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  • ISSUE 18:
  • ゲーム・遊び

デジタルゲームを巡る権利の行方

デジタルゲームに関わる著作権、知的財産権を研究

宮脇 正晴法学部 教授

    sdgs10|

1982(昭和57)年、日本中に大ブームを巻き起こした通称「インベーダーゲーム」のメーカーが海賊版製造業者を訴えた裁判で、原告側勝訴の判決が下った。この「スペース・インベーダー・パートⅡ事件」は、コンピュータプログラムを著作物と認めた日本で最初の判決だといわれている。

「デジタルゲームは莫大な利益が絡んだり、多くの人に影響を与えることから著作権や知的財産権の分野では議論の多いテーマです」と、著作権法や知的財産法を研究している宮脇正晴は言う。デジタルゲームの歴史はまだ浅いが、この数十年でデジタルゲームをめぐって様々な法解釈上の論点が現れてきている。「パックマン」が著作権法の「映画の著作物」に当たることを認めた判例も、研究者の間ではよく知られている。

インベーダーゲームに代表されるように、当時はゲーム喫茶などに置かれたゲーム台で遊ぶのが一般的で、「パックマン」もそうしたゲームの一つだった。「パックマン」を巡る裁判は、違法に複製された「パックマン」のゲーム台を置いていたゲーム喫茶をゲームメーカーが訴えたことから起こった。「『スペース・インベーダー・パートⅡ事件』で認められたのは、実は著作権法の複製権侵害でした。しかしこれでは複製されたゲーム台を置いていたとしても、店を権利侵害に問うことはできません。ゲーム喫茶が複製したわけではないからです。この裁判では、ゲームを著作権法上の『映画』とすることで、『パックマン』を違法に複製した基盤を組み込んだゲーム台で遊ばせる行為が『上映権』の侵害と判断されました」。著作権法上の映画は本来、劇場用映画を念頭に定められたものだが、この裁判ではそれをゲームに適用することが認められた。「これ以降、画面に出力されている動画はすべて『映画』とする理解が定着していきました」

では中古ゲームソフトに関わる著作権はどうか。ゲームメーカーが、中古ゲーム販売業者を訴えた裁判があった。「劇場用映画の場合、複製物の譲渡や貸与をコントロールする映画固有の権利として『頒布権』が認められています。映画は伝統的には少数のフィルムが上映のために映画館を転々と流通するという流通形態を持っているためです。もしゲームを映画の著作物とするなら、これにも『頒布権』が認められ、複製しても良いということになります。しかし最高裁の判断は、伝統的な映画の複製物の流通形態では無く、ゲームの複製物は個人や少人数が楽しむことを前提に大量の複製物が流通するというものであることから、中古販売は頒布権の侵害にはあたらないというものでした。中古CDや古本の販売と同じような流通形態のものは侵害にしないという趣旨です」

デジタルゲームが登場して間もない頃は、ゲームメーカーが海賊版製造業者を訴えるケースが主だったが、近年はゲームメーカー同士が争うケースが目立つようになってきたという。とりわけ多いのが、既存のゲームの中でヒットしたゲームの表現を「真似ている」として、先にゲームを作った側が訴えを起こすケースだ。

「この場合、原告ゲームと被告ゲームに共通する部分が同種のゲームでは当たり前のありふれたものであれば、著作権侵害には当たりません」。本来は権利侵害を訴えた原告側が、被告が真似たとする部分が原告ゲーム独自のものであると証明する必要がある。しかし「他に似ているものはない」という証拠を示すのは難しいため、裁判では多くの場合、被告が過去のゲームから「ありふれたものである」という証拠を示さなければならなくなる。いずれにしても過去の膨大なゲームを調べるのは非常に難しく、もし見つけられたとしても、それが古いゲームの場合、証拠となる資料を入手するのはさらに困難になる。

こうした問題は特許を巡っても起こるという。「ゲームのシステムや機能に関する発明の場合、それが『過去のゲームにない』ことを確かめる必要がありますが、これも簡単ではありません。たとえ特許庁の審査官がゲームに詳しく『そういうゲームは過去にもあったのではないか』と思ったとしても、多くの場合、それを証明する証拠を見つけることはできないからです」。そもそもゲームを見つけるのが難しい上に、ゲームの内容に関わる情報は説明書などにも詳しく掲載されていないため、ゲーム雑誌や攻略本まで探す必要がある。限られた時間や労力でそれらを見つけ出すのはほとんど不可能に近いだろう。

その結果、その後のゲーム制作や普及を不必要に妨げるような望ましくない特許が成立してしまうことがある。「法学者として、それを防ぐような法解釈を提示していかなければならないと考えています」と宮脇は語る。

また宮脇はゲームの分野における日本で唯一の学術機関、立命館大学ゲーム研究センターの一員でもある。本研究センターでは、ゲーム機やゲームソフト、説明書、ゲーム雑誌などゲームに関するあらゆる資料のアーカイブを進めている。「資料について情報発信する際、著作権保護の観点から、ゲームの映像やパッケージ画像などをどの程度まで公開していいものかについては、まだ認識が定まっていません。本研究センターが先駆けてそのモデルを示していきたいと考えています」。ここにも宮脇の研究知見が生かされることになる。

宮脇 正晴MIYAWAKI Masaharu

法学部 教授
研究テーマ

商標法、不正競争防止法、著作権法、特許法、意匠法、不法行為法

専門分野

知的財産法、不正競争法