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  • 再生

発電力の残った太陽電池を捨ててしまわないために―

太陽電池モジュールを最後まで使い切る、寿命予測とリユース・リサイクル・アップサイクル

峯元 高志理工学部 教授

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再生可能エネルギーの代表格として普及が進む太陽光発電だが、現在、初期に導入された太陽電池の経年劣化が懸念されている。峯元高志は、太陽電池の寿命予測に取り組むとともに、リサイクルやアップサイクルの方策も探っている。さらに次世代の太陽電池として期待される超軽量ペロブスカイト太陽電池の開発も進めている。

普及初期に導入された太陽電池の寿命を予測

再生エネルギーの代表格として定着しつつある太陽光発電。2021年末には世界の累積導入量が全人類の電力需要の5%にあたる942GW(ギガワット)に達し、前年末から23%増加した。日本国内でも、再生可能エネルギーで作られた電力を電力会社が国の定めた価格で買いとる「固定価格買取制度(FIT)」などの後押しもあり、今世紀に入り急速に普及した。2021年末の累積導入量は78.2GWで世界全体の8.3%、国内電力需要の9.4%を賄うまでになっている。日本人約1億人全員が出力400Wの太陽電池モジュール2枚を所有している計算で、その約97%が、結晶シリコンを主材としたシリコン系太陽電池である。

普及初期に導入された太陽電池が設置からおよそ20年を迎える今、気がかりは経年劣化だ。理工学部電気電子工学科教授の峯元高志は、太陽光発電に関する幅広い研究に取り組んでいるが、そのテーマのひとつが太陽電池の寿命の予測である。「太陽電池には明確な寿命の定義がありません。ある日突然発電できなくなることはめったにありませんが、出力は年々低下するため、いずれ期待した電力は得られなくなります」。発電力が低下すれば、たとえば電力を販売して得られる利益も減ってしまうため、寿命の推定は太陽電池パネルの保証を考えるうえで重要なのだという。

出力低下の原因のひとつは酸による電極の腐食だ。シリコン系の太陽電池モジュールは、発電部であるシリコンと電力を取り出す金属からなる太陽電池セルを樹脂製の封止剤で保護し、表面にはガラス、裏面には絶縁体のシートを貼った多層構造をもつ。シリコンはほぼ劣化しないが、封止剤として使われるEVA樹脂は熱や紫外線、水分で劣化して分解され、その結果生じた酢酸が電極を腐食させてしまう。「EVA樹脂が寿命を縮める一因であることはわかっているのですが、EVA樹脂は加工しやすく安価で、工業製品として実績のある素材でもあります。材料や製造のコストを上げないことを念頭に、EVAに代わる封止剤や、腐食に強い電極素材が探索されています」

太陽電池を最後まで使い切るリサイクル・アップサイクルを推進

寿命が延びても避けては通れないのが廃棄の問題だ。リサイクルを積極的に進めず、埋め立て処理が大半を占めた場合、処分場の容量はいずれひっ迫する可能性がある。「寿命の評価方法が確立されておらず保証が難しいため、評価額が低くなりがちで、中古品市場は活発とはいえません。残りの発電力は技術的には推定可能ですが、現状では検査が高額な場合が多く経済的なメリットを確保することは簡単ではありません」。峯元らは太陽電池パネルを最後まで使い切るのための価値評価に取り組む傍ら、発電力の残ったパネルに付加価値をつけて再販売するアップサイクルを進めている。「現在の基準では、台風等で水没したパネルは保険で新しいものと交換できますが、実は全損はしておらず発電力は残っています。このようなまだ使えるパネルを、照明やデジタルサイネージと組み合わせて独立電源として使うことを考えています」

グリーンイノベーションに挑戦するペロブスカイト太陽電池

シリコン系のモジュールは1平方メートルで約10kgと重いが、より軽く、シリコン系に匹敵するほどの高い発電効率で注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池だ。ペロブスカイトとは結晶構造の名で、鉛、ヨウ素、炭素など複数の元素を特定の条件で混ぜ合わせた溶液を基板に薄く塗りつけるとペロブスカイト構造を持つ発電層を形成できる。水と反応して分解するために封止をしっかりする必要があるものの、軽量で製造コストが低く、シリコン系より短い波長の光で発電効率が上がるため、シリコン系と組み合わせて互いの苦手な波長帯での発電力を補い合うタンデム型の太陽電池ができるなどの利点がある。シリコン系では中国製品の輸入に依存してきたが、ペロブスカイトは日本で開発された技術である。寿命が延ばせれば幅広い応用だけでなく、経済的な効果も期待されている。

「太陽電池で日本から世界一の成果を出したい」と情熱的に研究を進める峯元だが、太陽電池の現状は「普及したようでいてまだ十分に社会に浸透していない」という危機感もあるという。太陽電池の研究やビジネスに必要な知識は幅広く、参入を考えてもまず何から始めるべきかと悩む企業も多い。リサイクルやリユースへの取り組みは道半ばだ。峯元は2019年に太陽光発電・再生エネルギーに関する研究開発を大学研究者が支援する『スカラーズ株式会社』を立命館大学発のベンチャーとして立上げ、企業への助言や受託研究を開始した。また、YouTubeチャンネル『太陽光発電大学』にて、太陽光発電に関する知識の発信を続けている。「太陽光発電の普及はこれからもまだまだ進んでいきます。世界の研究者と学術的に連携しつつも、日本の強みを生かした研究開発を産官学連携で進めていきたいと思います」

関連サイト

峯元 高志MINEMOTO Takashi

理工学部 教授
研究テーマ

太陽電池の理論設計、高効率化、動作解析、太陽電池モジュールの屋外実証試験

専門分野

電子・電気材料工学、電子デバイス・電子機器