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  • ISSUE 22:
  • 観光/ツーリズム

観光地域づくりに不可欠なマネジメントとは?

スイス・ツェルマットに見る、観光振興を担うDMOの役割

牧田 正裕経営管理研究科 教授

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地域で持続可能な観光ビジネスを成立させるためには、財源を確保し、それを活用する仕組みの整備が欠かせない。牧田正裕は国内外の事例研究から、そのための知見を提供している。

いかに財源を確保するか観光地が直面する課題

大分県別府市にある別府温泉は、「別府八湯」といわれる8つの温泉地からなり、湧出量・泉源数ともに日本一を誇る温泉観光地として、国内はもとより海外からも多くの観光客が訪れる。しかし今日に至るまでには、長期にわたる低迷期があった。活気を取り戻したのは、1990年代以降、温泉地再生に向け、まちづくり活動が活発化してからだった。「別府八湯ウォーク」や別府八湯温泉泊覧会「ハットウ・オンパク」、アートプロジェクトなど、地域資源を生かしたさまざまな取り組みとともに地域を再生してきた。

会計やサービスマネジメントを専門とする牧田正裕は、研究と実践の両面でそうした別府のコミュニティビジネスの活性化やまちづくりを支援してきた。その経験から「地域をマネジメントする時、まず直面するのが、どうやって財源を確保するかという問題です。とりわけ日本では、地域で観光ビジネスを成り立たせる仕組みが十分確立されていません」と、問題提起する。

例えば温泉や食、美しい景色、名所・旧跡など他にはない「稀少性」を目的に、観光客はその地を訪れる。本来なら地域の自治体や事業者は、その稀少性から生み出される付加価値の分だけ高い対価、超過利潤(レント)を観光客から得てしかるべきだ。そうして地域にもたらされた利潤が、観光資源の保全や活用に還元されることで、持続可能な観光ビジネスが成り立っていく。「ところが日本では、さまざまな観光サービスが無料(タダ)であることが当たり前だと見なされ、地域の稀少な資源に対して応分の対価を払うという考え方が、なかなか浸透していない」と言う。

事業者、滞在者が納税
それを財源に観光サービスを充実

牧田は、観光ビジネスの先進的な事例として、スイスでフィールド調査を行っている。一例として挙げるのが、アルプス山脈の一峰マッターホルンの山麓にあり、スキーリゾートとして知られるツェルマットである。

牧田によると、このゲマインデ(自治体)では、観光促進税と宿泊税(滞在税)の、観光にまつわる2種類の税が徴収されているという。観光促進税は、ツェルマットで観光産業に関わる事業者すべてに課せられる。その対象は、宿泊業から飲食業、さらに金融業にいたるまで、あらゆる産業に及んでいる。一方、ツェルマットを訪れる旅行者などが宿泊施設を通じて納めるのが、宿泊税だ。「興味深いのは、これらの税は、ゲマインデ(自治体)にではなく、ツェルマット観光局というDMOのもとに直接集められることです」と牧田。DMO(Destination Marketing/Management Organization)は、日本では「観光地域づくり法人」と称され、観光地の宣伝や誘客などに取り組む組織のことを指す。「ツェルマットでは、観光を享受する観光客、そして観光資源のおかげで利益を得る事業者から対価を徴収し、それを財源として、DMOがさまざまな観光サービスの充実や観光振興の舵取りを担う仕組みが確立されています」

スキーリゾートとして知られるツェルマット
ツェルマット観光局 Daniel Lagen 局長と

地域の合意形成に期待されるDMOの役割

日本でも、地域によっては入湯税や宿泊税を導入している自治体がある。それに加えて重要なのが、DMO(観光地域づくり法人)が有効に機能することだと牧田は指摘する。「どうやって地域の観光資源を保全するか、あるいは観光地の魅力を高め、来訪者に満足してもらうためにどのような取り組みが必要か。ホテル・旅館業界、交通機関、飲食・小売業界など、観光に関わる多様な関係者と議論し、合意形成を図る。DMOにはその役割を果たすことが求められます」

牧田は日本におけるモデルケースとして、別府と並んで屈指の温泉観光地である由布院温泉を事例に挙げた。ここでの「由布院」とは、旧湯布院町の3つの温泉地である「湯平」「由布院」「塚原」のうちの「由布院」であり、「盆地としての由布院」を指す。「この地域では戦後、盆地全体を湖底に沈める由布院盆地ダム計画が突如持ち込まれるなど、町のそのものが存亡の危機に立たされたという背景から、50年以上も前から地域の人々が自らの地域をどうしていくかを考え、議論するインフォーマルな場がつくられてきました」と言う。1960年代後半以降、滞在型の健康保養地づくりを進める構想が生まれ、「明日の由布院を考える会」などの活動の中から地域独自の試みが行われるようになっていく。こうした経過を経て、地域の自然環境や景観を生かした滞在型観光地・由布院がかたちづくられてきた。

「しかし日本各地の観光地で、同じことを実践するのは、容易ではありません。地方では、地域の住民や事業者が自分の地域のことを自分たちで決められないという状況に陥っているからです」と牧田。バブル経済の崩壊以降、地域が活力を失う中で、海外のファンドを含め地域外から大資本が次々に地方に進出した。その結果、地元の関係者が同じ問題意識を持って議論し、合意形成を図ることが難しくなってしまったという。「その中で多様な関係者が地域の方向性やビジョンを自分たちで考え、つくっていくための基盤となり得るのが、DMOです」と解説する。

コロナ禍を経て、再びインバウンドが増加している。「日本の津々浦々までその恩恵を受けるためには、観光ビジネスを成立させる仕組みの整備が欠かせません」と強調した牧田。「海外を含め、参考となる事例を調査するとともに、そこから得た知見・教訓を日本の地域振興に生かすべく、研究を続けていきます」と結んだ。

牧田 正裕MAKITA Masahiro

経営管理研究科 教授
研究テーマ

1. 各国におけるコーポレートガバナンスの動向に関する理論研究
2. 観光地域づくりに関する研究
3. 会計制度・会計実務の国際比較

専門分野

観光学、経営学、会計学