崎山 治男 先生(産業社会学部)
2023.07.03
『管理される心:感情が商品になるとき』
A.R.ホックシールド著 ; 石川准, 室伏亜希訳(世界思想社、2000年)
サービス産業化の進展の中で労働者が犠牲にするものは何か?ホクシールドはサービス産業における労働者の精神だと答える。顧客への対応に際してその職務にふさわしい感情をむりやり演じる「感情労働」こそ新しい疎外形態だと描く。そして、感情労働は行っている職種によるジェンダーの偏り、並びに家庭内での感情教育と密接な関係をもっており、サービス産業の労働者が「自然に」持っている能力が利用されるからこそ、見えにくい不払い労働になっていることを解く。
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『タイム・バインド : 時間の板挟み状態 : 働く母親のワークライフバランス : 仕事・家庭・子どもをめぐる真実』
アーリー・ラッセル・ホックシールド著 ; 坂口緑, 中野聡子, 両角道代訳(明石書房、2012年)
感情労働には、定義にもよるが職場での職務上の感情労働もあるが、他方では家庭での介護・家事のそれもある。では、どちらに人は惹かれ、やりがいを感じるのか。伝統的に家族社会学は職場=ストレスであり、家庭生活を安息の場としてきた。しかし、特にアッパークラスのカップルの場合にはそれは異なるのだ、とホックシールドは指摘する。職場での感情労働は部下のサポートもあり、また周囲から職務評価としてかえってくる。他方、家庭でのそれはサポートがなく、お互いの分担の押し付け合いになったり、時間も取られたりする上で必ずしも感謝されるわけではない。ここで、職場での感情労働をプラスに感じ、家事をマイナスに捉える「職場と家庭の逆転現象」が生じるのが現代だと説く。
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『ハマータウンの野郎ども』
ポール・ウィリス著 ; 熊沢誠, 山田潤訳(筑摩書房、1996年)
下層の労働者たちが学校文化などに反抗することがもたらす意味は何か。ウィリスは階層の再生産だと答える。彼はイギリスの典型的な労働者の町「ハマータウン」の「落ちこぼれ」の中学生の日常と卒後進路を丁寧に描きながらこのパラドクスの分析を試みる。学校文化に馴染み受験競争に励む「耳穴っ子」(優等生)を女々しいとみなし、肉体労働に従事することに「男らしさ」を見いだし、学校を拒絶する。そのことによって下層の労働者たちは自ら進んでブルーカラー下層の仕事に就いていく。
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『魂を統治する:私的な自己の形成』
ニコラス・ローズ著(以文社、2016年)
20世紀の心理学的諸科学の発展は何を意味するのか?ローズは心理的諸科学に沿った「心=魂」を持つ主体の形成と統治であると説く。戦時技術として発展した心理的諸科学は戦後になり労働、家庭等々のさまざまな分野に進出する中で、例えば労働という面では「やりがい」と心理的報酬を求める主体を作り上げていった。このように心理学的諸科学の知の普及により、それが自己の「正しさ」を計る審級と化す中で、自己並びに社会の統治に寄与してきたことが指摘される。
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『摂食障害の語り:「回復」の臨床社会学』
中村英代著(新曜社、2011年)
過食、拒食、嘔吐に見られるような摂食障害はなぜ生じ、どのようにしたら回復するのか?この本では精神医学的な見方やジェンダーという切り口ではなく、自己をコントロールする際の認識のエラーであることがデギンズやベイトソンの理論を元に描かれている。「痩せたいからダイエットする」のではなく「ダイエットするからもっと痩せたくなる」という例に見られるように、自己の身体を過剰にコントロールしようとする際の認識の錯誤こそが摂食障害の本質であり、その誤った認識からの回復のプロセスが丁寧に描かれている。
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