
2011年
3月 シリアに「アラブの春」の民主化運動が波及し、各地でデモが発生。
3月 ダルアー市のデモにおいて、治安部隊がデモ参加者を射殺する。
5月 アサド政権がダルアーやホムスなどでデモを鎮圧するために戦車を投入。
7月 反体制派の自由シリア軍が結成される。
8月 反体制勢力による「シリア国民評議会」設立。
11月 シリアのアラブ連盟加盟資格が停止。
2012年
1月 ヌスラ戦線が結成されるなど、イスラーム過激派が台頭。
2月 シリアの新憲法が公布。
6月 ジュネーブで和平協議が国連主催で開催される。
8月 シリア首相リヤド・ヒジャーブが辞職、亡命。
11月 カタル首都ドーハにおいて反体制勢力「シリア国民連合」結成。
12月 西側諸国が「シリア国民連合」をシリア国民の代表として承認。
2013年
3月 反体制派がラッカ市を占領。
5月 イスラエルがダマスカス付近の軍事施設を攻撃。
6月 シリアの世界遺産(ダマスカス、ボスラ、アレッポ、パルミラの遺跡など6つ)がすべて危機遺産リストに登録される。
8月 ダマスカス郊外県の東グータでシリア政府軍が化学兵器を使用し、多数の市民が犠牲となる。
9月 米国とロシアの合意のもと、シリア政府は化学兵器の在庫の廃棄を国連に認める。
2014年
1月 ジュネーブで2回目の和平協議が国連主催で開催される。
6月 「イスラーム国」の指導者バグダーディーがカリフ制を宣言。
6月 複数の立候補者による大統領選挙が実施され、バッシャール・アサドが再選。
9月 米国が率いる国際的な有志連合が、「イスラーム国」などへ空爆を実施。

この年、欧州へ移動するシリア難民の数が急増。
2015年
1月 クルド勢力の人民防衛部隊がシリア北西部アイン・アル=アラブ市から「イスラーム国」を排除。
5月 「イスラーム国」がパルミラを制圧し、世界遺産である遺跡を破壊。
8月 ドイツ前首相アンゲラ・メルケルがシリア難民等の受け入れについて「我々はできる」と発言。
12月 反体制派の支配下にあったホムスが政府軍に制圧される。
2016年
3月 シリア政府軍はロシアの航空支援を受けて「イスラーム国」からパルミラを奪還する。しかし12月にはパルミラから再び政府軍が追い出される。
8月 「イスラーム国」とクルド系反政府組織を国境から押し戻すため、トルコ軍がシリアに侵入。
12月 ロシアとイランの支援を受けて、シリア政府軍がアレッポを奪還。
2017年
4月 シリア北東部イドリブ県のハーン・シェイフーンにおいて政府軍によって化学兵器が使用され、多数の死傷者が出た。
4月 政府軍の化学兵器使用を受けて、アメリカ前大統領ドナルド・トランプが、シリア政府軍の空軍基地へのミサイル攻撃を命令。
5月 米国は「クルド人民防衛隊(YPG)」の武装化を開始。
6月 米国はラッカ付近でシリア戦闘機を撃墜。

10月から11月にかけて、「イスラーム国」が米国の支援を受けたシリア民主軍(SDF)に敗退し、ラッカとデイル・アッ=ズールから駆逐される。
2018年
1月 トルコがアフリン周辺地域を支配するクルド系反政府組織を追い出すため、シリア北部を攻撃。
7月 シリア政府軍(およびヒズブッラーとイランの支援を受ける軍事組織)は国土の南部のほぼすべてを奪還。

9月から12月にかけて、「イスラーム国」の支配地域がイラク国境付近の小さな飛び地に縮小。
12月 アラブ首長国連邦がダマスカスで在シリア大使館を再開。
2019年
3月 SDFが「イスラーム国」の完全敗北を宣言。
8月 米国とトルコは、シリア北部に非武装緩衝地帯を設置することで合意。
10月 米国がシリアから軍を撤退させることを決定。
10月 イドリブ県にて「イスラーム国」主導者アブー・バクル・バグダーディーが米国の襲撃によって自爆。
2020年
1月 ロシアがイドリブでの停戦を公表。
3月 トルコがドローンなどを駆使し、イドリブに進軍するシリア政府軍を攻撃。
3月 国連のシリア特使が、新型コロナウイルスによるパンデミックと戦うために、シリア全体での停戦を呼び掛け。
8月 イドリブにある避難民キャンプで「テント・オリンピック」が開催される。

この年の秋以降、深刻な干ばつが発生。
2021年
1月 シリア北西部の避難民キャンプにおいて大雨による洪水が発生し、一人の死者と数千のテントが浸水する被害が生じた。
5月 大統領選挙が実施され、バッシャール・アサドが95%の得票率で4期目の再選。
10月 米軍が無人機によりアル=カーイダの幹部アブドゥルハミード・マタールをシリア国内で殺害。
2022年
5月 トルコのエルドアン大統領は国内のシリア難民をシリア北部にあるトルコの治安管理下地域に送還する計画を発表。
7月 イドリブ県でのロシアの空爆により民間人が死亡。
8月 シリア北部のアル=バーブで政府軍による攻撃と思われる爆撃により死傷者が発生。

参考文献

青山弘之 2012『混迷するシリア――歴史と政治構造から読み解く』岩波書店.
――― 2017『シリア情勢――終わらない人道危機』岩波書店.
Imady, Omar, David Commins and David W. Lesch. 2021. Historical Dictionary of Syria (4th ed.). Lanham: Rowman & Littlefield.
アルジャジーラ紙(https://www.aljazeera.com/)
BBC. 2019(Jan. 14). "Syria Profile: Timeline." (https://www.bbc.com/news/world- middle-east-14703995)(最終閲覧日;2022年9月8日).
CNN. 1999(Oct. 18). "Syria struggles with dwindling water supply amid drought." ( http://edition.cnn.com/WORLD/meast/9910/18/syria.water/index.html)(最終閲覧日;2022年9月8日).

書誌情報
望月葵「シリア21世紀年表 1999〜2022年」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, SY.3.03(2023年1月10日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol01/syria/timeline/