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  • ISSUE 13:
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災害から命を救う安全安心マップで防災教育・研究

安全安心マップ作成を取り入れた防災教育の実践研究を通じて、人と地域のつながりを強め防災に貢献する。

村中 亮夫文学部 准教授

石田 優子理工学研究科 授業担当講師(衣笠総合研究機構 客員研究員)

    sdgs11|

2019年8月から9月末にかけて立命館大学歴史都市防災研究所が主催する「みんなでつくる地域の安全安心マップコンテスト」の募集が行われ、10月には入選した10作品を作った小学生たちが表彰を受けた。

2007年から毎年開催されている同コンテストは、子どもと大人が一緒になって身近な地域を歩き危険箇所についての情報を集め、その情報を地図化する作業を通して、防災・防犯・事故防止など、安全安心に対する意識を高めてもらうことを目的にしている。コンテストを通じて、地域の安全安心まちづくりに貢献するとともに、地域に受け継がれている文化遺産を守ることにつなげる狙いがある。そのために応募対象を次世代を担う小学生としており、保護者や地域の大人も調査に関わることを義務付けている。

特色は、防災一色ではないところ。地域の安全や安心に関わることであれば調査対象は何でも構わない。毎年、応募には子どもの自由で柔軟な発想やユニークな着眼点で生み出された力作が揃う。丹念な調査に基づいて、地図表現に創意工夫が凝らされた作品が、国土地理院主催の「全国児童生徒地図優秀作品展」に推薦され、ここ数年では毎年、国土交通大臣賞や奨励賞を受賞している。

「自然災害や事故、犯罪などの危険から身を守るためには、身近な地域をよく知る必要があります。地域に潜む危険について自ら歩いて調べる活動は、安全安心に対する関心を高めることに寄与することが既存研究でも報告されています。この知見を踏まえ、子どもが学校の教員や保護者などの大人と一緒に楽しく取り組める安全安心マップ作りのコンテストを企画しました」と語るのはコンテストの運営を務める村中亮夫だ。

道後安全マップ
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イノシシ出没MAP
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小学生たちが作った「みんなでつくる地域の安全安心マップコンテスト」入選作品から。子どものユニークな着眼点と歩いて集めた情報が地図化されている。

村中は人文地理学、地理情報科学を専門とし、地理学的な視点で持続可能な社会のための防災や環境保全を研究している。その一環として力を注いでいるのが、地域や学校でのまち歩きとマップ作成活動を取り入れた防災教育だ。これまで水害・土砂災害に着目し、京都府亀岡市篠町における住民の被災経験やリスク認知を記載した防災マップ作成活動や、京都府立南丹高校の生徒向けに高校地理の学習内容を応用するマップ作成を通じた防災教育プログラムを開発・実践するなど多くの実践研究を重ねてきた。

最近の研究では、防災の意識や行動を促す有効な手だてとして、災害リスクへの注意喚起だけでなく地域に対する愛着を育む重要性にも注目している。北海道石狩市浜益区で住民を対象に実施した安全安心マップ作成ワークショップもその一つだ。村中はマップの作成活動を住民の自助・共助活動へとつなげることを目指し、地理学的な立場から水害・土砂災害に関するワークショップを実施した。

村中によると浜益区は、浜益川の河口部付近に形成された沖積低地(ちゅうせきていち)を中心とする氾濫原とその周囲に生活域が広がっており、水害・土砂災害リスクの高い地域だという。ワークショップでは、こうした地理的な特性をふまえて水害・土砂災害の危険のあるポイントを記載した「川下編」と「柏木編」に加え、自然や名所、特産品の栽培地域といった地域の「魅力」を記載した「魅力編」の3つの防災マップが作られた。

とりわけ「魅力編」の作成によって浮き彫りになったのが、それまで見えなかった地域の魅力と災害リスクとの関連だった。「住民から魅力ポイントに挙げられた、特産の米やメロンが栽培される農地は上流から栄養分のある土が運ばれてくる沖積低地にあり、農業用水も得やすいと同時に水害リスクの高いエリアでもあります。しかし私たちの調査では、こうした地域の魅力と災害リスクとの関連を意識している住民はほとんどいませんでした。地域社会において災害に対する脆弱性を軽減するためには、地域の災害特性を理解するだけでなく、地域の魅力となっている自然や環境とどうつき合うかも考える必要があるといえます」と村中は言う。

「歴史文化都市、文化遺産の防災を主軸に分野の垣根を超えて研究者が連携できるのが立命館大学歴史都市防災研究所の強みの一つです」と村中。「地域の安全安心マップコンテスト」の運営にともに携わっている石田優子も「人文社会系、理系の研究者ら、さらにスタッフと、運営はさまざまなマンパワーに支えられています」と語る。

石田は地盤工学を専門に、文化遺産や観光客を土砂災害から守るための災害発生予測や情報提供、リスクマネジメントを研究している。地域の小学校などで実施する防災出張授業では、安全安心マップの作成を取り入れた授業だけではなく、石田が開発した簡易型斜面変状感知器の製作に小学生が挑戦する授業の準備も進めている。

村中と石田は現在、共同で新たな実践研究にも取り組んでいる。これまで希望する団体に対して安全安心マップの作り方を講習する「出張防災授業」も併せて実施してきた。広島県福山市にある小学校から要請を受けたことを契機に取り組んでいるのが、防災教育の教材開発だ。「どのようなコンテンツを入れるのがふさわしいか、地理学と地盤工学のそれぞれの観点から意見を出し合い、検討を重ねています」と石田。さらには学校の教員が自ら防災教育を実施できるように、防災マップ作成活動に関する教師向け解説ガイドも作成した。

研究を通じて得た知見が災害に負けない持続可能な社会の実現に役立つことはもちろん、教育実践が一人でも多くの命を救うことにつながる。子ども、地域の大人、研究所が連携して防災教育を推進できる仕組みを開発、提供、指導することで一層の社会貢献を果たそうと、村中と石田はともにさらなる一歩を踏み出した。

南海トラフ地しんのひなん路
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わたしたちの安全安心ぼうはんマップ
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私の町の安全マップ
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立命館大学 歴史都市防災研究所

Institute of Disaster Mitigation for Urban Cultural Heritage, Ritsumeikan University

立命館大学歴史都市防災研究所は、先人から受け継いだ歴史都市・文化遺産を災害から守ることを目的に、人文社会科学分野と理工学分野の複合領域である「文化遺産防災学」の教育・研究を推進しています。人命とともに文化遺産を災害から守るための基礎研究に取り組むとともに、それらの研究成果を実社会における防災活動・政策へ応用するために、関係する様々な分野の研究者や機関と連携して研究活動を行っています。

立命館大学 歴史都市防災研究所
みんなで作る地域の安全安心マップコンテスト

村中 亮夫MURANAKA Akio

文学部 准教授
研究テーマ

持続可能な社会のための災害文化・防災教育に関する地理学的研究、地理情報システム(GIS)と空間分析を用いた環境経済評価に関する研究、地理学における社会調査の可能性と課題に関する研究

専門分野

人文地理学、地理情報科学、環境・災害研究

石田 優子ISHIDA Yuko

理工学研究科 授業担当講師(衣笠総合研究機構 客員研究員)
研究テーマ

文化遺産周辺の災害危険評価、地盤の変状把握と可視化・防災対策に関する研究、観光客のための観光防災情報提供システム、防災教育コンテンツ開発等

専門分野

文化遺産防災学、地盤工学