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単身世帯の増加から考える財産管理・承継

「おひとりさま」が少数派でなくなる「ソロ社会」に必要な制度

小田 美佐子法学部・法学研究科 教授

    社会科学|法学|経営・経済|
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少子高齢化の進展とともに、身寄りのない高齢者や単身世帯に占める高齢者が増加。財産管理・承継をめぐる問題が深刻化している。小田美佐子は、一人でも充実した高齢期を過ごすための利用しやすい財産管理・承継制度を研究している。

単身世帯の増加で深刻化する「おひとりさま」の財産管理・承継

身寄りのない人が亡くなった時、残された財産を誰が承継するのか。単身世帯が増加する現代において、財産の管理・承継をめぐる問題が深刻になっている。

「民法959条は、相続人がいない場合の財産は、特別縁故者に分与後、国庫に帰属すると定めています。2022年度のこの額は、過去最高の約769億円に達しました」と小田美佐子は解説する。「国に還元されるなら良い」との見方があるかもしれないが、「国庫への帰属には手続が必要であり、それほど単純ではありません」と言う。

背景には不動産価格の上昇もあると考えられるが、いわゆる「おひとりさま」の増加も目を引く。「2020年の国勢調査によると、男性の4人に1人、女性の6人に1人が生涯未婚です。生涯子どもを持たない人の割合も上昇しています。いまや総世帯に占める割合が高いのは、単身世帯です。とりわけ深刻なのは、単身世帯の高齢者率の上昇が続いていることです。今後、団塊ジュニア世代が高齢者になれば、さらに上昇するでしょう」

認知症のリスクや高齢者の特殊詐欺被害の高止まりなど、高齢になるほどお金の管理をめぐる問題が増加する。「おひとりさま」の財産管理・承継問題は、誰もが直面する可能性があるだけでなく、「ソロ社会」が真剣に取り組まなければならない社会課題でもあるのだ。

信託制度のメリットとデメリット

小田は、立命館大学法政基盤研究センターに所属し、金融ジェロントロジーの分野で企業や他機関との共同研究にも積極的に取り組んでいる。現在は、高齢期を迎えた際に、一人だとしても、利用しやすい財産管理・承継制度として、どのような選択肢がありうるのかについて研究している。

その一つとして注目するのが、民事信託制度だ。「例えば、A(「おひとりさま」)は、姪Bに自身の財産を管理してもらうこと、そして自身が亡くなった後は不動産などの主要な財産を姪Bに引き継いでもらうことを希望している場合、委託者兼受益者をA、受託者をB、信託財産をAの老後資金・所有不動産、信託の終期をAの死亡時、残余財産の帰属先をBとするような信託契約を活用することが考えられます」

小田は、この制度のメリットを次のように説明する。「一つ目は、契約で委託者(本人)の希望を反映させた自由度の高い財産管理が可能な点です。二つ目は、遺言機能もついていることです。本人が亡くなった後、誰に財産をどのように承継させるかを決めておくことができます。つまり、自分が生きている間の財産管理から、亡くなった後の財産承継まで行えるわけです。三つ目は、財産を休眠させないことです。認知症になった場合に管理が難しくなる不動産や、介護・医療に必要となるお金だけを信託財産に指定することもできます」

他方で、デメリットも挙げる。一つ目は、監督機能の弱さだ。「管理を任された受託者による横領といったトラブルが起きることがあります。信託監督人がいれば、解決可能ですが、そのなり手や費用の問題もあります」。二つ目は、信託財産たる金銭を管理・運用する際に銀行預金を用いる場合、銀行によっては、受託者を三親等以内に限定するだけでなく、その受託者が契約を履行できなくなった際に代わりとなる第二受託者まで指定することを求めることがあるという。「身寄りの少ない高齢者にとって、信頼できる受託者を二人確保するのは容易ではありません」

さらに三つ目として挙げるのは、「信託法は委託者から受託者に財産の帰属が移転することを前提としており、不動産信託の場合、登記を委託者から受託者に移転する必要がありますが、登記上の名義が変わることに抵抗感を感じる人が少なくないことです」

改正に向けて議論が進む任意後見制度

財産管理に関わる制度として、小田は、任意後見制度にも着目している。「民事信託の受託者は、身上監護ができないため、任意後見制度と併用する必要がある場合があります。ただし任意後見制度も、民事信託と同様、あくまで契約に基づくため、本人の判断能力が低下し、契約できない状態になると、利用できなくなります。また、任意後見制度の検討事項として、適切な任意後見監督人の選任の申立てを確保することに関する規律、任意後見における監督の開始要件の規律、任意後見契約で委任された事務に関して、本人 の必要性に応じてその一部の事務の委任を段階的に発効させることを認める規律、任意後見契約において委任されていなかった事務について必要性に応じて事務を追加することや報酬の変更をする旨の規律、特定の事務についての任意後見の終了に関する規律等が挙げられていますが、法制審議会での議論を経て、法改正がなされる可能性があります」と小田。今後の動向を注視したい。

「単身者の金融資産の保有目的として最も多いのが、老後の生活資金です。専門家のサポートを得られる富裕層以上に、一般の人々こそ財産管理について考えることが重要です」と語った。

小田 美佐子ODA Misako

法学部・法学研究科 教授
研究テーマ

財産権、人格権、比較法、AIと法

専門分野

基礎法学、民事法学