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  • ISSUE 21:
  • 脱炭素

カーボンマイナスへの挑戦。バイオ炭を農業に活用する

カーボンニュートラルでは地上のCO₂量は減少しない

柴田 晃OIC総合研究機構 日本バイオ炭研究センター長 客員教授(博士:政策科学)

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地球温暖化防止に向け、いまやCO₂削減が待ったなしの状況にある。柴田晃は、地表上の総炭素量を減らす「カーボンマイナス」の有効な手段として、バイオ炭による炭素貯留を提唱する。農業と連携し、農業再生とCO₂削減の両方を実現するプロジェクトを推進している。

地球温暖化を防ぐには「カーボンマイナス」が不可欠

国連の気候変動に関する政府間パネル「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)」は、2023年3月に公表した最新の報告書において、「気温上昇を産業革命時比で1.5℃未満にする」という目標を今後超えてしまう可能性が高く、それを防ぐためには2030年に世界の二酸化炭素(CO₂)排出量を半減させる必要があるとして、各国に対策を迫った。

日本は2021年4月、2030年度に温室効果ガス(GHG)を2013年度比で46%の削減を目指すことを表明している。「しかしCO₂排出量を46%減らしたとしても54%は増え続けているわけで、これでは地表上の総炭素量を減らすことにはなりません」。そう指摘した柴田晃は、地表上の循環炭素総量を減少させる「カーボンマイナス」の必要性を強く訴える。

地表上の炭素は、大気中か海洋中もしくはバイオマスとして動植物内に存在している。「炭素循環によって地表上の炭素の排出量と吸収量のバランスを保つ『カーボンニュートラル』という考え方がありますが、これではすでにある炭素は減少しません。『カーボンプラス』で増え続ける地表上の循環炭素総量を減少させるには、プラス量を上回る炭素を地中または海中に安定的に隔離する『カーボンマイナス(長期炭素隔離)』が必要です」と言う。その有効な手段として柴田が提案するのが、バイオ炭による炭素固定・貯留である。

有機物を低酸素もしくは無酸素下で不完全燃焼(熱分解)させると炭素を固定(炭化)して炭ができる。炭は燃やさなければ再び空気中に戻ることはない。これを地中に埋めることで、永続的に炭素を隔離しようというわけだ。柴田によると、木質原料を使ったバイオ炭の固定炭素量は重量の80%にも及ぶ。「何より注目すべきはその貯留時間の長さです。バイオ炭の固定炭素の土壌での滞留時間(半減期間)は120年から1万年に及ぶといわれています」

地表上の炭素を減らす方法には他にもいくつかある。「植林によって森林を増やす方法は、炭素隔離期間が数十年と短く、有効とは言えません。海洋アルカリ化やDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)といった新しい技術も開発されていますが、まだまだ高額で広く普及するには至っていません。現時点で最も有力なのがバイオ炭だと考えています」と語る。

「クルベジ」販売とJ-クレジットでバイオ炭の炭素貯留を収益化

柴田は現在、このバイオ炭による炭素貯留を広く社会に実装することに力を注いでいる。取り組みを持続的に拡大していくためには、経済的にも成り立つ仕組みが必要だ。そこで柴田は、農業と連携した社会経済構造モデルを提案している。バイオ炭を活用して農業に新たな収益構造を創り出し、農業再生による地域振興と、CO₂削減を同時に実現しようというわけだ。背景には日本の農林水産業の衰退と、それに伴う農山村部の産業沈滞や地域の疲弊に対する問題意識がある。

柴田はこのモデルで二方向の収益ルートを提示している。一つがバイオ炭の土壌改良機能を生かして農地に施し、そこで栽培した野菜を「環境保全農作物」して付加価値を高めて消費者に販売し、農業者に利益をもたらす方策だ。柴田はすでにバイオ炭を施用した農地で育てた農作物を農地炭素貯留野菜『COOL VEGE(クルベジ)』として認証する仕組みを構築している。「『クルベジ』は、CO₂削減量を数値化し、明示できるところに強みがあります。『クルベジ』ブランドの野菜を購入することで、どれだけ温暖化対策に貢献したかを『見える化』できる。『安全』『安心』『おいしい』といった価値に加え、『自然環境保全』という付加価値を定量的に示すことができます」

『クルベジ』ブランドのさつまいも。他にも多種の野菜が市中のスーパー、八百屋で販売されている。

二つ目の収益ルートが、カーボンクレジット(J-クレジット)の販売だ。J-クレジットは、CO₂の排出削減量や吸収量を数値化し、それを「クレジット」として国が認証し、売買を認める制度である。バイオ炭の農地への炭素貯留がJ-クレジットに認証されれば、環境目標達成に取り組む企業や自治体に購入してもらえる。

「IPCCが2018年の『1.5℃特別報告書』において『農地などで行う炭素貯留』が有効な手法の一つして明記されたことも追い風になり、2020年9月、『バイオ炭の農地施用』によって固定された炭素がJ-クレジットに認証可能になりました」と柴田。「J-クレジット」の収益を農業者に還元し、新たなバイオ炭の購入・活用に生かすことで資金循環を実現すれば、持続可能な取り組みになる。

柴田は自身が代表を務める一般社団法人日本クルベジ協会を窓口にJ-クレジットを取得する体制を整備。現在はそのスキームを立命館大学内に設置した日本バイオ炭コンソーシアムが引き継いでいる。「2022年には約250トンのCO₂削減分がJ-クレジットとして認証されました。参画する農家も増加しており、2023年6月には約750トンの承認を見込んでいます」と柴田。今後もさらに取り組みを発展させるべく、力を尽くしていく。

関連サイト

柴田 晃SHIBATA Akira

OIC総合研究機構 日本バイオ炭研究センター長 客員教授(博士:政策科学)
研究テーマ

バイオ炭の農地炭素貯留における安定性検証と炭素貯留量計測手法の開発、バイオ炭農地貯留におけるカーボンクレジットと炭素貯留野菜の販売社会スキーム構築研究、地域未利用バイオマスを使った簡易炭化手法の研究開発

専門分野

社会システム工学・安全システム、地域研究、経営学、資源保全学、林学・森林工学、 農業環境工学、農業経済学