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大塩 量平 先生(経済学部)

2023.05.01


『ガルシア=マルケス「東欧」を行く』
G・ガルシア=マルケス著(新潮社、2018年)

世界を旅した記録は古今東西、無数にある。本書はその中で群を抜く作品だろう。著者ガルシア=マルケスは小説家としても名高いジャーナリストで、社会や人間を鋭く見つめ、読み手をさりげなく引き込む一流の語りで読み手に訴えてくる。冷戦初期の1957年、彼は共産圏諸国を旅した。国家のしくみが様々であれば、日常生活も各国多様だ。このルポルタージュを読むと、豊かさとは何か、人が生きるのに大切なことは何か、考えさせられる。

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『アウステルリッツ』
W・G・ゼーバルト著(白水社、2020年)

独特の雰囲気が漂う。改行なく文字が詰まったこの分厚い本は、時おり淡く印象深い写真が挿入された言葉の折り詰めのよう。小説とも歴史書ともつかない本書が描き出すのは、ナチス期のユダヤ人一家の運命である。自分のルーツを知らず生きてきたイギリス人歴史家が、両親の足跡を欧州各地に見てその面影を語る。静謐で濃密なゼーバルトの格調高い文体は一種異様だが、それを読むことで欧州の重い過去を「体感」する感覚にとらわれる。

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『モーツァルト家のキャリア教育』
久保田慶一著(アルテスパブリッシング、2014年)

モーツァルトは常人が及ばぬ訓練と勉強を重ね才能を開花させた。それを「プロデュース」したのは父レオポルト。実は彼も相当な才能と努力の人だった。個人の能力より身分や家業が大切な基準だった封建社会が崩れかけた当時、父は処世術を身につけ自己実現を成し遂げた。そんな父に育てられたヴォルフガングは自分の能力を活かそうと、父の理解を超えていく。著者は音楽学者であり心理学者。親子の葛藤と父の想いを手紙から読み解く。

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『ハーメルンの笛吹き男』
阿部謹也著(筑摩書房、1988年)

日本でもなじみ深いこの昔話は、中世ドイツの不思議な事実に基づく。その背後に壮大なヨーロッパ社会の歴史的変動を見抜いたのが著者だった。彼は日本の社会経済史研究を牽引した人物だが、単に経済史の実証分析に優れただけでなく、社会の変化に翻弄された人々の心に寄り添うのも忘れない歴史家だ。僅かな史料をもとに、空想を差し挟まず歴史学的に人間を描くのは至難の技だが、それができる著者は、驚くべき解釈を語りはじめる。

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