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  • ISSUE 22:
  • 観光/ツーリズム

観光まちづくりにおけるプラットフォームの重要性

地域の人々、DMO 、みんなでつくる「着地型観光」

高田 剛司食マネジメント学部 教授

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団体から個人志向へと旅行のあり方が変化する中で、「着地型観光」が注目を集めている。そこで重要になるのが、受け入れる地域の人々の役割だ。高田剛司は、まちづくりコンサルタントの経験を元に、観光まちづくりや食を軸にした観光振興について研究している。

地域の多様な人が連携し
「観光まちづくり」を推進

一昔前まで「観光」とは、団体旅行やパックツアーに代表されるように、旅行会社や運輸会社など旅行者を送り出す側(発地)が、観光目的地(着地)の観光関連事業者などと関わり、魅力的な企画を提供するのが一般的だった。2000年代頃から、そうした観光のあり方が変わりつつある。「人々が志向する旅行の形態が団体から個人へと変化し、観光のニーズが多様化する中で、受け入れる地域の側が、そこでしか得られない体験や交流を提供する『着地型観光』が注目されるようになってきました」。そう説明した高田剛司は、まちづくりコンサルタントとして実践経験を経て、現在、観光まちづくりやガストロノミーツーリズムについて研究している。

「『着地型観光』では、地域の人々が、多様な地域資源を発掘して磨く必要があります。そのためには従来の観光関連事業者だけでなく、まちづくりに取り組む市民や団体、地域の食を提供する飲食店、その生産者など多様な人々の参画が重要になります」と高田は言う。そうした状況を踏まえ、現代の観光まちづくりにおいてその重要性を指摘するのが、多様な人々が集い、互いにつながる「場」=「プラットフォーム」だ。高田が支援に携わった三重県伊勢市の「伊勢観光活性化プロジェクト会議」(以下、伊勢活プロ)を事例に、「観光まちづくりプラットフォーム」の果たす役割を明らかにしている。

「伊勢神宮には年間700~800万人もの参拝客があり、とりわけ20年に一度の遷宮の年には、ひと際観光客が増加します。しかし内宮に比べ、外宮を訪れる観光客は減少傾向にあり、空き店舗の増加が課題になっていました。その中で、2007年、伊勢市の呼びかけによって観光まちづくりプラットフォームとして『伊勢活プロ』が設立されました」。コンサルタントの立場で設立・運営過程に関わった高田は、地域のキーパーソンとなるNPOや多様な事業者・個人に参加を募り、関係者が一堂に会する機会をつくるとともに、「食」「環境」「人」という三つのテーマを設定し、関係者が主体的に事業を推進する体制を整えた。

そうした取り組みを通じて、高田は「観光まちづくりプラットフォーム」の運営において重要な点を二つに整理している。一つ目は、「集まる個人・団体がそれぞれやりたいコトを持ちより、連携した活動を意識して、さらに仲間を連れてくるという行動をとること」二つ目は、「集まった個人・団体同士をマッチングさせ、コーディネートし、着地型旅行商品の造成も含め新たな事業を持続的に動かす組織(事業体)を位置づけること」だ。伊勢活プロでは、当時検討した事業体は生み出せなかったが、参加者の中の有志が観光まちづくりに取り組む合同会社を設立するなど、蒔いた種が芽を吹き、現在の伊勢のまちづくりに生かされている。

三重県伊勢市
(上左)伊勢活プロから生まれた合同会社が運営する「伊勢菊一」で説明を受けるゼミ生、(上右)江戸時代に伊勢の台所と呼ばれた河崎地区、(下)8つの商店街が広がる中心市街地で商店主とゼミ生が共催した「リビングストリート」

観光地域づくり法人の形成に果たす「場」の役割

また高田は、香川県丸亀市で「観光地域づくり法人(DMO:Destination Management / Marketing Organization)」の候補法人・法人登録に向けた取り組みに関わった事例から、DMO形成・運営における「プラットフォーム」の重要性も実証している。

日本において「観光地域づくり法人(DMO)」は、2015年、観光庁が観光地域づくりを推進する法人を認定する日本版DMO登録制度を創設したことから生まれた。丸亀市も2017年度から候補法人登録を目指した取り組みを開始。高田はその支援に携わった。「まずDMOの登録要件の一つである『多様な関係者の合意形成』に着目し、市内のキーパーソンへの訪問ヒアリングを行い、それぞれの意向を把握するとともに、プラットフォームへの参加を働きかけました」。関係者を集め、プラットフォームとして「丸亀版DMO懇談会」を定期的に開催。その実践から、「毎回会場を変える」「会場に合わせて検討テーマを設定する」「連携・協力して取り組むリーディングプロジェクトを設定する」「必ず一人一言は発言して帰れるように進行する」など、関係者が主体的・積極的に参加できる「場」にするためのポイントを10項目に整理した。

丸亀版DMO懇談会が、丸亀市の観光に携わる人々のすそ野を広げるとともに、「多様な関係者の合意形成」のプラットフォームとして機能していることを確かめた一方で、高田はこうした取り組みを持続可能なものにする難しさも指摘する。「まだ明快な解決策は見出せていませんが、重要なことの一つは、関わる人々が『楽しむ』ことだと考えています」。

香川県丸亀市
(上左)演習授業「GSP(ガストロノミック・スタディ・プロジェクト)」では、丸亀市DMOの協力によりフィールドワークを実施、(上右)SDGs観光の視点からレモン農園を訪問、(下)丸亀市と姉妹都市の美食都市サンセバスティアン(スペイン)にちなんでGSPで学生がオリジナルピンチョスを提案

注目を集める「食」を基軸にした観光まちづくり

また高田は、「食」を基軸にした観光まちづくりにも関心を持っている。「国連世界観光機関(UNWTO)は、『ガストロノミーツーリズム』という言葉を用いて発展のガイドラインをつくっていますが、近年『その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史に育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム』が注目を集めています。『食』の要素を取り入れることは、観光まちづくりを推進する上でも非常に重要であると考えています」と言う。

現在、京都府京丹後市をフィールドに、共同研究に取り組んでいる。「観光客と受け入れる地域が共に価値をつくっていく、ガストロノミーツーリズムの価値共創について深く掘り下げたい」と高田。「食」を基軸にした観光まちづくりの新たな可能性を探っている。

キコリ谷テラスの収穫祭(京都府京丹後市)

高田 剛司TAKADA Takeshi

食マネジメント学部 教授
研究テーマ

1. 地域商業における商店会組織の再構築とネットワーク形成に関する研究
2. 観光まちづくりプラットフォームの組織運営のあり方に関する研究
3. 食を生かした地域振興に関する調査研究

専門分野

地域経営、観光まちづくり